第2章・第2話 汚染体(コラプト)
ギルドの扉を押し開け、アルトゥス・リンベルは外へ出た。
西の外れ。
人影はまばらだった。
代わりに——風が強い。
砂が舞い、視界が揺れる。
アルは足を止めた。
(……いる)
空気が違う。
重い。
張りつくような違和感。
次の瞬間——
上空で何かが旋回した。
影が落ちる。
アルは顔を上げた。
「……」
それは、竜だった。
だが——
小さい。
細い。
だが確かに“竜”。
風を裂きながら空を滑る。
(……ウィンド・ワイバーン)
だが、違和感があった。
色が——薄い。
本来の鮮やかな風の色ではない。
どこか、抜け落ちている。
動きも、不安定だ。
旋回がぶれる。
高度が揺れる。
(……ただの生物じゃない)
その時だった。
「下がれ!」
後ろから声が飛ぶ。
振り返る。
数人の冒険者。
そのうちの一人が叫ぶ。
「そいつは汚染体だ!」
ワイバーンが急降下する。
風が唸る。
アルは踏み込んだ。
剣を抜く。
一閃。
風を裂く音。
だが——浅い。
「っ……!」
ワイバーンが跳ね上がる。
空へ戻る。
速い。
だが動きが雑だ。
(読める……!)
再び急降下。
今度は真正面。
アルはタイミングを合わせる。
踏み込む。
振り抜く。
刃が届く。
——その瞬間。
剣が、わずかに熱を帯びた。
アルは気づかない。
ただ、斬る。
ワイバーンの体が大きく揺れる。
「今だ!」
冒険者たちが動く。
弓が放たれる。
槍が投げられる。
連携が入る。
だがワイバーンが暴れる。
風が爆ぜる。
「くそっ、制御できてねぇ……!」
「完全に狂ってやがる!」
(やっぱり……)
ただの生物じゃない。
汚染体。
アルは踏み込む。
三度目。
今度は深く入る。
剣を振り上げる。
振り下ろす。
斬撃が通る。
確かな手応え。
ワイバーンが悲鳴を上げる。
体勢が崩れる。
地面へ落ちる。
砂が舞う。
動きが止まる。
——静寂。
アルは剣を下ろした。
息を整える。
(……終わった)
後ろから声がかかる。
「やるじゃねぇか」
振り返る。
冒険者の一人が笑っていた。
「ガキにしちゃ上出来だ」
アルは軽く頭を下げる。
「ありがとうございます」
「助かった。あのままだと押し切られてた」
別の男が言う。
アルは倒れたワイバーンを見る。
色は——やはりおかしい。
薄く、濁っている。
(……汚染体)
確信に変わる。
「……報告だな」
誰かが言う。
「ギルドに戻るぞ」
アルも頷いた。
そして歩き出す。
その背中を——
誰かが見ていた。




