第1章・第12話 それぞれの役目
王都の夜。
灯りが、静かに街を照らしている。
昼の喧騒は消え。
空気は、少しだけ軽い。
「……」
アルトゥスは歩く。
セリーナが隣にいる。
クウが、ぴょんと跳ねる。
ギルドからの帰り道。
言葉は、少ない。
だが。
不自然ではない。
「……今日は、きつかったですね」
アルトゥスが言う。
セリーナが視線を向ける。
「ええ」
短く答える。
「ですが、安定しています」
アルトゥスは小さく息を吐く。
「……まだ余裕はないですけど」
苦笑する。
その時。
「……アルトゥス」
セリーナが呼ぶ。
足が止まる。
「はい」
振り返る。
セリーナは、少しだけ間を置く。
「……私は、一度神殿に戻ります」
アルトゥスの動きが止まる。
「……神殿に?」
「はい」
静かに頷く。
「情報が必要です」
短く言う。
「今回のウルフの異常――」
一瞬だけ間。
「通常ではあり得ません」
アルトゥスは黙る。
思い当たる。
色の抜けた体。
揺れる輪郭。
「……確かに」
小さく呟く。
セリーナは続ける。
「神殿には、過去の記録があります」
「異変や、神託に関するものも含めて」
アルトゥスは頷く。
「……それで分かるかもしれない、と」
「はい」
セリーナはわずかに視線を落とす。
そして。
ゆっくりと言葉を続ける。
「……それに」
「印があるとすれば、祠の可能性が高いです」
アルトゥスの表情が動く。
「祠……」
「祠は、基本的に巫女の管理下にあります」
静かな声。
「入るには、巫女の協力が必要です」
アルトゥスは考える。
そして、頷く。
「……なるほど」
セリーナは続ける。
「各国の巫女は、学園時代の先輩や後輩です」
「接触できる可能性があります」
短く、はっきりと。
「……一人では、難しいです」
その言葉は、静かだった。
だが、重い。
アルトゥスは黙る。
理解はできる。
「……お願いします」
迷いなく言う。
セリーナがわずかに目を細める。
「止めないのですね」
アルトゥスは苦笑する。
「止めても、行きますよね」
セリーナは、ほんの少しだけ笑う。
「ええ」
それで十分だった。
「俺は俺で、やります」
アルトゥスは言う。
「Cランク、あと8です」
現実は変わらない。
セリーナは頷く。
「はい」
その言葉に、迷いはない。
「それぞれ、ですね」
アルトゥスが言う。
「ええ」
セリーナが答える。
静かなやり取り。
だが、はっきりしている。
「……いつ、戻りますか」
アルトゥスが聞く。
セリーナは少しだけ考える。
「明日には」
短く答える。
アルトゥスは頷く。
「……分かりました」
それ以上は言わない。
必要ない。
クウが、ぴょんと跳ねる。
その音が、やけに軽い。
夜の道。
灯りの中。
二人は歩く。
並んで。
だが。
同じ道ではない。
それぞれの先へ。
「……」
アルトゥスは前を見る。
止まらない。
やることは決まっている。
セリーナもまた、視線を上げる。
その先にあるものを見据えて。
静かな夜。
その中で。
それぞれの役目が、定まっていく。




