第3章・第3話 幻海
翌朝。
アクアリオン海国・中央港。
空は晴れていた。
だが港の空気は重い。
船員達は無言で積荷を運び、
海兵達は常に海を警戒している。
活気はある。
しかし。
そこには常に、
“海への恐怖”が混じっていた。
アルは静かに海を見つめる。
『キュ……』
クウもどこか落ち着かない。
その隣で。
セドリックが海図を広げた。
「被害海域はこの周辺だ」
海図には複数の印。
沈没地点。
だが完全には一致していない。
「移動していますね」
アルが呟く。
「ああ」
セドリックは低く答えた。
「定住型ではない可能性が高い」
「海流に合わせて巡回している」
アルは静かに頷く。
「問題は戦場だ」
セドリックの声が低くなる。
「海中戦は、
この国の者ほど有利には動けない」
アルは視線を向けた。
アクアリオン海国。
魚族の紋章を持つ者は、
その力を行使する事ができる。
水中呼吸。
高い遊泳能力。
それらは海中戦において、
絶大な力を発揮する。
特にアクアリオン海国では、
魚族の紋章を持つ者が多い。
そのため海中での戦闘適性は、
他国より遥かに高かった。
「だが今回は違う」
セドリックが海図を指差す。
「相手は海中から船を破壊する」
「引きずり込まれれば、
普通の戦士では戦闘にならん」
アルは静かに頷いた。
「だから水上で迎え撃つ」
「ああ」
セドリックは海図の一点を示す。
「この先に岩礁海域がある」
「そこなら足場を確保できる」
完全な海上戦ではない。
それなら戦える。
『キュ!』
クウが小さく鳴いた。
⸻
数時間後。
小型船は外洋へ出ていた。
乗員は最小限。
アル。
セドリック。
海兵数名。
そしてクウ。
海は静かだった。
波も穏やか。
空も青い。
だが。
静かすぎた。
誰も無駄口を叩かない。
船が岩礁海域へ近づく。
海面から巨大な岩が突き出していた。
天然の足場。
そこで。
クウが突然震えた。
『……キュ』
アルの目が細くなる。
「来ます」
次の瞬間。
海面が爆発した。
轟音。
大量の海水。
そして。
巨大な白色魚が姿を現す。
異様だった。
鱗の色が抜け落ちている。
肉体の輪郭が揺らいでいた。
まるで霧。
存在そのものが霞んでいる。
海兵が叫ぶ。
「コラプト・ミスト・フィッシュ!!」
同時に。
景色が歪んだ。
海が揺れる。
岩場の位置が変わる。
船が複数見える。
空間感覚が狂う。
「幻覚か……!」
海兵達が動揺する。
「落ち着け!!」
セドリックが怒鳴る。
だが。
巨大魚の姿が消えた。
「っ!?」
横。
違う。
後ろ。
いや。
海中。
視界が定まらない。
アルは剣を抜く。
「クウ!」
『キュ!!』
クウが鳴いた瞬間。
アルの感覚が変わる。
揺れる魔力。
歪む空気。
その中で。
一箇所だけ、
不自然な魔力の濃さがあった。
「そこです!!」
アルが岩場へ飛ぶ。
同時に。
海面が裂けた。
巨大な顎。
コラプト・ミスト・フィッシュが突撃してくる。
幻覚を見抜かれた事に、
化け物が咆哮した。
「グォォォォォォォ!!」
水飛沫が舞う。
アルは剣を構えた。
「来ます!!」




