第78話 ボートの季節(勝って負けて)
「今年の対戦相手はどこだ?」
「五年だって」
「うえー。」
今年も全学年参加のボート大会が始まる。
「絶対疲れるやつだ。」
「ああ。暑くなりそうだけどな」
レオとガイルがぼやいている。
朝からカンカン照りだ。
昼の暑さが約束されている。
でも今日の闘志は消えていない。
レオが額を寄せる。
「確認だ。いいかあ。まず、スタートダッシュだ。
三人で漕ぐ。抜いたら魔法係一号。オリバーだ。ボート一つ分先行したら二号。俺だ。その後三号でガイル。いいな。」
うなずく。
「でも。相手はーーあの人たちみたいだよ」
対戦相手と思われる五年生を目で示す。
「やば。本当か?あれ、中学部じゃねえの?」
「ヒゲ生えてる様に見えるんだが?」
レオもガイルもチョット怯えている。
「これ、一号二号の出番を早めたほうが良いんじゃない?」
提案するとすぐにレオがうなずく。
「だな」
「作戦を練り直そう」
先生がピストルを上に向ける。
「用意……」
パアーン!
三人で漕ぐ。
「一、二!一、二!……」
レオの声がリズムを取る。
腕がもう壊れそうだ。
ボートは並んでいる。
「もういいぞ!」ガイルの声。
それを合図にオリバーはボートの櫂を手放す。
(……風)
成功したイメージを思い出す。
包むように。
ボートに風をあてる。
相手が揺れる。
「よし。」
いいぞ。
上手に扱える様になってる。
「お。」
五年生の声。
「やって来たな」
待ってましたとばかりの言葉。
こっちを向いている。
余裕の表情だ。
(何か来る)
そう思った時、五年生の真ん中の人が魔法をかけてくる。
一瞬後、
ザバァッ!
水の塊が、そのまま叩きつけられた。
ボートの中に大量の水が入ってきた。
風魔法ではなくて水魔法だったのだ。
「マジか!」レオが呟く。
五年生の水球は、自分たちが作るものより明らかに大きい。
それが二個三個、どんどん入ってくる。
「やばい」
風対策は出来ていた。
水は……まだだった。
今更ながら悔やむ。
でも今は!
「こっちも水だ」
気がつくと叫んでいた。
水球を相手ボートの上で作って放り込む。
「うわ。濡れる!」
五年生も慌てている。
「レオ!」
「おう!俺も水でいくぜ!」
レオの水球も追加だ。
「やべえ。早くゴールしようぜ」
「逃してたまるか!」
ガイルが叫ぶ。
大きな水球が二つ。
頭上に浮かんでいた。
「おい。まさか」
レオがごくりと息を呑む。
「うりゃあああああ!」
一つの水球を投げる。
ガイルまで投げる格好をしている。
水球は五年生のボートに吸い込まれていく。
大きな飛沫をあげた。
「うわあああ!」
ボートは水が溢れてブクブクと沈んだ。
みんなあっけに取られていた。
ガイルがハアハアと肩で息をしている。
ガイルがぺたりと船に座り込んだ。
その時、もう一つの水球が――
ゆっくりと、こちらに落ちてくるのを見た。
バッシャーーーーン。
「なんでー?」
レオの声が聞こえた。
湖に落ちた。
「またかよ」
レオが呆れている。
「もう疲れた。泳げん」
ガイルが足の立つ湖で言う。
「あほ。歩け」
レオの即答。
「すごかったね」
「だろ?」
「ばああか」
みんなで大笑いだった。
こんなことが起きるなんて誰も予想してなかった。
三人、岸に上がる。
もう遭難者みたいに倒れ込んだ。
ザッザッザと砂を踏む音。
さっきの五年生だ。
上半身裸の姿は筋肉がついていてムキムキだ。
「やべえ。やられる」
レオが小声で言う。
「お前がガイルか?」
先頭の人がガイルに話しかける。
ガイルは顔を少しあげて返事する。
「おう。俺だ」
しばらくの間。
五年生は急に笑顔になった。
「お前。すげえな。これからもよろしくな」
握手をして去っていった。
五年生が去った後、ガイルは、いやレオも自分もポカーンとしていた。
「助かった……んだよな」
「やられると思ってた」
レオと顔を見合わせる。
これって。
レオが呟く。
「ガイル。また、男に惚れられてるぞ」
「また、チョコ増えるね」
「やだよ!」
また大笑いだった。
砂が体に張り付く。
でもそれも乾いてサラサラと
すぐに落ちる。
汗のところだけ、残る。
暑い夏だ。
自分たちの夏だ。
まだナツアカネが、
夏の中を、ゆっくり飛んでいた。




