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無色と十二の旅(アルとジュウニのシルシ)  作者: Matyu
第二章:紅色の誓い(アルのトリガー)
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第2章・第17話 失われた名

空気が沈む。


何もしていないはずなのに、重い。


次の瞬間——


“距離が消える”。


フレアの横で空間が歪む。


見えない圧が叩きつけられる。


フレアは受けない。


半歩ずらす。


避ける。


直後、床が沈む。


砕ける。


衝撃が遅れて広がる。


距離を取る。


呼吸を整える。


「……答えろ」


低く。


王は歩く。


だが一歩ごとに、間合いが潰れる。


横から圧が走る。


フレアが身体をひねる。


かすめる。


壁が弾ける。


(……見えない)


アルの喉が鳴る。


フレアは逃げながら、視線を外さない。


「何をした」


王は答えない。


ただ——


空間が揺れる。


圧が増す。


(……重い)


それでも止まらない。


フレアは最小で避け続ける。


「逃げるのか」


王が言う。


「違う」


短く返す。


「見てる」


その一瞬。


王の動きがわずかに止まる。


視線が揺れる。


その奥で——


過去が滲む。



玉座の間。


報告が重なる。


「北区画、歪み発生」


「南区画にも同時発生」


「接触した住民が——消失」


空気が凍る。


「痕跡、残らず」


言葉が止まる。


「東部、崩壊寸前」


「西部でも同様の歪み」


「巫女の展開は——分担通り」


沈黙。


王の指が震える。


「……東だ」


絞り出す。


「東は私が指揮する。西は巫女に任せろ」


伝令が走る。


分断されたまま、対応が始まる。


時間が流れる。


報告が届く。


遅れて。


重く。


「西部……消失」


誰も顔を上げない。


「住民、確認不能」


「地形ごと、歪みに飲まれました」


沈黙。


王の呼吸が止まる。


「……私が」


声が震える。


「任せた」


誰かが言う。


「巫女は最善を尽くしました」


王が首を振る。


ゆっくりと。


「違う」


低く。


「分けた」


視線が落ちる。


「守る力を——分けた」


誰も言い返せない。


「……届かなかった」


空間を掴むように手が震える。


「このままでは、何度でも同じことが起きる」


その時。


声が落ちる。


「分かれているからだ」


静かに。


背後から。


王が振り返る。


誰もいない。


だが——確かにある。


「王と巫女」


「役割が分かれている」


「だから——届かない」


王の呼吸が止まる。


「……何を言っている」


「守る者が分かれている限り」


一拍。


「必ず“届かない場所”が生まれる」


王の目が揺れる。


否定したい。


だが——できない。


「……なら、どうすればいい」


「一つにすればいい」


即答。


迷いがない。


「分けなければいい」


「同じ力にすればいい」


沈黙。


王の思考が止まる。


「……それで」


声が震える。


「全て、守れるのか」


「守れる」


断定。


「だから——巫女はいらない」


空気が凍る。


その一言。


王の中で何かが繋がる。


「……なら」


一歩、踏み出す。


「私がやる」


その瞬間。


空間が歪む。


見えない“何か”が触れる。


腕に。


胸に。


思考に。


静かに。


深く。


拒めないまま——入り込む。



現実に戻る。



空間が沈む。


フレアの背後で歪みが弾ける。


フレアが滑るように逃げる。


床が陥没する。


「本来の形に戻した」


王が言う。


フレアが吐き捨てる。


「それで全部壊してんだろうが」


王が首を傾ける。


「壊れてはいない」


圧が増す。


足元が沈む。


「分かれているだけだ」


次の瞬間。


上から圧が落ちる。


フレアが転がるように避ける。


地面が潰れる。


(……差がある)


アルの喉が鳴る。


フレアが踏み込む。


間合いを詰める。


「ゼルヴァインは——お前か」


王がわずかに止まる。


「必要だった」


短い。


揺れない。


フレアの目が細くなる。


「何のためだ」


空間が揺れる。


圧が横から走る。


フレアが流す。


床が割れる。


「分かれている」


「揃っていない」


同じ言葉。


フレアが踏み込む。


「何を揃える」


王がわずかに笑う。


「一つにする」


空気が冷える。


アルの喉が鳴る。


(……何を)


戦いが一瞬止まる。


その中で——


王が言う。


「器は既に手に入っている」


空気が変わる。


フレアの動きが止まる。


アルの心臓が跳ねる。


王が続ける。


「後は——時を待つのみ」


沈黙。


フレアの声が揺れる。


「……何の話だ」


王が見る。


真っ直ぐに。


「その名は——」


ゆっくりと。


「選ばれし器」


一拍。


「レオン・リンベル」



時間が止まる。



(……兄、さん)



フレアの表情が崩れる。



「……は?」



その一言だけが、落ちた。

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