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臆病な魔法使いは、小学部で目立たず生きたいのに巻き込まれていく ――言えなかった想いが、少しずつ世界を変えていく  作者: 南山


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第88話 見えたのに、会えなかった



「今回は銅貨二十四枚か!」

「それでもすごいよ」

「なあ、今日はケバブにしようぜ!」


店先で袋の中身を確認しながら、ガイルが笑う。


「店長さん、ユイトの父さん、ありがとう」

「おう。坊主たちの持ってくるのは新鮮でいい値段がつくんだ。また来いよ」




新学期が始まる前。


山に入って、いろんなものを採ってきた。

桑の実、フキノトウ、甘草、熊ネギ。


「四年生になると課題が増えて、こんなに遊べなくなるって聞いたよ」

ユイトが言う。


「ふふふ。その通りですよ」

後ろから声がする。


「ノア先生」


今回は往路だけ、ノア先生も一緒だった。


「いやあ、乗せていただいてありがとうございます」

「先生が乗っても全然構わねえさ。馬だもん」


ガタゴトと揺れる荷台の中で、ノア先生は少しだけ柔らかい表情をしていた。


以前より、ほんの少しだけ。


街に着くと、先生とはそこで別れた。



いつもの店で売って、手元に残ったのが銅貨二十四枚。


四人で顔を見合わせて、自然と笑みがこぼれる。

レオがしっかり袋に入れて、店を出る。


ユイトの父さんと一緒に、冒険者ギルド近くの肉屋へ向かう途中だった。


ドシン!


突然、誰かがぶつかってきた。


「ごめんよ!」


小さな影が、そのまま走り去っていく。


「レオ!スられてない?」

「……やられた!」


振り返る。


金髪。茶色の帽子。


あの子だ。


「おい、返せ!」


全員で走り出す。


(今年もか!)


オリバーは路地へと飛び込む。


(先回り――)


角を曲がった先。


やっぱり、いた。


「ねえ!それ、自分たちのお金なんだ!」


距離を詰めようとする。


でも。


(……あの時)

去年の痛みが、足を一瞬だけ止める。


そのわずかな遅れ。


オリバーは右に踏み込んだ勢いのまま、車道に飛び出していた。


「あ――」


(しまった)


時間が、ゆっくりになる。


(また、か)


一瞬だけ、あの時の光景がよぎる。


前世。


迫ってくる車。


(今度は、馬車か)


体が宙に浮く。


うまく動かせない。


その瞬間。

強く腕を引かれた。


反対側へと、放り投げられる。



ブヒヒヒーーーン!!


「馬鹿野郎!俺のせいじゃねえぞ!飛び出したのはそっちだ!」

御者の怒鳴り声が遠ざかる。


痛む膝と肘を押さえながら、顔を上げる。


車道の向こう。


金色の髪が広がっていた。


赤い血が、水たまりのように広がっていく。


「誰かああああ!!」

「助けてええええ!!」


気づけば、叫んでいた。


「教会へ!!」


ユイトの父さんと店長、そしてみんなが駆け寄ってくる。


「いつか、事故ると思ってたんだ」

店長が苦い顔で言う。

「教会に運ぶのはいいが、金がかかるぞ」


その言葉に、オリバーは振り返る。

「……いいよね」

みんなの顔を見る。


「しょうがないなあ」

ガイルが笑う。


「去年もこの子だろ」

レオも肩をすくめる。


「何かの縁かな」

ユイトもうなずく。


「ありがとう」


その子を抱えて、教会へ駆け込む。




「助けてください!」


シスターがすぐに駆け寄ってくる。


「大変……ひどい怪我ね」


一瞬だけ、表情が変わる。


「でも、大丈夫よ。運がいいわ」


「運……?」


「今日は特別に、腕のいいヒーラー様がいらっしゃるの」


胸が、少しだけざわつく。


呼ばれて現れたのは、修道女とは違う服の女性だった。


「わかりました」


その声。

どこか、懐かしい。


(この人……)


職員室前の廊下。


写真。


ノア先生の隣で、笑っていた人。


太陽みたいな笑顔。


(間違いない)


目が合った、気がした。


でも。


彼女は何も言わなかった。



「あら。この子、女の子ね」

淡々と告げて、手を伸ばす。

「さあ、あなたたちは外で待っていて」


そのまま、扉が閉まる。

外に出された。


しばらくして、息を切らした足音が近づく。


「はあ……はあ……」


「……ノア先生?」


顔を上げる。


ノア先生が、珍しく息を乱していた。

「街で……子供が轢かれたと聞いて……」


「俺たちじゃないんだけどな」

レオが答える。


「……そうか」

一瞬だけ、何か言いかけて。

「……君たちでなくて、良かった」

それだけ言って、背を向ける。


ほんのわずかに、足が止まる。

でも、そのまま歩いていった。


しばらくして、扉が開く。


「この子は大丈夫よ」

シスターが微笑む。

「しばらく教会で預かるわね」


「……本当に?」

「ええ。命に別状はないわ」


力が抜ける。

思わずその場に座り込む。


「よかった……」

みんな同じだった。


「そうだ、この子、妹がいるって……」

「伝えておくわね」




夕方。


帰り道。


「よかったな」

ガイルが言う。


「ケバブは?」

ユイトが笑う。


「また今度だ。肉は逃げねえ」


「だな」

「また採ろうよ」


少しだけ、いつも通りの空気が戻る。


その中で。


オリバーは、ぽつりと呟いた。


「なあ……ヒーラーって、光属性だよね?」


「ああ。珍しいぞ。数百人に一人って話だ」

レオが答える。


「……そっか」


あの人。


ヒーラーだったんだ。


ノア先生と、どんな関係だったんだろう。




ふと、思う。


(先生、会えなかったな)


さっきのすれ違い。


ほんの少しの差。


けど。


その違和感は、消えなかった。




話はすぐに次の採取のことに移る。


笑い声も戻る。


それでも。


その引っかかりだけが、


心のどこかに、残り続けていた。



四年生が始まります。

少しずつ変わっていく日常。


そして、まだ知らない“何か”が、静かに動き始めています。


これからも見守っていただけたら嬉しいです。

面白いと思っていただけたら、ブックマークや応援よろしくお願いします。


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