第2章・第7話 火の神殿
昼。
施設を出た後。
アルは一度だけ振り返る。
巨大な中枢施設。
人と種族が並び、同じ場所で働いていた光景が、まだ頭に残っている。
フレアが歩き出す。
「戻るぞ」
短く言う。
アルが追う。
「どこへ」
「神殿だ」
⸻
街の中心へ向かう。
人の流れが増える。
視線がフレアに集まる。
自然と道が開く。
アルが小さく言う。
「……神殿に戻るんですか」
フレアは前を見たまま答える。
「当たり前だ」
短く。
「現場見たら報告する」
一拍。
「それも巫女の仕事だ」
アルは黙って頷く。
⸻
やがて見えてくる。
火の神殿。
赤を基調とした石造り。
揺れる炎。
中へ入る。
空気が変わる。
熱が、わずかに肌に触れる。
神官が行き交う。
低い声でのやり取り。
整えられた空間。
本来は静かな場所だと分かる。
だが——
その中に、わずかな乱れ。
負傷者が運ばれてくる。
手当が行われている。
数は多くない。
だが確かに増えている。
フレアが言う。
「本来はな」
短く。
「こんなもんだ」
一拍。
「今は少し増えてる」
アルが問う。
「コラプト、ですか」
フレアが頷く。
「出なきゃこうはならねぇ」
⸻
奥へ進む。
温度が少しずつ上がる。
灯された火が増える。
どれも自然に揺れているが、消える気配はない。
維持されている炎。
中央へ辿り着く。
大きな炎。
静かに、だが確かに脈打っている。
フレアが足を止める。
報告のため、口を開こうとした——
その時。
炎が、わずかに揺れる。
フレアの目が細くなる。
「……おい」
アルが反応する。
「何が——」
次の瞬間。
炎が大きく脈打つ。
空気が一変する。
押し付けるような熱。
アルの呼吸が止まる。
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声が落ちる。
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『我は——ヴァルドレイア』
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炎が揺れる。
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『炎を司る者』
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アルの身体が固まる。
(……神……)
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『無色の者』
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心臓が強く鳴る。
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『其の身は未だ未完』
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一拍。
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『燃やすものを選べ』
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炎が揺らぐ。
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『すべてを抱いてなお、進め』
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さらに圧が増す。
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『歪みは、既に生じている』
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沈黙。
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炎が静まる。
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終わり。
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空気が戻る。
アルは動けない。
フレアが小さく息を吐く。
「……来やがったか」
アルがようやく言葉を出す。
「……今のは」
フレアが答える。
「火神だ」
短く。
「ヴァルドレイア」
アルは言葉を失う。
フレアが続ける。
「祠だな」
一拍。
「行けってことだ」
アルが呟く。
「……歪み……」
フレアは小さく頷く。
「まだ終わってねぇってことだ」
⸻
神殿を出る。
その瞬間——
騒がしさが押し寄せる。
「逃げろ!」
「施設で何か起きてる!」
「中枢が——!」
人々が走る。
外へ。
街の外へ。
アルの目が見開かれる。
「……施設?」
フレアの表情が変わる。
「……狙ってやがるな」
低く言う。
アルが言う。
「あそこは——」
フレアが答える。
「街の中枢だ」
一歩踏み出す。
逃げる人々の流れに逆らうように。
「行くぞ」
アルも動く。
前へ。
人の流れをかき分ける。
向かう先は一つ。
さっきまでいた場所。
だが——
今はもう、同じではない。




