第2章・第18話 揺らぐ炎
「レオン・リンベル」
その名が落ちた瞬間——
フレアの拳から火が消える。
炎纏手が崩れる。
熱が抜ける。
指先が冷える。
力が、入らない。
「……っ」
膝が落ちる。
踏ん張れない。
そのまま——
地面に座り込む。
呼吸が浅い。
視界が歪む。
(……レオン)
音が遠い。
何も掴めない。
(……なんで、今)
体が動かない。
守れない。
前に出れない。
(……俺が)
そのまま——
落ちる。
⸻
踏み込む。
炎纏手が燃える。
風も雷も混ざる。
拳を振る。
——外れる。
「重ねすぎ」
横から声。
レオン。
いなされる。
体勢が崩れる。
「全部使えば強いわけじゃねぇ」
「使えるもん全部使うだろ」
フレアが返す。
レオンが笑う。
「だからズレる」
踏み込む。
火だけに絞る。
拳を振る。
——当たる。
止まる。
レオンが頷く。
「それでいい」
フレアが笑う。
⸻
少し離れた場所。
セリーナが構えている。
光、水、風——揺れている。
だが動けない。
「……」
カイエンが横に立つ。
「止まってるな」
「……無理」
「無理って言ってる間は進まないぞ」
レオンが振り向く。
「セリーナ」
手を軽く振る。
「一つでいい」
フレアが言う。
「全部やろうとするから固まるんだよ」
セリーナが俯く。
カイエンが一歩前に出る。
「守りだけでいい。まずは出ろ」
短く。
セリーナが息を吸う。
一歩出る。
遅い。
でも——出る。
カイエンが受ける。
止める。
「……そう、それでいい」
レオンが笑う。
「ほらな」
⸻
夕方。
四人で座る。
風が抜ける。
レオンが言う。
「火の巫女って、実際どうなんだ?」
フレアが鼻で笑う。
「決まってんだろ」
腕を組む。
「前に出るやつを限界まで引き上げる」
一拍。
「ぶっ壊れる手前までな」
レオンが笑う。
「物騒だな」
カイエンが肩を竦める。
「まぁ、
前線向きなのは確かだ」
フレアの周囲で、
揺らめく炎が広がる。
「炎は単純だ」
紅蓮が膨れ上がる。
「燃やす」
「爆ぜる」
「押し切る」
熱風が吹き荒れる。
セリーナが小さく呟く。
「……凄い熱」
フレアはニヤリと笑った。
「支えるだけじゃねぇ」
視線を上げる。
「勝たせる」
「それが火の巫女だ」
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少し沈黙。
フレアが空を見る。
「全部、守れたらいいのにな」
セリーナが頷く。
「……うん」
カイエンが言う。
「守るのは俺らの役割だろ」
フレアが横目で見る。
「似合わねぇな」
「そうか?」
軽く返す。
レオンが言う。
「役割あるだろ」
三人が見る。
「前に出るやつ」
フレアを見る。
「支えるやつ」
カイエンを見る。
「守るやつ」
セリーナを見る。
そして——
「全部繋ぐのが俺だ」
軽く笑う。
フレアが踏み出す。
「なら負けんなよ」
レオンが笑う。
「そっちもな」
セリーナが小さく言う。
「……守る」
風が抜ける。
誰も否定しない。
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割れる。
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現実。
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フレアは座り込んだまま。
動けない。
完全に。
ヴァルディオンが動く。
空間が歪む。
圧が収束する。
狙いは——フレア。
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「フレア様!」
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カイエンが踏み込む。
迷いがない。
間に入る。
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掌を前に出す。
魔力が展開される。
薄く、だが密度の高い結界。
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圧が落ちる。
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ぶつかる。
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空間が歪む。
結界が軋む。
地面が沈む。
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それでも——
割れない。
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「……今度は」
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低く。
息を吐く。
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「私が守る番です」
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魔力がさらに強まる。
結界が厚みを増す。
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「あなたが前に出るなら」
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一歩、前へ。
結界ごと押し返す。
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「私は後ろを守ります」
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衝撃が弾ける。
だが——
一切、通さない。
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「――通しません」
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フレアの視界に映る。
その背中。
広い。
揺れない。
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「……っ」
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心臓が跳ねる。
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(……なんだよ、それ)
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胸が強く鳴る。
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(……こんな時に)
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目を閉じる。
歯を食いしばる。
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(……任せても、いいのかよ)
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一瞬。
ほんの一瞬——
そう思ってしまう。
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カイエンが続ける。
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「だから——」
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一瞬だけ振り返る。
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「前を見てください」
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その一言。
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繋がる。
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(……前に出るやつ)
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拳が震える。
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炎が灯る。
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弱い。
だが——ある。
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「……悪い」
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立ち上がる。
完全じゃない。
それでも——戻る。
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一歩下がる。
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「前、任せる」
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アルが頷く。
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「任せろ」
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カイエンが位置を固定する。
完全に守る。
フレアを背後へ。
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「……支える」
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力が流れる。
アルへ。
熱が増す。
感覚が研ぎ澄まされる。
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(……これが)
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火の巫女。
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アルが踏み込む。
炎が安定する。
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三人の位置が決まる。
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前線——アル
中衛——カイエン
後衛——フレア
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戦場が組み替わる。




