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無色と十二の旅(アルとジュウニのシルシ)  作者: Matyu
第一章:無色の旅立ち(アルのスタート)
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第1章・最終話 次の一歩

ギルドの朝。


ざわめきが、ゆっくりと広がっていく。


「昇格手続きが完了しました」


リーナが言う。


差し出されたカード。


「……」


アルトゥスはそれを受け取る。


指先に伝わる重み。


「……Cランク」


小さく呟く。


確かに、届いた。


「これにより、他国への移動が可能になります」


アルトゥスは頷く。


「……ありがとうございます」


短く言う。


終わりではない。


ここからだ。


ギルドを出る。


王都の通りを抜ける。


向かう先は決まっている。


神殿。


白い石造りの建物が見えてくる。


静かな空気。


入口の前に立つ衛兵。


「……何用だ」


低い声。


アルトゥスは足を止める。


「セリーナに会いに来ました」


はっきりと言う。


「取り次ぎはあるか」


「……ありません」


短く答える。


「ならば通せん」


一歩も動かない。


「原則、関係者以外は通さぬ」


道は閉ざされる。


「……」


アルトゥスは一瞬だけ黙る。


その時――


ふと、思い出す。


別れ際。


差し出された、小さな首飾り。


――『神殿へ来ることがあれば、見せてください』


「……」


アルトゥスは懐に手を入れる。


取り出す。


小さな首飾り。


「……これを」


衛兵の視線が変わる。


空気がわずかに揺れる。


「……どこで手に入れた」


「預かりました」


短く答える。


衛兵はしばらく黙る。


そして。


「……少し待て」


一人が中へ入る。


静かな時間。


クウが、ぴょんと跳ねる。


やがて。


「……通れ」


短く言う。


道が開く。


神殿の中。


外とは別の空気。


静けさが満ちている。


奥へ案内される。


そして――


「……来たんですね」


セリーナが立っている。


「はい」


アルトゥスは頷く。


「Cランクになりました」


短く報告する。


セリーナはわずかに目を細める。


「……そうですか」


それだけだった。


だが、十分だった。


「……それで」


アルトゥスは息を整える。


「旅に出ます」


はっきりと言う。


「準備をしたい」


一瞬だけ間。


「……手伝ってもらえませんか」


セリーナは少し考える。


そして。


「分かりました」


短く答える。


「では、明日」


アルトゥスは頷く。


「……お願いします」




翌日。


王都の市場。


人の声と物の音が混ざる。


セリーナが待っている。


「おはようございます」


「ええ」


短く返す。


そして。


「これを」


セリーナが差し出す。


小さな袋。


「……?」


アルトゥスは受け取る。


「マジックバックです」


「長距離の移動には必要です」


その時。


セリーナがもう一つ、同じ形の袋を取り出す。


「私も使用しています」


短く言う。


袋の口がわずかに開く。


中には封書の束が収まっている。


「これは、あなた用に用意したものです」


アルトゥスは袋を見る。


「……ありがとうございます」


「試してみてください」


セリーナが言う。


近くの店で干し肉を手に取る。


支払いを済ませる。


袋に入れる。


「……」


消える。


水袋も購入する。


同じように入れる。


やはり消える。


「……すごいな」


セリーナはわずかに頷く。


店を回る。


保存食、水。


必要なものを揃える。


その都度、袋に入れていく。


軽いまま。


クウが袋を覗き込む。


「お前も入るか?」


クウは跳ねて、やめる。


アルトゥスは少しだけ笑う。



歩きながら。


セリーナが封書を取り出す。


「これを」


アルトゥスに渡す。


「各国の巫女宛の手紙です」


「私からの紹介になります」


さらにもう一つ。


「こちらは各国ギルド宛です」


アルトゥスはそれを受け取る。


封書を見つめる。


「……これで、会えますか」


セリーナはわずかに頷く。


「取り次ぎは受けてもらえるはずです」


「状況によっては、時間がかかるかもしれません」


アルトゥスは小さく息を吐く。


「……十分です」


歩きながら。


「……各国の巫女って、どんな人なんですか」


セリーナは少しだけ間を置く。


「火の巫女は、厳しい人です」


「ですが、誰よりも真っ直ぐです」


「水の巫女は、穏やかです」


「ただ、簡単には信用しません」


「風の巫女は、自由です」


「捕まえにくい、という意味で」


アルトゥスは少しだけ笑う。


「……厄介そうですね」


セリーナはわずかに頷く。



セリーナは、十二の巫女すべてについて話した。


火、水、風、土。


氷、雷、樹、砂。


妖、毒。


そして――光と闇。


それぞれに役目があり。


それぞれに違う性格がある。


その言葉は、アルトゥスの中に残っている。


断片的に。


だが、確かに。


「……一筋縄ではいかなさそうですね」


「ええ」


セリーナは短く答える。


「簡単な相手はいません」


セリーナは一瞬だけ間を置く。


「……中には、会うこと自体が難しい巫女もいます」


アルトゥスは頷く。


少しの沈黙。


アルトゥスは視線を落とす。


ふと、思い出す。


森で出会った、あのウルフ。


色の抜けた体。


異様な動き。


「……」


あれは、明らかに普通ではなかった。


アルトゥスは顔を上げる。


「……似たような報告って、ありますか」


セリーナは静かに答える。


「あります」


「ここ最近、各地で確認されています」


「共通しているのは、属性の乱れです」


「本来とは異なる反応を示す例が報告されています」


「別の属性に変化している可能性もあります」


アルトゥスは考える。


「……じゃあ、あれは」


言いかけて止まる。


「もう一つ」


「属性の欠落です」


「属性そのものが弱まっている、あるいは消えている状態です」


アルトゥスは静かに息を吐く。


「……あれも、そのどちらか」


「可能性はあります」


そして。


「どちらも通常ではあり得ません」


「場合によっては、通常の個体とは別物、汚染体コラプトと考えた方がいいでしょう」


「……不用意に近づくべきではありません」


アルトゥスは頷く。


「……分かってます」

買い出しが終わる。


袋を閉じる。


軽いまま。


「……全部入ってるんですよね」


「はい」


アルトゥスは袋を見る。


そして前を見る。


「……本当に、行くんだな」


小さく呟く。



「今日は、ここまでにしましょう」


セリーナが言う。


アルトゥスは視線を向ける。


「……はい」


頷く。


「明日の朝、門で」


短く言う。


セリーナはわずかに頷く。


「ええ」


それで十分だった。



翌朝。


王都の門。


空気はまだ冷たい。


人の数も少ない。


アルトゥスは立っている。


荷物は整っている。


クウが、ぴょんと跳ねる。


変わらない。


だが。


もう迷いはない。


「……行きます」


アルトゥスが言う。


セリーナが頷く。


「ええ」


それ以上は言わない。


必要ない。



アルトゥスは一歩踏み出す。


門を抜ける。


外へ。


新しい道へ。


一度だけ振り返る。


セリーナが立っている。


変わらず、そこに。


「……必ず」


小さく呟く。


「連れて帰ります」


その言葉は、誰に向けたものでもない。


だが、確かに。


セリーナはその背中を見る。


何も言わない。


ただ、わずかに目を細める。


「……待っています」


小さく。


聞こえないほどの声で。


「二人で」


アルトゥスは視線を戻す。


前へ。


「……行こう」


その一歩が、次の物語へと繋がっていく。


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