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無色と十二の旅(アルとジュウニのシルシ)  作者: Matyu
第二章:紅色の誓い(アルのトリガー)
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第2章・第6話 竜の檻

朝。


差し込む光で、アルは目を覚ました。


見慣れない天井。

木の匂い。


(……ギルドか)


体を起こす。


外はすでに動いている。


人の声。

足音。

街の朝。


扉の前に気配。


フレアが立っている。


「起きたか」


短く言う。


「行くぞ」


アルは頷く。

立ち上がる。


歩き出す、その直前。


フレアの意識が、わずかに過去へ引かれる。


——神殿。


静寂。


炎が揺れている。


『来る』


『無色の者が来る』


一拍。


『歪みも、動く』


——それだけ。


(……来た)


フレアは歩きながら思う。


(無色はあいつだ)

(歪みも出た)


小さく息を吐く。


「……一応、筋は通ってるか」


わずかな間。


(……だが)


ほんの一瞬だけ思考が止まる。


(軽すぎる)


違和感は、消えない。


街の外れへ向かう。


朝の空気は冷たい。


やがて見えてくる。


巨大な施設。


高い柵。

重い門。


奥から低い唸り。


「……ここは」


アルが呟く。


フレアが答える。


「竜の中枢施設だ」


門をくぐる。


中は広い。


整然と区画が並ぶ。


だが——


閉じ込められている様子はない。


竜が動く。

人が合図を出す。

竜が応じる。


その動きは自然だ。


アルの視線が流れる。


水を纏う個体。

氷を帯びた個体。

雷を走らせる個体。


「ウィンド・ワイバーン系以外、初めて見ました」


フレアが鼻を鳴らす。


「野生の生物ヴィータはな」


腕を組む。


「本来は縄張りから出ねぇ」


視線を巡らせる。


「ここは例外だ」


短く。


「全12属性、揃ってる」


アルは見渡す。


(……全部、いる)


フレアが歩みを緩める。


「勘違いすんなよ」


視線は竜へ。


「閉じ込めてるわけじゃねぇ」


一拍。


「あいつらも働いてる」


アルが目を細める。


フレアが続ける。


「人と同じだ」


短く。


「役割がある」


炎竜が炉に息を吹く。

赤熱した金属が形を変える。


「火は鍛える」


水竜が流れを整える。

熱が一気に引く。


「水は回す」


風竜が資材を運ぶ。


「風は繋ぐ」


一拍。


「人だけじゃ回らねぇ」


アルはその光景を見つめる。


(……ただの力じゃない)

(仕事として使われてる)


フレアが言う。


「どの国も同じだ」


視線は前へ。


「12属性はどこも持ってる」


一拍。


「でも同じにはならねぇ」


アルが視線を向ける。


フレアが続ける。


「種族ごとに得意がある」


竜を見ながら。


「この国は竜だ」


炎竜が再び火を吹く。


「火が一番合う」


少しだけ間。


「他の属性もあるが——」


周囲を示す。


「主軸は変わらねぇ」


アルは理解する。


(……種族が軸)

(属性はその上に乗る)


フレアが言う。


「だからこうなる」


奥へ進む。


空気が変わる。


音が減る。


静寂。


フレアが足を止める。


「この先は——祠だ」


声が静かになる。


「神殿と同じだ」


アルの背筋が伸びる。


フレアが続ける。


「巫女以外は入れねぇ」


一瞬だけアルを見る。


「……本来はな」


アルは理解する。


(印……)


フレアが前を見る。


「普通のやつは知らねぇ場所だ」


視線は奥へ。


「俺たちが守ってるのは外側だ」


わずかな間。


「内側には——」


「始祖が眠ってる」


風が止まる。


アルは言葉を失う。


(……始祖)


フレアが低く言う。


「ここが崩れたら」


一拍。


「全部終わる」


訓練区画へ戻る。


人と竜が向き合う。


フレアが腕を組む。


「普段、巫女は神殿だ」


ぽつりと。


「神託もそこで受ける」


アルが言う。


「外に出るのは」


フレアが答える。


「例外だ」


短く。


「コラプトが出てる時だけだ」


静寂。


その中で——


フレアが目を細める。


「……妙だな」


風が止まる。


空気が歪む。


「何かいる」


アルの背筋に冷たいものが走る。


だが——何も見えない。


フレアはしばらく見据える。


やがて息を吐く。


「……気のせいか」


だが目は鋭いままだ。


アルは思う。


(……見えてる)


その時。


ワイバーンが動く。


アルが反応する。


一歩踏み込む。


無駄のない動き。

最短の軌道。


その瞬間——


フレアの視界が揺れる。


(……あ?)


一瞬。


重なる。


——レオン。


フレアの目が細くなる。


だがすぐに否定する。


(……違う)


荒い。

未完成。


「……似てるな」


小さく呟く。


「でも——違う」


アルには届かない。


フレアはわずかに笑う。


「……悪くねぇ」


アルが振り返る。


「何か言いましたか」


「いや」


「何でもねぇ」


二人は歩き出す。


空は明るい。


だが——


風が止まる。


違和感だけが残る。


まだ何も起きていない。


だが——


確実に、“何か”が動いていた。

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