第1章 第19話 旅立ち
朝。
王都。
クロマレス。
空が。
少しずつ。
明るくなっていく。
アルは。
目を。
開けた。
「…………」
一瞬。
いつもの。
朝のように。
思えた。
けれど。
ベッドの。
横には。
マジックバッグ。
壁には。
父から。
託された剣。
そして。
枕元には。
「きゅ……」
丸くなった。
クウ。
「朝だぞ」
「……きゅ」
「起きろ」
「きゅぅ……」
「今日から旅だぞ」
「きゅ!」
跳ねた。
「それで起きるんだ」
「きゅう!」
アルが。
笑う。
緊張していた。
はずなのに。
少しだけ。
力が。
抜けた。
◇
顔を。
洗う。
着替える。
旅装を。
整える。
剣を。
腰へ。
差す。
マジックバッグを。
肩へ。
掛ける。
「…………よし」
忘れ物を。
確認する。
二十四通の。
封書。
食料。
水。
着替え。
旅道具。
治療用品。
必要なものは。
昨日。
何度も。
確認した。
「クウ」
「きゅ」
「準備できた?」
「きゅう!」
「じゃあ」
アルが。
部屋を。
見回す。
王都へ。
来てから。
使っていた。
部屋。
今日。
ここを。
出る。
次に。
戻ってくるのが。
いつになるのかは。
分からない。
「行こう」
「きゅ!」
扉を。
開けた。
◇
宿を。
出る。
朝の。
空気。
その中に。
一人。
待っている。
人がいた。
「おはようございます、アル」
「セリーナさん」
「おはようございます」
セリーナ。
昨日。
約束した。
見送り。
「早いですね」
「見送ると言いましたから」
「門で待ってるのかと思ってました」
「その前に、寄るところがあります」
「寄るところ?」
「はい」
セリーナが。
歩き出す。
「行きましょう」
「どこへ?」
「ギルドです」
「…………あ」
アルが。
少しだけ。
目を。
見開く。
「挨拶していかないつもりでしたか?」
「いや……」
「アル?」
「行きます」
「はい」
クウが。
二人の。
間を。
跳ねる。
「きゅ!」
◇
朝の。
クロマレス。
店が。
開き始め。
荷車が。
通りを。
進んでいく。
その中を。
アルは。
セリーナと。
歩く。
クウも。
その隣を。
跳ねている。
この道を。
通ったことがある。
王都へ。
来たばかりの。
あの日。
セリーナと。
クウと。
三人で。
歩いた。
あの時も。
目的は。
決まっていた。
十二の印を。
集める。
兄を。
連れて帰る。
父から。
託された。
剣も。
あった。
クウも。
いた。
けれど。
どうやって。
旅を。
始めればいいのか。
分からなかった。
冒険者でも。
なかった。
路銀も。
足りなかった。
十二国へ。
向かうために。
何を。
すればいいのかも。
知らなかった。
だから。
セリーナに。
導かれて。
ギルドへ。
向かった。
今は。
腰には。
同じ剣。
隣には。
同じクウ。
肩には。
旅の。
荷物。
そして。
自分は。
Dランクの。
冒険者。
これから。
何を。
すればいいのかも。
知っている。
「アル?」
「はい?」
「どうしました?」
「いや」
アルが。
前を見る。
「あの日も、この道を歩いたなって」
「…………そうですね」
「セリーナさんと、クウと」
「はい」
「きゅ!」
同じ。
三人。
同じ。
道。
けれど。
向かう意味は。
もう。
同じではない。
◇
ギルドへ。
着く。
扉の。
前で。
アルが。
一度。
止まった。
初めて。
ここへ。
来た時も。
この扉を。
見た。
あの時は。
この先で。
何が。
起きるのか。
何も。
知らなかった。
「アル?」
「いや」
アルが。
扉へ。
手を。
掛ける。
「行きましょう」
「はい」
扉を。
開く。
朝の。
ギルド。
すでに。
何人かの。
冒険者が。
いる。
依頼を。
確認する者。
受付で。
話す者。
出発の。
準備を。
する者。
そして。
受付には。
「おはようございます」
エミリア。
「おはようございます」
「きゅ!」
アルが。
