第81話 あの夜、誰も同じ願いじゃなかったー流星群の下でー
ーガイルの場合ー
最近、何もかもうまくいっていなかった。
だからこそ、その夜の星はやけに眩しく見えた。
「うわー!すげえ!」
「たくさん流れるね。きれいだね。」
声が自然にこぼれる。
夜の帷の中、星がいくつも流れていく。
ここはオリバーの牛小屋の前。
秋の空気の中、みんなで寝そべっていた。
「ノア先生、いいこと教えてくれたね」
「本当。前の時もきれいだったけど、今回もすごいな」
「蛍の時の星空もきれいだったけど、流星群って別格だね」
前と同じ顔ぶれに、今日はユイトもいる。
星は何度も流れる。
でも、どれも違う方向へ消えていく。
「……なんだかさ」
ぽつりと、言葉がこぼれた。
「最近、全然うまくいかなくてさ」
「ボートの時も、俺、沈ませちゃっただろ」
「まあ。そんなこともあったねえ」
ユイトが軽く相槌を打つ。
「テストも散々だし」
「ガイル頑張れ、だね」
オリバーがやさしく言う。
「柿の実習は爆発させちゃうし」
「それはお前のせいだな」
レオが即答する。
「ぐぬぬ……何も言えねえ」
暗い空を見上げながら、少しだけ笑う。
「……でもさ」
「こうやって星見てると、ちょっとだけ楽になるっていうか」
うまく言葉にはできないけど。
草の上に体を預ける。
顔なんてもう、誰のものか分からない。
「ガイルの言う通りだね」
オリバーの声。
「これだけきれいだと、悩みも小さく感じるよ」
ユイトが続く。
「だな」
レオも短く言った。
気づけば、さっきより息が軽い。
「なんか……愚痴ってたら、楽になったわ」
自然と、笑っていた。
少しの沈黙。
そのあとで、レオがぽつりと呟く。
「……だからさ」
間があって、
「ガイルは、ガイルらしいのが丁度良いんだよ」
その言葉が、やけに胸に残った。
「俺はちょっとへこんでただけだし!」
「ガイルでもへこむんだね」
「おまっ、ユイトそれは……!」
「ガイルはガイルだよ」
オリバーが笑う。
「こいつはあのガイルだぞ。勝手に復活するに決まってる」
レオが肩をすくめる。
――なんだよ、それ。
でも。
信じてもらえてる気がした。
胸の奥が、少しだけあたたかくなる。
「来年も、流星群あればいいな」
レオが言う。
「おう!」
「「うん」」
流星群じゃなくてもいい。
こうして、一緒にいられれば。
ー同時刻 オリバーの家ー
「あいつら、大騒ぎだなあ」
「オリバーに友達がたくさんできて、私うれしいわ」
母さんと並んで、外を眺める。
「俺たちも見るか、流星群」
「暗いわね」
「暗くないと見えないだろ。足元気をつけて」
「キャッ」
「おっと」
思わず抱き止める。
近い距離。
星明かりが、母さんの瞳に揺れていた。
「……このところ、変よ」
「……母さんが綺麗だからだろ」
小さく、笑う。
「もう」
「星、見るんじゃないの」
「見てるよ」
夜空を見上げる。
「きれいだな」
「ええ。本当に」
肩が、ほんの少し触れていた。
ー同時刻 ノア先生ー
窓から流星群を見ていた。
「すごい星だ……教えてよかった」
こんな夜は、北の山を思い出す。
あの人と、パーティーを組んでいた頃。
ヒーラーのあの人と、アタッカーのあいつと、そして自分。
怖いもの知らずで、若かった。
目を閉じる。
――音が蘇る。
岩が崩れる音。
悲鳴。
自分の叫び。
「……っ」
息が乱れる。
頭を振る。
(終わったことだ)
そう言い聞かせるのに、時間がかかる。
窓に映る自分は、きっと青ざめている。
「こんなことで、思い出すなんて……」
それでも。
星は、流れ続けていた。
ー同時刻 校長室ー
封書を見つめる。
「ようやく……長かったのう」
小さく息を吐く。
「我らの祈りは、届いた……か」
だが。
「……知らぬ方が、幸せなこともある」
封書を戻し、鍵をかける。
窓の外。
星はまだ流れている。
何度も。何度も。
同じ空の下で、
それぞれ違う方向へ。
――それでも。
どれも、消える前に確かに光っていた。




