表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無色と十二の旅(アルとジュウニのシルシ)  作者: Matyu
第二章:紅色の誓い(アルのトリガー)
53/65

第2章・第13話 歪みの残滓

中枢を離れても、熱は体に残っていた。


崩れた通路を戻る。

さっきまでの戦闘が嘘のように、静かだった。


アルは足元を見る。


砕けた鱗の欠片。

焼けた床。

歪んだ導管。


(……三体)


確かに倒した。


それでも——


胸の奥に、引っかかるものが残る。


フレアは何も言わずに歩く。

カイエンは後方を警戒している。


沈黙が続く。



階段の手前で、フレアが足を止める。


「……どう思う」


短い問い。


アルは一瞬迷う。


「……数は、合ってます」


一拍。


「でも……三体だけじゃ、足りない気がします」


フレアがわずかに視線を向ける。


アルは続ける。


「この被害、三体で起きたとは思えません」


言い切ったあと、少しだけ息を整える。


フレアが小さく吐く。


「同じだ」



カイエンが静かに言う。


「施設の破壊規模と、個体数が一致していません」


カイエンの視線が通路をなぞる。


「上層、竜舎、各導管。損壊範囲が広すぎます」


フレアが低く言う。


「……やり過ぎだな」



(……三体じゃない)


(じゃあ、何がやった)



フレアが階段を見上げる。


「上、確認するぞ」


カイエンが即座に言う。


「崩落の危険があります」


「分かってる」


短く。


「だから今だ」



三人は階段を上がる。



二階。



空気が変わる。


熱ではない。


別の違和感。


アルの足が止まる。


「……違う」


フレアも気づく。


「……ああ」



崩れている。


だが——


壊れ方が揃っている。



壁。床。柱。


すべてが同じ方向に削られている。



アルが言う。


「……叩きつけてない」


フレアが答える。


「削ってる」


カイエンが補足する。


「一点ではなく、面で処理されています」



(……壊したんじゃない)


(削った)



背筋が冷える。



カイエンがしゃがみ、床に手をかざす。


空気がわずかに揺れる。



「……残っています」



アルの心臓が跳ねる。


「……まだ、いるんですか」


カイエンは首を振る。


「いえ」


一拍。


「……歪みです」



フレアが低く言う。


「……どこだ」



カイエンが視線を向ける。


奥。



「……あそこです」



三人は進む。



奥の区画。



そこだけ、空気が違う。



歪みが濃い。



視界がわずかに揺れる。

音が遅れる。



アルの呼吸が浅くなる。


(……ここ)


(さっきのとは違う)



フレアが止まる。


「……出てこい」



沈黙。



何もいない。



だが——“在る”。



形はない。

色もない。



ただ、歪みだけが存在している。



アルの思考に、何かが触れる。



——近い



息が詰まる。



——足りない



胸の奥がざわつく。



——違う



何を否定されているのか分からない。



だが、確実に“見られている”。



次の瞬間、世界が戻る。



アルが息を飲む。


「……っ」



フレアが眉をひそめる。

「……変だな」



カイエンが周囲を見渡す。

「……反応が変化しています」



アルはまだ視線を動かせない。


(……あれは敵だ)


(でも——理解できない)



その時。



奥の崩れた壁の向こう。



一瞬、人影が揺れる。



消える。



フレアが低く言う。

「……いたな」



カイエンが続ける。

「この施設に侵入した人物でしょう」



アルが息を飲む。


「……何を狙ってるんですか」



一拍。



フレアが吐く。


「……祠に手を出して失敗した」



沈黙。



カイエンが静かに言う。


「……なら次は」



わずかに視線を向ける。



「フレア様が狙いかと」



空気が張り詰める。



フレアが鼻で笑う。

「……来るなら来い」



歪みが、わずかに揺れる。


何も形は取らない。


だが——確かに在る。



アルが剣を握る。


(……終わってない)



胸の奥に残る確信。


(……あれは敵だ)


(でも——理解できない)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