第2章・第1話 紅竜国ドラゴニス王国
王都を出て、数日。
乾いた風が頬を撫でる。
視界の先に広がるのは、赤く染まった大地。
「……ここが」
アルトゥス・リンベルは足を止める。
紅色の国――ドラゴニス。
王都へ続く街道は、熱を帯びていた。
風が運ぶのは、乾いた空気と、かすかな焦げた匂い。
アルは足を止め、遠くの街並みを見つめる。
(……ここが、紅色の国)
セリーナから聞いていた場所。
炎と戦いの国。
そして——火の巫女がいる国。
アルは胸元に触れる。
封書が、そこにあった。
(……渡さないと)
だが、その前にやるべきことがある。
アルは街へ入った。
活気はある。
だがどこか張り詰めている。
武装した者が多い。
空気が違う。
そのままギルドへ向かった。
扉を開ける。
中は騒がしかった。
だが王都とは違う。
荒い。
戦いに近い空気。
視線が集まる。
アルは気にせず受付へ向かう。
「すみません」
受付の女性が顔を上げる。
「どうした」
少し口調が荒い。
「色の薄い生物の調査で来ました」
一瞬、空気が変わる。
アルは続ける。
「……汚染体の可能性があります」
ざわつきが広がる。
「調査、だと……?」
「コラプト……?」
小さな声が漏れる。
アルは静かに頷いた。
「はい」
「ヒューマニアの巫女から許可を頂いています」
名前は出さない。
それでも十分だった。
受付の女性の表情が変わる。
「……少し待て」
奥へ消える。
周囲の視線が変わる。
警戒と、興味。
やがて——
奥から男が現れる。
大柄な男。
鋭い目。
ギルド長だと分かる。
「お前か」
「はい」
「……ヒューマニアの巫女の後ろ盾、か」
試すような視線。
アルは逸らさない。
「協力をお願いしたいです」
短く言う。
男は少しだけ目を細めた。
その時だった。
扉が勢いよく開く。
「た、助けてくれ!!」
血の気の引いた男が飛び込んでくる。
「仲間がやられてる! 西の外れだ!」
空気が一気に緊張する。
「相手は!?」
「風の……小竜だ……!」
ざわめきが走る。
「……ウィンド・ワイバーンか」
誰かが低く呟く。
だが男は首を振る。
「違う……色が……おかしいんだ……!」
一瞬の静寂。
「……汚染体か」
空気が変わった。
ギルド長の声が落ちる。
「緊急依頼だ」
低く、重い声。
「動ける奴は出るぞ」
椅子が鳴る。
武器の音。
冒険者たちが一斉に動き出す。
アルも前に出た。
「行きます」
ギルド長が一瞬だけアルを見る。
「死ぬなよ、ガキ」
短い言葉。
アルは頷いた。
外へ走る。
風が強く吹く。
遠くから咆哮が響く。
(……ウィンド・ワイバーン)
ただの生物ではない。
(汚染体——)
剣に手をかける。
(倒す)
迷いはなかった。




