第1章・第16話 揺れの正体
森の手前。
王都の外れ。
「……」
アルトゥスは立っている。
昨日の場所には、入っていない。
「……勝てない、か」
小さく呟く。
分かっている。
あのままでは、無理だ。
クウが、ぴょんと跳ねる。
その音だけが、変わらない。
「……」
アルトゥスは目を閉じる。
思い出す。
あの土狼。
動き。
速さ。
そして――
「……揺れてた」
小さく呟く。
色だけじゃない。
存在そのものが、ズレていた。
「……」
目を開く。
「……普通じゃない」
当たり前の結論。
だが、それで終わりじゃない。
「……どこがズレてた」
考える。
ただ戦うだけじゃ、届かない。
「……」
一歩、踏み出す。
森に入る。
深くは行かない。
気配を探る。
「……いる」
小さく呟く。
次の瞬間。
ウルフが現れる。
「――!」
構える。
だが、昨日の個体じゃない。
色は薄い。
だが、まだらだ。
「……」
一歩、下がる。
見る。
動きを。
「……来る」
土狼が踏み込む。
「っ!」
避ける。
視線は外さない。
動きは、読める。
「……」
振る。
当たる。
倒れる。
「……」
息を吐く。
今のは問題ない。
だが。
「……違う」
あの個体とは、違う。
圧が、まるで違う。
「……」
さらに進む。
慎重に。
「……いる」
もう一体。
現れる。
色は、少し薄い。
輪郭も、わずかに揺れる。
「……」
アルトゥスは構える。
「来い」
低く言う。
土狼が動く。
速い。
「っ!」
避ける。
だが――
「……今だ」
振らない。
見る。
動きを。
「……」
踏み込みの瞬間。
ほんのわずかに。
ズレる。
「……そこか」
小さく呟く。
次の瞬間。
踏み込む。
土狼が来る。
「――!」
その瞬間。
振る。
当たる。
タイミングが合う。
土狼が崩れる。
そのまま、二撃目。
倒れる。
静かになる。
「……」
アルトゥスはその場に立つ。
息を整える。
「……ズレてるのは、動きか」
完全じゃない。
だが。
確実に違う。
「……一定じゃない」
だから、読めない。
だが。
「……ズレる瞬間がある」
そこを、狙う。
「……」
アルトゥスは視線を上げる。
昨日の個体を思い出す。
もっと速かった。
もっとズレていた。
「……でも」
同じだ。
原理は。
「……いけるかもしれない」
小さく呟く。
クウが、ぴょんと跳ねる。
「……行くか」
アルトゥスは歩き出す。
一人で。
だが。
もう違う。
ただ戦うだけじゃない。
考えて、戦う。
その一歩が。
昨日より、確実に前へ進んでいた。




