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11話 「なんかヤバい速さでヤバいんですけど!?」

 薬草茶、干し果物、乾燥した草、割れた石、肉入りの湯、干し肉――。

 机の上には、杏がリシャルドの言われるがままに魔力を通した成果物の数々が並んでいる。

 最初は、自分が探知機能のある物を身につけさせられていた、という事実を飲み込む時間が欲しいと思った。

 けれど、集中して魔力を流しているうちに心が落ち着いてきたので、これはこれで良かったのかもしれない。


「なんだこれは。植物に限り、反応が異常だ。速度――いや、増幅速度が異常なのか? 元々個人により速度や増幅効果には差があるものだが……」


 リシャルドは、先程からずっと一人呟いている。

 杏達はリシャルドの意識がこちらに向くのを待っているが、その時は一向に訪れない。

 

 しまいには、腕を組んで足先で床を叩いていたカミルがリシャルドに話しかけた。


「なぁリシャルド、何かわかった事があるなら教えてくれよ」

「……何もわかりません」

「さっきからずっと一人でブツブツ言ってるだけじゃないか。何でもいいから……」


 リシャルドは小さなため息を吐き、杏達に向き直る。

 彼は「あくまで考察ですが……」と前置きをしてから話し出した。


「例えば、植物を水等に入れた状態で魔力を流すと、より早く植物の成分を水に移すことができます。更に魔力を通した場合、自然に成分を抽出した場合に比べて、効能が増す事がわかっています。ここまではいいですか?」


 と、リシャルドは杏を見た。

 杏は頷く。


「ユゼフ殿は、技官殿はその速度及び増幅率が高いのでは、とおっしゃっていましたね」


 リシャルドはジークベルトの言葉に頷く。


「本当に速度が速いのかはわかりませんが、増幅率が高いのは確かそうですな」


 その言葉に、杏は先程、リシャルドに命令されて実験をしてきた彼の護衛のことを思い出す。

 リシャルドに言われるがままに作った物の中に、万能回復薬というなんとも凄そうな名前の物があった。

 不死草というこれまた凄い効能のありそうな名前の草を湯に入れて、魔力を通すことで出来上がったそれをリシャルドが護衛に持たせ、「草羊で試してこい」と部屋の前から追いやった。

 しばらくしてその護衛は驚愕の表情を浮かべながら戻ってきて、「なんかヤバい速さでヤバいんですけど!?」と叫んだのだった。

 草羊とは砦の壁沿いにいた羊達のことだろうかと思ったが、その疑問は護衛の反応にかき消されてしまった。


「ただ、わからないのが、それが植物素材のみに起こるということですな。植物系の反応は異常なのに、鉱石や肉となると並……」

「魔法と違い、魔術は素材毎の差が出にくいですからね」


 考え込むリシャルドとジークベルトに、カミルが話しかける。


「やっぱりこれは、ロルフが言った通り、彼女が異世界人だからだと思うか?」

「……どうでしょうね」


 リシャルドは頭を乱雑に掻く。


「異世界人どうこう関係なく我々の知らない未知の技術かもしれませんし、逆に異世界人の伝承が間違って伝わっていたのかもしれません」

「なんだよ、ハッキリしないな」

「ハッキリさせたいならもっと異世界人を連れてきてください」

「無茶言うなよ!」


 カミルの言葉を聞き流し、リシャルドは顎に手をやる。


「しかし、王宮……いや魔導塔か。奴らがこれを見落とすとは……。アン、お前はどういう教育を受けた?」


 探知機能付きのピアス、自分の能力の朧げな実態、ここで自分ができる事。

 杏はそれらを脳内で整理していたので、リシャルドの問いかけへの反応が少し遅れた。


「あっ、すみません。魔導の教育ですね……」


 杏は思い出しながら話し出す。


「まず、光石を渡されて魔力を流す練習をしました。安定して魔力を流せるようになった頃、一度魔力測定をして、魔法の練習に移りました」

「そこまでに何日かかった?」

「確か……三日です。その後、魔法の練習を。一ヶ月かけても全く上達しませんでしたが」


 杏は乾いた声で笑った。

 リシャルドが「一番得意なものでいいから、実際にやってみろ」と言うので、杏は意識を集中させて、掌に水球を作り出す。

 その水球は、やはりリンゴ程の大きさになると、途端に不安定になりそのまま床へ溢れた。


 すると今度は、その床に溢れた水が一つの球になり、宙へ浮かぶ。

 もちろん杏の力ではない。

 リシャルドがその水球を見つめ、視線を窓の外に移す。

 するとその水球は視線に誘導されるように窓の外へ移動し、下に落ちていった。


「一ヶ月か……」

「……はい、すみません。始めて一週間くらいまでは順調だったんですけど、その後全然……」

「えっ、一週間!?」


 カミルが大声を出し、杏は肩を跳ねさせ彼を見る。


「凄いじゃないか! なぁ、そうだろ? リシャルド、ジーク!」

 

 カミルの賞賛に、杏は戸惑いながらリシャルドとジークベルトに視線を移す。


「す、凄いんでしょうか? 平均がよくわからなくて……」

「私の場合、魔法の練習を始めてそのレベルに達するまで、二週間ほどかかりました。平均は……三週間ほどでしょうか?」


 と、ジークベルトがリシャルドに尋ねる。


「まぁ、貴族社会ならそんなものか。アン、お前の世界に魔導のような物はあるのか?」

「いえ、ありません」

「そうか……」


 リシャルドは顎に手をやった。


「ならば、一週間でそこまで伸びる、というのは十分賞賛に値する」


 まだ会って間もないが、お世辞を言いそうにないリシャルドのその言葉に、杏は胸が締め付けられる思いだった。

 カミルも褒めてくれてそれも嬉しかったが、リシャルドのような人間が発した言葉だからこそ、心の底から受け止められたのだ。


「でも、なんで、途中で上手くいかなくなってしまったんでしょう……」

「それは…………お前が大器晩成型なんだろう。……おそらく」


 婉曲表現をしなさそうなリシャルドの言葉を選んだような発言に、杏は傷ついた。

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