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無色と十二の旅(アルとジュウニのシルシ)  作者: Matyu
* 第三章:碧色の深層(アルのダイブ)
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第3章・第4話 揺れる海

「グォォォォォォォ!!」


咆哮と共に。


コラプト・ミスト・フィッシュが突撃する。


巨大な顎。


鋭い牙。


その巨体が、

海面を割りながら一直線に迫った。


アルは即座に跳ぶ。


轟音。


次の瞬間、

岩場が粉砕された。


水飛沫が吹き荒れる。


「速い……!」


着地と同時にアルが剣を振るう。


銀閃。


だが。


「っ!?」


斬った感触が浅い。


輪郭が揺らいだ。


霧を斬ったような違和感。


「実体がズレてる……?」


セドリックが叫ぶ。


「気を付けろ!!

奴は視界を狂わせている!!」


直後。


海面から巨大な尾が飛び出した。


轟ッ!!


アルは咄嗟に剣で受ける。


重い。


衝撃で身体ごと岩場を滑る。


「ぐっ……!」


その時だった。


景色が歪む。


海面が揺れる。


岩場の位置がズレる。


海そのものが、

揺らいで見えた。


海兵達が動揺する。


「どれが本物だ!?」


「落ちるな!!」


一人の海兵が足を踏み外しかける。


だが。


次の瞬間。


セドリックが海へ飛び込んだ。


水飛沫。


一瞬で海兵へ辿り着く。


そのまま片腕で持ち上げ、

岩場へ跳び戻った。


速い。


まるで海の中を滑っているようだった。


魚族紋章。


その力による、

圧倒的な水中機動。


セドリックは海兵を降ろすと、

鋭く叫んだ。


「幻覚に呑まれるな!!」


しかし。


コラプト・ミスト・フィッシュは再び消える。


海中。


霧。


揺れる景色。


位置が掴めない。


アルは息を整えた。


「……違う」


『キュ?』


クウが首を傾げる。


アルは海面を見つめた。


揺れる光。


霧。


反射。


何かがおかしい。


まるで。


水面そのものが、

景色をズラしているようだった。


「……鏡?」


アル自身、

なぜそんな発想になったのか分からない。


だが。


感覚が警鐘を鳴らしていた。


ただの幻覚じゃない。


光。


水。


霧。


それらを利用して、

視界を歪ませている。


「……そうか」


アルの目が鋭くなる。


「完全な幻じゃない」


セドリックが反応した。


「何?」


「海面反射です」


アルは即座に周囲を見る。


「霧と波で景色をズラしてる」


「本体は、

完全には隠れてない」


海兵達が息を呑む。


セドリックも目を細めた。


「……なるほど」


次の瞬間。


海中から巨大な影が突き上がった。


「下です!!」


アルが跳ぶ。


轟音。


岩場が砕ける。


しかし。


今度は見えた。


揺れる景色。


その奥。


本物だけが生む、

僅かな水流。


アルが踏み込む。


「はぁぁぁっ!!」


剣閃。


銀光が走る。


斬撃が巨大魚の側面を裂いた。


「グォォォォォッ!!」


咆哮。


巨大魚が暴れる。


海面が荒れ狂う。


「効いている!!」


海兵達の表情が変わる。


だが次の瞬間。


コラプト・ミスト・フィッシュの周囲から、

濃霧が噴き出した。


視界が白く染まる。


「まずい!!」


セドリックが叫ぶ。


その直後。


霧の中から、

巨大な影が現れた。


一体。


二体。


三体。


次々と増えていく。


全てが、

コラプト・ミスト・フィッシュに見える。


海兵達が青ざめた。


「増えた……!?」


違う。


幻影。


だが。


本物が分からない。


そして。


全てが同時に動いた。


「来るぞ!!」


巨大魚達が一斉に突撃する。


轟音。


海が揺れる。


海兵達が迎撃へ動こうとした瞬間。


「動かないでください!!」


アルが叫んだ。


全員が止まる。


アルは目を閉じた。


揺れる波音。


霧。


水流。


本物だけが持つ、

“重さ”。


その瞬間。


一つだけ。


波の流れが違う。


「――左!!」


アルが岩場を蹴る。


銀閃。


剣が霧を裂く。


幻影が消える。


その奥。


本物の巨体。


「そこです!!」


コラプト・ミスト・フィッシュが咆哮する。


巨大な顎が迫る。


だが。


アルは止まらない。


「クウ!!」


『キュゥゥゥ!!』


クウが跳ねる。


無色の光が剣へ走る。


アルが踏み込んだ。


「はぁぁぁぁぁぁっ!!」


一閃。


銀光が一直線に走る。


次の瞬間。


コラプト・ミスト・フィッシュの身体が止まった。


「グォ――――」


咆哮が途切れる。


その巨体に、

無数の亀裂が走った。


白く濁った肉体が、

粒子のように崩れていく。


霧。


灰。


光。


それらが海風へ溶けるように消えていった。


やがて。


後には、

静かな海だけが残る。


沈黙。


波音だけが響く。


海兵達が呆然と立ち尽くす。


やがて。


一人が震える声を漏らした。


「……倒した」


「討伐成功だ……!」


歓声が上がる。


張り詰めていた空気が、

一気に弾けた。


セドリックは静かに海を見つめる。


そして。


ゆっくりアルへ視線を向けた。


「……驚いた」


低い声。


「幻覚を看破した者など、

今までいなかった」


アルは剣を収める。


「たまたまです」


「違うな」


セドリックの目が細くなる。


「お前は、

“見えていた”」


アルは答えなかった。


ただ。


自分でも分からない。


なぜ見抜けたのか。


なぜ、

そこにいると確信できたのか。


波が静かに揺れる。


その海の奥深くで。


何かが、

微かに脈動した気がした。

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