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無色と十二の旅(アルとジュウニのシルシ)  作者: Matyu
* 第三章:碧色の深層(アルのダイブ)
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第3章・第5話 碧の巫女

アクアリオン海国・中央港。


帰港した船が港へ入った瞬間。


張り詰めていた空気が、

一気に揺れた。


「戻ったぞ!!」


「討伐隊だ!!」


「生きて帰ってきた……!」


港中から声が上がる。


海兵達が慌ただしく動き出し、

船を固定していく。


その中央で。


アルは静かに船を降りた。


『キュ〜……』


クウは少し疲れたように、

アルの肩へ乗る。


セドリックが低く告げた。


「コラプト・ミスト・フィッシュは討伐した」


その瞬間。


ざわめきが止まる。


数秒の静寂。


そして。


「……本当に?」


「航路が戻るのか!?」


「助かった……!」


歓声が爆発した。


泣き崩れる船員。


肩を叩き合う海兵達。


港全体が、

ようやく息を吹き返したようだった。


アルはその光景を静かに見つめる。


「……良かった」


『キュ!』


クウも嬉しそうに鳴いた。



しばらく後。


アクアリオン海国ギルド本部。


到着時とは違い、

ロビーには明るさが戻っていた。


職員達も忙しそうに動いている。


止まりかけていた航路が、

再び動き始めているのだろう。


受付へ向かうと、

ナリアが深く頭を下げた。


「本当にありがとうございました」


「今回の被害は、

国全体へ影響が出始めていました」


アルは静かに首を振る。


「僕だけではありません」


「皆さんがいたからです」


ナリアは少し驚いたように目を瞬かせた。


その時。


奥の通路から、

セドリックが現れる。


「報酬を用意した」


重い革袋が机へ置かれる。


かなりの重量だった。


「コラプト討伐。


加えて、

航路復旧への貢献分も含む」


アルは少し目を見開く。


「……こんなに?」


「安いくらいだ」


セドリックは淡々と言った。


「この国にとって、

海流停止は生命線を断たれるのと同じだ」


アクアリオン海国。


物流と循環の国。


航路停止は、

国そのものの停滞へ繋がる。


アルは静かに革袋を受け取った。


「ありがとうございます」


『キュ〜♪』


クウが嬉しそうに跳ねる。


その姿に、

周囲から小さな笑いが漏れた。



その時。


アルはふと思い出したように、

鞄へ手を入れる。


白銀の封蝋。


セリーナから預かっていた封書。


アルはセドリックへ視線を向けた。


「すみません」


「一つお聞きしたいんですが」


「何だ」


「この国の巫女様は、

今どちらにいるんでしょうか」


空気が少しだけ変わる。


セドリックの目が細くなった。


「……碧巫女に会うつもりか」


「はい」


アルは頷く。


「セリーナさんから、

封書を預かっています」


数秒の沈黙。


やがて。


セドリックは小さく息を吐いた。


「現在、

ミレーナ様は外洋巡察中だ」


「外洋巡察……?」


「海上施設や航路の確認だ」


「この国の巫女は、

海流や物流の安定維持にも関わっている」


アルは静かに聞く。


セドリックは続けた。


「最近は航路異常も多かった」


「その確認も兼ねている」


コラプト事件。


航路停止。


海域異常。


まだ全てが繋がっている訳ではない。


だが。


嫌な予感だけは残っていた。


「場所を教えていただけますか」


セドリックはアルを見つめる。


「……本来、

簡単に案内する相手ではない」


低い声。


だが。


「セリーナ様の封書があるなら話は別だ」


セドリックは職員へ視線を向ける。


「巡察航路の準備をしろ」


「案内船を出す」



夕刻。


外洋巡察航路。


アクアリオン本島から離れた海域。


小型巡察船が静かに海を進んでいた。


水平線が赤く染まっている。


波は穏やかだった。


『キュ〜……』


クウが船首で風を受けている。


アルは静かに海を見つめていた。


その時。


「見えました」


操舵士が前方を指差す。


海の上。


巨大な白碧の建造物が浮かんでいた。


海上神殿。


幾重もの水路と橋が、

海上へ広がっている。


その中央。


白銀の衣を纏った女性が立っていた。


長い碧銀の髪。


静かな碧の瞳。


海風が衣を揺らしている。


周囲には数人の海兵。


だが。


その場の空気は、

彼女一人で支配されていた。


巡察船が接岸する。


アルは静かに船を降りた。


女性の視線が、

ゆっくりとアルへ向く。


その瞬間。


海風が少しだけ止まった気がした。


『……キュ』


クウが小さく鳴く。


女性は静かに口を開く。


「……あなたが」


透き通るような声。


「セリーナ様の言っていた旅人ですね」


アルは小さく頭を下げた。


「アルトゥス・リンベルです」


女性は静かに頷く。


「碧巫女ミレーナ」


「ようこそ、

アクアリオン海国へ」

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