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無色と十二の旅(アルとジュウニのシルシ)  作者: Matyu
第一章:無色の旅立ち(アルのスタート)
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第1章・第15話 勝てない敵

「……勝てない」


そう思ったのは、初めてだった。


森の奥。


空気が、違う。


静かすぎる。


風も、音も、消えている。


「……」


アルトゥスは足を止める。


クウが、ぴょんと跳ねる。


その音だけが、やけに響く。


「……いる」


気配はある。


だが、掴めない。


その瞬間。


“そこに現れた”。


「――!」


土狼グラウンド・ウルフ


だが――


違う。


「……」


色が、ほとんどない。


灰色ではない。


白でもない。


抜け落ちている。


「……なんだ、これ」


輪郭が揺れている。


存在が、定まらない。


そこにいるのに、確定しない。


「――!」


動く。


速い。


踏み込み。


横薙ぎ。


「っ!」


受ける。


重い。


腕が痺れる。


体が押される。


「……強い」


思わず漏れる。


距離を取る。


だが。


すぐ詰められる。


「……!」


連撃。


止まらない。


「っ――!」


防ぐ。


弾く。


間に合わない。


かすめる。


腕に、傷。


「……!」


読めない。


動きが、ズレる。


一定じゃない。


だが、迷いもない。


「……くそ」


踏み込む。


あえて前へ。


振る。


当たらない。


避けられる。


「……!」


次の瞬間。


衝撃。


体が吹き飛ぶ。


「がっ……!」


地面に叩きつけられる。


息が止まる。


「……っ……」


起き上がる。


遅い。


「――!」


来る。


間に合わない。


無理に振る。


弾く。


だが――


押し切られる。


体勢が崩れる。


「……!」


まずい。


勝てない。


初めて、そう思う。


「……!」


その瞬間。


見える。


ほんの一瞬。


“揺れ”がズレる。


存在のブレ。


「……そこだ!」


無理に踏み込む。


振る。


当たる。


浅い。


だが。


動きが止まる。


「――!」


距離を取る。


息を整える。


荒い。


それでも、立つ。


「……」


土狼グラウンド・ウルフが止まる。


こちらを見ている。


その目。


感情がない。


ただ、存在しているだけ。


「……」


分かる。


今は無理だ。


「……勝てない」


小さく呟く。


悔しさよりも。


現実が重い。


一歩、下がる。


視線は外さない。


さらに下がる。


土狼グラウンド・ウルフは追ってこない。


ただ、見ている。


「……」


背を向ける。


走る。


止まらない。


森を抜けるまで。


「……はぁ……っ……」


息が荒い。


足が重い。


それでも止まらない。


ようやく止まる。


振り返る。


追ってきていない。


「……」


その場に立つ。


静けさが戻る。


クウが、ぴょんと跳ねる。


変わらない。


それだけが救いだった。


「……でも」


アルトゥスは視線を上げる。


あの姿が浮かぶ。


あの動き。


あの“揺れ”。


「……次は、勝つ」


だが。


胸に引っかかる。


「……」


本当に、勝てるのか。


あれに。


今のままで。


答えは出ない。


それでも。


止まらない。


アルトゥスは歩き出す。


届かない距離。


だが――


届かせるために。


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