受付へ。
近づく。
エミリアが。
その姿を。
見る。
旅装。
マジックバッグ。
腰の。
剣。
「準備は終わったみたいですね」
「はい」
「今日、出発ですか?」
「はい」
「そうですか」
エミリアが。
少し。
微笑む。
「少々お待ちください」
「?」
「呼んできます」
「誰を?」
「決まっているじゃないですか」
エミリアが。
奥へ。
向かう。
少しして。
「朝から呼び出すな」
聞き覚えのある。
声。
「グランさん」
「おう」
ギルド長。
グラン。
「今日出るんだってな」
「はい」
「準備は?」
「できてます」
「路銀は?」
「あります」
「依頼を受けた甲斐はあったか」
「はい」
アルが。
頷く。
王都へ。
来た時。
旅を。
始めるための。
路銀が。
足りなかった。
それを。
グランに。
指摘され。
依頼を。
受けた。
そこで。
初めて。
ヴィータと。
戦った。
異常な。
個体にも。
出会った。
「ギルドカードは?」
「持ってます」
「見せてみろ」
「今ですか?」
「今だ」
「はい……」
アルが。
取り出す。
Dランクの。
冒険者カード。
グランが。
確認する。
「よし」
「そこまで確認します?」
「なくしてたら笑ってやろうと思ってな」
「ひどい」
「なくしてないなら問題ねえ」
エミリアが。
横で。
小さく。
笑う。
◇
「アルさん」
「はい」
「他国でも、討伐依頼を受けることがあると思います」
「はい」
「討伐証明部位は、忘れないでくださいね」
「……消えたら無理ですよ」
「その時は、きちんと報告してください」
「やっぱりそうなりますよね」
「はい」
雷のボア。
風のローカスト。
樹のモール。
そして。
コラプト。
「コラプトを見つけた場合も?」
「報告をお願いします」
「倒せなくても?」
「もちろんです」
エミリアが。
頷く。
「何体いたか」
「はい」
「どんなヴィータだったか」
「はい」
「属性は?」
「確認する」
「場所は?」
「覚えておく」
「行動は?」
「できるだけ見る」
「完璧です」
「何回も報告しましたから」
「そうですね」
何度も。
この受付へ。
戻ってきた。
依頼を。
受けるため。
報告するため。
分からないことを。
聞くため。
「エミリアさん」
「はい」
「色々、ありがとうございました」
「…………」
エミリアが。
少し。
驚く。
そして。
笑った。
「どういたしまして」
◇
「おい、アル」
「はい」
グランが。
腕を。
組む。
「一つだけ覚えとけ」
「何ですか?」
「お前は戦える」
「…………」
模擬戦。
あの日。
グランは。
アルの。
戦いを。
見た。
戦闘能力だけなら。
Cランク相当。
そう。
評価した。
けれど。
登録は。
Dランク。
「だが、戦えることと、冒険者として何でもできることは別だ」
「はい」
「できることまで、Dランクに合わせる必要はねえ」
「…………」
「だが、できねえことまで一人でやろうとするな」
「はい」
「他国にもギルドはある。困ったら使え」
「分かりました」
「それが冒険者のためのギルドだ」
「はい」
グランが。
アルを見る。
「それとな」
「?」
「生きて帰ってこい」
「…………」
短い。
言葉。
「はい」
アルが。
しっかり。
頷いた。
◇
「じゃあ、行きます」
アルが。
受付から。
離れる。
「お気をつけて」
「はい」
「また帰ってきてくださいね」
「もちろんです」
その時。
「おい」
別の。
声。
アルが。
振り返る。
ギルドにいた。
冒険者。
「もう行くのか、無色」
「はい」
「そうか」
その男が。
笑う。
「死ぬなよ!」
「はい!」
別の。
冒険者からも。
声が。
飛ぶ。
「帰ってきたら話聞かせろよ!」
「気ぃつけろよ!」
一つ。
また。
一つ。
声が。
増える。
アルが。
少しだけ。
立ち止まる。
初めて。
ここへ。
来た時。
向けられた。
視線を。
覚えている。
無色。
実績なし。
