第4章・第6話 自由の国
下級コラプト討伐から翌日。
アルはクウを肩に乗せながら王都シルヴァレイアを歩いていた。
断崖に築かれた街並み。
高く伸びる塔。
それらを繋ぐ無数の吊橋。
オルニスの景色は今まで訪れた国とはまるで違っていた。
「どう?」
声が聞こえた。
振り返ると、シルフィードが橋の手すりの上に立っている。
「危なくないんですか?」
「全然」
「落ちたら終わりですよね」
「落ちなければ平気」
「その理屈で大丈夫なら事故なんてありませんよ」
「細かいなー」
シルフィードは楽しそうに笑った。
「アルって真面目だよね」
「普通だと思います」
「オルニスだと真面目」
「そうなんですか」
「そうなの」
アルは少しだけため息をついた。
まだ出会って数日なのに、この人の性格はだいぶ分かってきた気がする。
自由。
その一言がよく似合う人だった。
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二人は市場へ向かう。
果実を運ぶ商人。
香草を並べる店主。
高所で作業する職人達。
街全体が忙しく動いている。
それなのにどこか余裕があった。
「不思議ですね」
アルが呟く。
「何が?」
「皆好き勝手やっているように見えるのに」
「ちゃんと街として成立していることです」
シルフィードは少し考えた。
そして空を見上げる。
「それがオルニスだから」
「自由だからですか?」
「半分正解」
アルは首を傾げた。
シルフィードは続ける。
「自由ってね」
「好き勝手することじゃないんだよ」
意外な言葉だった。
「好きな道を選ぶ」
「好きな場所へ行く」
「好きな生き方を選ぶ」
「でも選んだ結果は全部自分で背負う」
風が吹く。
市場を抜ける風が二人の髪を揺らした。
「失敗しても自分」
「成功しても自分」
「だから自由」
アルは少し考える。
そして言った。
「意外でした」
「何が?」
「ちゃんと考えてたんですね」
シルフィードが固まった。
「今失礼だったよね?」
「少しだけです」
「少しじゃないと思うなー」
「普段の行動を見直してください」
「それは嫌」
「即答ですか」
『くうー♪』
クウが肩の上で震える。
「クウまで笑わないでください」
『くうっ!』
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その時だった。
ゴォォォォン―――
重い鐘の音が響いた。
市場の空気が一変する。
人々が一斉に空を見上げた。
兵士達が動き始める。
「警戒鐘ですか?」
アルが尋ねる。
シルフィードから笑顔が消えた。
「またか……」
「最近多いんですか?」
「うん」
彼女は遠くの空を見つめる。
「前はこんなことなかった」
「最近になって急に増えた」
アルも視線を向けた。
雲の向こう。
遥か彼方。
黒い影が一瞬だけ見えた。
巨大な鳥のような姿。
だが明らかに異質だった。
次の瞬間には雲の中へ消える。
「今のは……」
「たぶんコラプト」
シルフィードは静かに答えた。
「この国の空」
「少しずつ壊れ始めてる」
自由の国。
風の国。
可能性の国。
だが今、その空に異変が広がり始めていた。




