第1章・第14話 一人の戦い
森の中。
静けさが、いつもより重い。
「……」
アルトゥスは足を止める。
耳を澄ます。
風。
葉の音。
それだけだ。
「……」
横に、誰もいない。
声もない。
指示もない。
「……行くか」
小さく呟く。
クウが、ぴょんと跳ねる。
それだけが、変わらない。
歩き出す。
視線を広げる。
気配を探る。
だが。
どこか、足りない。
「……」
気づけば、頼っていた。
その分だけ。
今は、自分で判断するしかない。
「……いる」
小さく呟く。
次の瞬間。
草が裂ける。
飛び出してきたのは、ウルフ。
「――!」
横に避ける。
視線を外さない。
「っ!」
距離を取る。
相手を見る。
一体。
だが――
「……」
違和感。
毛並みの色が、薄い。
灰色が、抜けている。
「……」
輪郭も、わずかに揺れている。
「……またか」
小さく呟く。
その瞬間。
「――!」
もう一体。
別方向から飛び出す。
「……!」
遅れる。
背後。
「っ――!」
かすめる。
肩に、浅い傷。
「……っ!」
距離を取る。
息が乱れる。
二体。
同時。
「……くそ」
低く呟く。
セリーナはいない。
全部、自分だ。
「……」
視線を動かす。
一体。
もう一体。
動き。
間。
「来る」
同時に。
「――!」
踏み込む。
あえて前へ。
一体の懐へ入る。
振る。
当たる。
崩れる。
だが。
「っ!」
もう一体。
横から来る。
受ける。
重い。
体勢が崩れる。
「……!」
離れる。
息が荒い。
判断が遅い。
「……まだ、甘い」
自分で分かる。
だが。
崩れてはいない。
「……」
ウルフが唸る。
その姿。
色が、さらに抜けている。
昨日よりも。
明らかに。
「……」
輪郭が、揺れる。
存在が、曖昧だ。
「……なんだよ、これ」
言葉が漏れる。
だが。
考える時間はない。
「――!」
来る。
「っ!」
避ける。
今度は遅れない。
視線を外さない。
動きを追う。
「……そこだ!」
踏み込む。
振る。
当たる。
一体が倒れる。
すぐに次。
残り一体。
「……!」
動きが、読みにくい。
だが。
見続ける。
「……」
来る。
踏み込み。
「――!」
一歩ずらす。
振る。
当たる。
倒れる。
静かになる。
「……はぁ……」
息を吐く。
荒い。
肩が痛む。
血が滲む。
「……」
その場に立つ。
誰もいない。
助けもない。
それが、現実だ。
クウが、ぴょんと跳ねる。
それだけが、変わらない。
「……大丈夫だ」
小さく呟く。
自分に言い聞かせる。
視線を落とす。
倒したウルフ。
「……」
色が、さらに抜けている。
部分的に、消えているように見える。
「……」
昨日よりも。
確実に、進んでいる。
「……行くか」
アルトゥスは歩き出す。
一人で。
判断して。
戦って。
進む。
その一歩は、重い。
だが――
止まらない。




