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無色と十二の旅(アルとジュウニのシルシ)  作者: Matyu
第二章:紅色の誓い(アルのトリガー)
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第2章・第16話 静かな歪み

風だけが残っていた。


熱も雷も消え、砕けた地面だけが戦いの跡を示している。


アルはその場に立ったまま、しばらく動けなかった。


(……終わった)


そう思ったはずなのに、胸の奥がざわついている。


「……終わったのか」


思わず漏れる。


カイエンが周囲を見渡す。


「反応は消失しています。ですが、違和感が残ります」


“何もない”ことが、不自然だった。


フレアが背を向ける。


「戻るぞ」


短く。


三人は歩き出す。


同じ王都の中。

だが、人の気配が妙に遠い。


足音だけが響く。


アルの頭に残る。


——近い

——足りない

——違う


振り払う。


(……終わったはずだ)


それでも消えない。


やがて神殿に辿り着く。


扉をくぐると、空気が変わる。


静かだ。

だが、どこか薄い。


「……戻ってきた」


アルは小さく息を吐く。


フレアは止まらない。


奥へ進む。


控えていた騎士が膝をつく。


「フレア様」


フレアは言う。


「動かす。近衛騎士団長ゼルヴァインについて、全て洗え」


空気が張り詰める。


「直近の行動、接触者、城内の動き——全部だ」


「承知しました」


騎士が即座に走り出す。


アルはその背中を見る。


(……早い)


迷いがない。


フレアが言う。


「時間がねぇ。休め。明日、王城だ」


アルの胸がざわつく。


(……王)


頭に残る言葉。


——侵されている



その夜、眠りは浅かった。


目を閉じても、消えない。


静寂の奥で、何かが揺れる。


(……近い)


目を開ける。


何もない。


それでも、残る。



翌朝。


静かな光が差し込む。


何も変わらないはずの朝。

それでも違う。


「行くぞ」


フレアが立つ。


三人は神殿を出る。


王城へ向かう。


城は変わらずそこにある。


だが——


アルは足を止める。


「……変です」


フレアは止まらない。


「中で見る」


門前。


兵が槍を構える。


「止まれ」


規律通りの声。


「フレアだ」


空気が変わる。


兵の目が揺れる。


「……失礼しました」


「ご用件を」


カイエンが一歩出る。


「近衛騎士団長の件だ」


一瞬の動揺。


「王に直接話す」


沈黙。迷い。


フレアが踏み出す。


「通せ」


圧。


兵が引く。


「……通れ」


門が開く。


三人は城内へ入る。


廊下を進む。


兵とすれ違う。


一瞬、目が合う。


焦点がわずかにずれている。


すぐ逸れる。


次の兵は正常。


だが、その次は違う。


混ざっている。


フレアが言う。


「広がってるな」


やがて大扉の前に辿り着く。


王の間。


護衛がいない。


「開けるぞ」


扉が開く。



広い空間。


玉座。


そこに——王がいる。


アルの呼吸が止まる。


(……違う)


フレアが一歩進む。


「……ドラゴニス王国国王——」


「その名は、もう捨てた」


被せる声。


空気が歪む。


王がゆっくりと立ち上がる。


「今は——ヴァルディオン・ドラゴニスだ」


沈黙。


アルの背筋が凍る。


フレアは動かない。


じっと王を見据える。


「……いつからだ。いつからそうなった」


王が首を傾ける。


「そうなった?」


その瞬間、踏み込む。


速い。


フレアが半歩ずらす。


躱す。


床が砕ける。


「答えろ」


連撃。


フレアが最小で捌く。


「ゼルヴァインは——お前か」


一瞬の間。


「必要だった」


短い答え。


「何のためだ」


攻撃が重なる。


距離を取りながら捌く。


「偏っている。揃っていない」


断片的な言葉。


フレアが踏み込む。


「何を揃える」


王がわずかに笑う。


「一つにする」


アルの喉が鳴る。


王の目が揺れる。


「既に、触れている」


心臓が跳ねる。


フレアの目が細くなる。


「誰だ」


王は答えない。


「器はある」


意味は分からない。


だが、嫌な予感だけが残る。


次の瞬間。


踏み込み。


今までより深い。


フレアが受ける。


弾かれる。


(……重い)


「戻る気はあるか」


最後の問い。


「ない」


即答。


踏み込み。


避けきれない。


直撃。


衝撃が弾ける。


フレアが止まる。


ゆっくり顔を上げる。


「……そうかよ」


一歩踏み込む。


炎が灯る。


「なら——叩き潰す」


空気が変わる。


王の瞳の奥で——


何かが覗く。

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