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臆病な魔法使いは、小学部で目立たず生きたいのに巻き込まれていく ――言えなかった想いが、少しずつ世界を変えていく  作者: 南山


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第85話 雪の中で、少しだけ前へ

校庭に出た瞬間、空気が一段冷たく感じた。

「……寒っ」

ガイルが肩をすくめる。吐いた息が白く広がった。


一面の雪。踏みしめると、きゅっ、と小さく音が鳴る。


「今年もきたね、雪合戦大会」

ユイトが言った。

「だな。九人で旗取り戦だ」

レオが手袋をはめながら答える。


中央には目印の旗。両陣営の間に一本だけ立っている。

開始の合図と同時に、どちらかがそれを奪えば勝ち。


「今年は作戦通りできるといいね」

オリバーが周囲を見ながら言う。


「防御も戦略もありってやつだな」


例年通りの説明。

例年通りのはずなのに、どこか少しだけ違っていた。


オリバーは笑っている。

でも、前よりも周りをよく見ている気がした。


ガイルはそれに気づいていた。

(……いつも通り、か)

心の中でつぶやく。

「配置確認だ」


「前は俺とレオで出る。オリバーは後ろで指示」

ガイルが言う。


「了解。無理しないでね」

オリバーはすぐにうなずいた。


その言い方が、少しだけ大人びていた。



開始の合図が鳴る。


一斉に雪が舞い上がった。


「行くぞ!」

レオの声で、前に出る。


最初の一投。


ゆるく飛んできた雪を、ガイルは軽く避けた。


「遅えよ!」

言いながら雪を掴んで投げる。


別の雪玉が来る。

「うわっ、冷たっ!」とユイトの声。


小さな笑いが広がる。

その瞬間、ほんの少しだけ空気が軽くなった。


「ガイル、右から来る!」

オリバーの声。


視線を向けると、別チームの動きが見えた。

(……見えてる)


前なら、気づかなかった距離。

ガイルは一歩踏み出し、飛んできた雪を払う。


「ナイス」

レオが短く言う。


「だろ?」

軽く返す。


「壁、作るよ」

オリバーが手をかざす。


雪がせり上がり、低い壁になる。

視界を切る位置。ちゃんと計算されている。


「ここからなら旗が狙える」

しゃがんだまま、オリバーが言う。


その横顔は、少しだけ真剣だった。


(ちゃんと見てるな)


ただ楽しいだけじゃない。


周りも、距離も、流れも。


「いくよ」

オリバーが雪を投げる。


きれいな軌道で当たる。


「おお」

ガイルは思わず笑った。

「やるじゃねえか」


「でしょ?」

その笑顔は、どこか強かった。


試合は動く。



前線が崩れ、旗の周りが空く。


「今だ!」

レオが走る。


ガイルも続く。


雪を踏みしめる音が連なる。


途中、横から雪が飛んできた。


とっさに手を出す。


当たる前に払う。


(見えた)


前なら間に合わなかった。


ほんの少しだけ、違う。


旗まで、あと数歩。


だが相手も迫る。


「ガイル!」

オリバーの声。


一瞬だけ振り返る。


目が合う。


迷いはなかった。


ガイルは一歩横に出て、相手の進路に雪を投げる。


その隙に、レオが旗を掴んだ。


「取った!」



歓声が上がる。


試合終了。


息を切らしながら、その場に立つ。

白い息が空に溶けていく。

(……あの日)

頭をよぎる。

教室。崩れる音。荒い呼吸。


拳を軽く握る。

(……でも)


顔を上げる。


そこには、笑っている顔がある。

少しだけ違う、いつもの顔。


「ナイスカバー」

レオが言う。


「おう」

短く返す。


「ガイル、ちゃんと見てたね」

オリバーが近づいてくる。


「まあな」

照れくさくて、少しだけ目を逸らす。


ユイトが笑う。

「成長してるじゃん」


「うるせえ」

言いながら、口元は緩んでいた。



何も解決していない。


先生のことも。


何一つ終わっていない。


それでも。


今、ここにいる。


隣に、いる。


それだけで。


「次の試合も勝つぞ!」

レオが声を上げる。


「おう!」


声が重なる。


雪が舞う。


白い世界の中で、笑い声が続く。


その日。


すべてが元に戻ったわけじゃない。


でも。


確かに、前には進んでいた。


雪の中で、ほんの少しだけ。




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