第3章・第17話 地下広場遭遇戦
地下水路深部。
巨大水門を越えた先。
そこは。
古代遺跡のような巨大地下空間だった。
広大な石造広場。
幾重にも伸びる古代水路。
中央を流れる黒く濁った水。
そして。
天井近くまで伸びる巨大柱。
まるで。
地下都市。
アル達は慎重に足を進めていた。
周囲には、
既に倒されたコラプトの残骸が転がっている。
レイオスが槍を払う。
黒水が飛び散った。
「数が減らねぇな」
神殿護衛達も疲労を滲ませている。
だが。
ミレーナの加護によって、
辛うじて前線を維持していた。
「――アクア・エンチャント」
碧い光。
静かな水流。
荒れた呼吸が整っていく。
アルは剣を握り直した。
水の印。
最初より、
確実に馴染み始めている。
クウが肩の上で震えた。
「きゅ……」
『……ちかい』
アルが顔を上げる。
「近い……?」
その瞬間だった。
遠くから。
轟音が響く。
地下全体が揺れた。
レイオスが顔をしかめる。
「地上組か……?」
⸻
同時刻。
王城正門。
既に戦場と化していた。
崩壊した外壁。
吹き飛ぶ兵士達。
碧い水術。
飛び交う槍。
冒険者達の怒号。
その中心。
ギルド長が巨大槍を振り抜いた。
「――魚穿
(シータスペネト)!」
蒼い激流。
一直線に放たれた突撃槍。
王城門が轟音と共に吹き飛ぶ。
冒険者達が歓声を上げた。
「ギルド長!!」
「道開いたぞ!!」
ギルド長が笑う。
「派手に暴れろ!」
「今日は遠慮いらねぇ!」
魚族冒険者達が一斉に突撃する。
流槍術。
水術。
碧い術式光。
王城前広場が一気に戦場へ変わった。
王城兵達も応戦する。
だが。
冒険者側の勢いが止まらない。
「左制圧!!」
「水路側押し込め!!」
「逃がすな!!」
轟音。
水飛沫。
激突する槍。
王城正門前は、
完全な乱戦へ変わっていた。
その頃。
王城内部。
王側近達は慌ただしく動いていた。
「正門突破されます!」
「西側防衛崩壊!」
「冒険者達が内部侵入開始!」
玉座の間。
王は静かに座っていた。
その瞳は濁っている。
黒い水のような魔力が、
足元から滲み続けていた。
側近の一人が叫ぶ。
「陛下!
地下退避を!」
王はゆっくり立ち上がる。
動きは鈍い。
だが。
圧力だけは異常だった。
「……地下へ向かう」
黒い濁流が、
床を這うように広がる。
側近達が息を呑む。
既に。
王は正常ではない。
だが。
止められる者もいなかった。
⸻
王城内部通路。
王。
側近達。
王城護衛。
地下水路入口を目指し、
急ぎ足で進んでいく。
だが。
その背後では、
激しい戦闘音が響き続けていた。
「正門維持しろ!!」
「地下へ近付けるな!!」
冒険者達と王城兵が激突する。
碧い槍術。
水術。
轟音。
だが。
ギルド長は追わない。
巨大槍を肩へ担ぎながら、
静かに笑った。
「……行ったか」
冒険者の一人が叫ぶ。
「追いますか!?」
ギルド長は首を振る。
「いや」
「地下は地下組の役目だ」
巨大槍を握り直す。
「俺達は、
ここを抑える」
その瞬間。
王城兵達が再び突撃してくる。
ギルド長が笑った。
「第二ラウンドだ」
碧い水流が、
王城前へ広がった。
⸻
地下広場。
アル達は奥へ進んでいた。
その時。
クウが突然震える。
「きゅっ!!」
『……くる!!』
次の瞬間。
広場奥巨大扉が開いた。
重い轟音。
そして。
黒い水が流れ込む。
アル達が武器を構える。
その奥から現れたのは――
王。
そして。
王城側近達だった。
空気が凍る。
王側も、
アル達へ気付く。
双方が止まった。
沈黙。
最初に動いたのはレイオスだった。
槍を構える。
「……王」
王の濁った瞳が、
ゆっくりアル達を見る。
ミレーナが前へ出た。
「……陛下」
だが。
王は答えない。
黒い水が、
周囲へ滲み始めていた。
その瞬間。
側近の一人が叫ぶ。
「排除しろ!!」
次の瞬間。
王側近達が一斉に襲い掛かった。
「来ます!」
地下広場へ轟音が響く。
神殿護衛。
王城護衛。
双方入り乱れる。
激しい乱戦。
アルも剣を抜く。
碧紋章が輝いた。
「――魚閃
(シータスグリント)!」
碧い斬撃。
突撃してきた護衛兵を吹き飛ばす。
レイオスも流れるように槍を突き出す。
「――魚穿
(シータスペネト)!」
高速槍撃。
王側護衛達がまとめて崩れ落ちた。
ミレーナの加護が広がる。
「――アクア・エンチャント!」
碧い波紋。
地下広場全体へ広がる。
だが。
王側近の一人も、
黒い水術を放つ。
濁流同士が激突した。
轟音。
地下空間が激しく揺れる。
戦いは長く続かなかった。
既に。
双方限界だった。
神殿護衛達が倒れる。
王城護衛達も崩れ落ちる。
次々と戦闘不能者が広場へ倒れていった。
碧い水。
黒い濁流。
入り混じる地下広場。
やがて。
静寂が落ちる。
地下広場中央。
立っていたのは。
アル。
レイオス。
ミレーナ。
そして――王。
黒い濁流が、
静かに王の周囲を漂っていた。




