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臆病な魔法使いは、小学部で目立たず生きたいのに巻き込まれていく ――言えなかった想いが、少しずつ世界を変えていく  作者: 南山


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第91話 会いに来た理由



「……ここが、その村」


小さく呟く。


思っていたよりも、ずっと静かで。

ずっと、のどかだった。


「モーーーーー」


牛の鳴き声が響く。


背負っている袋を、ぎゅっと握り直す。


……別に、会いに来たわけじゃない。


採れる場所を教えてもらうだけだ。

あの子たちは、山で採ったものを売っていた。

私も、そうして稼ぎたい。


それだけでいい。


そう思っていたのに。


足は、自然と学校の方へ向いていた。


――手紙に書かれていた場所。


――校庭――


「なあオリバー!今日さ――」


レオの声が響く。


いつもの昼休み。

いつもの四人。


その少し離れた場所に、一人。


帽子を目深にかぶった少女。


……見覚えがある。


「……あれ?」


レオが目を細める。


「お前、この前の――」


びくり、と肩が揺れる。


逃げようとする。


でも、足が動かない。


ゆっくりと、顔を上げる。


茶色の帽子に収まりきらない金色の髪が、風に揺れた。


「……」


言葉が出ない。


オリバーたちが近づいてくる。


気づいたように、少し距離を残して止まった。


沈黙。


その中で――


小さく、口を開く。


「……リナ」


それが、自分の名前だと伝えるみたいに。


それだけ言って、視線を落とした。


「リナ、か」


レオがやわらかく繰り返す。


「来てくれたんだな」


ガイルが笑う。


「本当に元気になったんだね」


オリバーが、ほっとしたように微笑む。


「良かった」


ユイトが静かに言う。


その言葉に、少しだけ戸惑う。


違う。


そうじゃない。


「……採取、教えてもらおうと思って」


ぶっきらぼうに言う。


「売るもの、必要だから」


視線は合わせない。


でも――


誰も笑わなかった。


「いいじゃん、それ!」


ガイルが明るく言う。


「ちょうど俺たちも行こうと思ってたんだ!」


「うん、一緒に行こう」


ユイトも頷く。


オリバーは、少しだけ安心したように言った。


「……じゃあ、決まりだね」


胸の奥が、少しだけ軽くなる。


なんでだろう。


目的は、それだけのはずなのに。


――廊下――


「……来たのですね」


ノア先生は、遠くからその様子を見ていた。


あの子が――


オリバーの、恩人。


胸の奥が、ざわつく。


助けられた命。

守られた命。


その言葉が、重く響く。


「……良かった」


小さく、呟く。


本当に、そう思う。


けれど。


同時に、胸が締めつけられる。


視線を落とす。


あの時も――いた。


腕のいいヒーラーが。


何度も、何度も仲間を救ってくれた。


自分たちは、無敵だとすら思っていた。


――あの時までは。


崩れる岩。


伸ばした手。


届かなかった声。


「……っ」


息が詰まる。


無意識に、拳を握っていた。


――違う。


あの子は助かった。


目の前にいる。


それでいい。


それで、いいはずだ。


ゆっくりと息を吐く。


顔を上げる。


「恩人にお礼が言えることは……本当に幸せなのですよ」


その声は、誰にも届かない。


それでも。


そう、願わずにはいられなかった。


――校庭――


「たくさん採るなら、明日だな!」


「学校休みだし、山行こうぜ!」


「今回は町に売りに行けないけどな」


「今なら桑の実がいいね」


「リナは……明日、町に戻るの?」


「それよりさ、今晩どうする?」


「私は、屋根があるところならどこでも寝れる」


あっさりと答える。


少しの間、みんなが顔を見合わせた。


「あのさ」


オリバーが少しだけ遠慮がちに言う。


「うちに牛小屋があるんだ。藁もあるし、寒くないよ」


「本当にそんなところで申し訳ないんだけど……どうかな」


「いいじゃん!」


ガイルが笑う。


「リナさえ良ければだけど」


問いかけられて、少しだけ迷う。


妹には、行くことを伝えてある。


心配はしていないはずだ。


それより――


スリをしていた自分を、泊めようとしてくれることに驚いていた。


みんな、悩んでくれていた。


たとえ牛小屋でも。


それでも。


「……行く」


短く答える。


それだけなのに。


なぜか、少しだけ嬉しかった。


信じられている。


悪いことはしないと。


そんなふうに思われている。


――この子たちは、知らないだろう。


その重さを。


空は、よく晴れていた。


それぞれの想いを抱えたまま。


明日、同じ山へ向かう




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