12話 庇護から協力へ
「まぁ、魔導塔が彼女の能力を見逃した理由はどうでもいいか。次に――」
「いやいやよくないだろ!」
「……ここでそれを考えても始まらないでしょう。彼女の魔術を知っていれば手放さなかったでしょうし、魔導塔はそのことを知らないと考えて動いていいでしょう」
「いや、そうじゃなくて……」
「団長、私は忙しいんです」
といった具合に、この話題はリシャルドによって終結させられた。
後日、杏とカミルで話し、魔導塔が早く「強力な異世界人の魔法」を欲しがった事、杏の魔法の習得速度が早く基礎を飛ばしても大丈夫だと思われた事が原因だろう、と自分達を納得させた。
「……それで、聞いた話によると、彼女の魔法の事で何かわかったら報告するように、と魔導塔から言われているんですよね?」
リシャルドの言葉に、杏とカミルが頷く。
「…………報告しろって言われたのは『魔法』だし、これは報告しなくても……」
「団長、それは駄目です」
ジークベルトがそう言ったのと同時に、「いや……」とリシャルドが呟く。
「そもそも彼女の魔術の事を知らなかったことにする。今後も彼女に魔術は使わせない。という手もあるにはあるが……」
と独りごちるリシャルド。
そういう手もあるのか、と杏は納得したが、直後に別の考えが頭に浮かんでくる。
自分の為だけなら、リシャルドの今の案が最適解だろう。けれど、それでは自分をここまで連れてきてくれたカミル達に何も返せないではないか。
自分が砦でできることがあるだろうかと不安になった時、彼はできることをしてくれればそれでいいと言ってくれたが――。
そんな杏の考えをジークベルトの言葉が遮った。
「副団長、何をおっしゃるのですか! 先程の報告、よくよく聞くと二十秒程で傷が治ったと言うではないですか。本来ならば三十秒かかる傷を、初めて作った万能回復薬で……!」
声を荒らげるジークベルトをリシャルドが手で制する。
「すまない。可能性の一つを言っただけだ。儂もこの手は避けたい。だが――」
リシャルドは視線を杏に移し、そしてカミルへと移した。
リシャルドにつられ、杏もカミルへと視線を移す。
「団長……?」
カミルは、口を引き結んで何かを堪えているような顔をしていた。
「すまない」
カミルが呟き、杏の正面に移動する。
「誓って、最初は本当に君をあそこから連れ出したいと思っただけなんだ。昔の自分を見ているようで、ついそうしてしまった」
カミルはその後、視線をずらし「けれど、状況が変わってしまった」と言った。
そして彼は、射貫くような視線を杏へ向ける。
「義勇軍団長として、君に――貴方に、お願いをしたい。どうか、我が軍に力を貸してほしい」
カミルが頭を下げ、リシャルドやジークベルトもそれに続く。
「君の性格上、こうして頼まれたら断りづらいだろうという事もわかっている。すまない。けれど、君がいれば、君のその魔術があれば、兵達の負担を少しでも軽くしてやれるかもしれない。もちろん、君の事も全力で守ろう」
カミルの言葉通り、軍の上役三名に頭を下げられて断ることなんてできるわけがない。
けれど――。
「勢いで来てしまった形ではありますが、私、王宮から出られた事、本当に感謝しているんです。だから、私にできる事なら、皆さんに協力させてください」
言わされたような感覚が全くないわけではない。
けれど王宮に戻るよりはずっと良いだろうと、そう思ったのだ。
――――――
「さて、では彼女の魔術をどう報告するか考えなければいけませんね」
嬉しさのあまり杏に抱きついたカミルを引き剥がして、ジークベルトは仕切り直すための言葉を言った。
「う~ん、幸いな事にこれから雪で峠越えが難しくなるし、それを理由に報告を春まで遅らせるか? その間にどう報告するか考えればいい」
カミルのその発言に、リシャルドとジークベルトは考える。
しばらくして、リシャルドが口を開いた。
「魔導塔……いや、実質王宮相手の対応になる。ヘンリクやユゼフに意見を聞きたいですね。後で呼びましょう」
「報告の早さを最優先にした場合、数日以内に出発する可能性もありますよね?」
「あぁ、あり得るだろう」
「では、私は今からお二人にさわりだけでも説明してきます。団長、よろしいでしょうか?」
カミルが「頼んだ」と言うと、ジークベルトはリシャルドの私室を後にした。
「報告に関しては二人に任せるとして、……次は仕事か」
リシャルドは顎に手をやりながら杏を見る。
杏は、リシャルドの発言がいつの間にか「意見を聞く」から「任せる」に変わっていた事に気づいたが、つっこめる間柄ではないので黙っておいた。
「当面は、儂の下で今日やったような事を繰り返してもらおう。まだ試していない種類もあるし、再現性があるかどうかも確認したい。あぁ、それと、本格的な冬が来る前に覚えてもらいたい仕事がある」
「冬の前に、ですか。それはどういった仕事ですか?」
「それは――」
――――――
翌日、杏は何故か書庫で空のバケツを持って立っていた。