それなのに。
Dランク。
本当に。
大丈夫なのか。
疑う。
声。
疑う。
視線。
だから。
模擬戦を。
した。
それから。
依頼を。
受けた。
何度も。
ここへ。
戻ってきた。
今は。
同じ場所から。
「行ってこい!」
声が。
飛んでくる。
疑うためでは。
ない。
背中を。
押すために。
「…………はい!」
アルが。
頭を。
下げる。
「行ってきます!」
そして。
ギルドの。
扉を。
開けた。
◇
外へ。
出る。
扉が。
閉じる。
アルが。
少し。
振り返る。
「嬉しそうですね」
「分かります?」
「分かります」
「……結構、嬉しいです」
セリーナが。
笑う。
「最初に来た時とは、ずいぶん変わりましたね」
「はい」
目的は。
あの日から。
変わっていない。
けれど。
王都で。
得たものがある。
冒険者としての。
立場。
依頼を。
経験して。
知ったこと。
旅を。
始めるための。
方法。
そして。
帰ってこいと。
言ってくれる。
人たち。
「行きましょうか」
「はい」
今度は。
ギルドから。
離れていく。
王都の。
門へ。
◇
門が。
近づく。
その向こうに。
道が。
続いている。
王都の。
外。
まだ。
見たことのない。
土地へ。
セリーナが。
足を。
止める。
「ここまでですね」
「はい」
ここから。
先は。
アルが。
歩いていく。
「アル」
「はい」
「一つ、伝えておきます」
「?」
セリーナが。
アルを見る。
「あなたが十二国を巡っている間、私もこちらで調べ続けます」
「セリーナさんも?」
「はい」
レオンが。
失踪するまでに。
何があったのか。
成人の儀で。
現れた。
あの無色の。
リング。
そして。
創造神が。
告げた。
十二の印。
「前無巫女様が調べてくださった記録も、もう一度確認します」
「はい」
「ヒューマニアに残っている記録を、できる限り調べてみます」
「分かりました」
アルは。
十二国へ。
セリーナは。
ヒューマニアに。
残る。
探す場所は。
違う。
「兄さんのこと、お願いします」
「はい」
セリーナが。
頷く。
「アルも、無理はしないでください」
「大丈夫です」
「アル」
「……分かってます」
アルが。
少しだけ。
笑う。
「危なくなったら逃げます。困ったら頼ります。それでも無理なら、王都に戻ってきます」
「はい。それでいいです」
少し。
沈黙が。
落ちる。
朝の。
門を。
人々が。
行き交う。
もう。
行く時間。
「セリーナさん」
「はい」
「兄さんを見つけたら、連れて帰ります」
「…………はい」
五年前。
レオンを。
見送った。
あの日が。
セリーナの。
胸に。
浮かぶ。
あの日。
見送った背中は。
帰ってこなかった。
だからこそ。
今度は。
帰ってきてほしい。
アルも。
レオンも。
「行ってきます」
「行ってらっしゃい、アル」
アルが。
前を。
向く。
クウが。
その隣を。
跳ねる。
二人は。
王都の。
門を。
抜けた。
一歩。
また。
一歩。
遠ざかっていく。
セリーナは。
その場に。
立ったまま。
見送る。
アルの。
背中を。
その隣を。
進む。
小さな。
クウを。
少しずつ。
二つの姿が。
小さくなる。
それでも。
セリーナは。
目を。
逸らさなかった。
やがて。
二つの姿は。
遠く。
道の先へ。
消えていった。
誰もいなくなった。
道を。
セリーナは。
しばらく。
見つめていた。
「…………行ってらっしゃい」
小さく。
呟く。
それから。
セリーナも。
王都へ。
振り返る。
アルには。
アルが。
することがある。
自分には。
自分が。
することがある。
セリーナは。
王都へ。
歩き出した。
◇
その頃。
アルも。
振り返ることなく。
先へ。
進んでいた。
怖くても。
足を。
止めるな。
兄から。
教わった。
その言葉を。
胸に。
十二の印を。
集めるため。
兄を。
連れて帰るため。
アルの旅が。
始まった。




