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臆病な魔法使いは、小学部で目立たず生きたいのに巻き込まれていく ――言えなかった想いが、少しずつ世界を変えていく  作者: 南山


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第77話 ボートの季節(風のかたち)

湖の朝は、もう暑かった。

トンボが飛んでいる。

水面が光を跳ね返して、目が細くなる。


ボートの練習は続く。


「今日もやるぞー!」

ガイルが元気よく手を振る。


「朝から元気だな……」

レオが肩を回しながら笑う。


それぞれ、ボートの準備に入る。


オリバーは、少しだけ遅れて歩いた。


(……昨日、うまくいかなかったな)


エマたちのチームは転覆。

自分たちは作戦通りに魔法係をすることが出来た。


それはいい。ただ、自分の風魔法が、思ったより力が出ないことが問題なのだ。


普通の授業なら、深呼吸からでも行える。

ただ、こういう実戦に近いと話は別だ。


魔力測定と属性確認をしてから、思ったように出ない。


(……まあ、元々思った様には出来ないけどさ。)


手を軽く握る。

感覚はあるのに、

形にならない。


「おい、オリバー」

レオの声。


顔を上げる。


「考えすぎんなよ」

軽く言う。


「……顔に出てた?」


「出てる」

即答だった。


ガイルが横から笑う。

「わかりやすいんだよ、お前」


「そうかな……」

少しだけ笑う。


「昨日のやつさ」

レオが続ける。


「風、良かったぞ」


「え?」


「出かけてた。ちゃんと」

短く言う。


ガイルもうなずく。

「タイミングだけだな。あとちょっと」


(……そっか)


胸の奥が、少し軽くなる。


「今日はさ」

ガイルがにやっと笑う。

「俺らも本気で行くから」


「え」


「練習あるのみだ」

レオも笑った。


一瞬、言葉に詰まる。


でも――


「うん」

今度は、ちゃんと頷けた。



湖にボートが並ぶ。

風はない。

水面は静かで、

その分、すべてがはっきり出る。


「位置につけー!」

ノア先生の声。


それぞれ構える。


レオが息を整えている。

ガイルが真剣な顔。


「いくよ」

隣のボートで、エマの声。


「俺らも行くぜ!」

「おう!」

「うん」

(大丈夫)

自分に言い聞かせる。


「よーい……ドン!」


一斉に漕ぎ出す。


水が跳ねる。


腕が重い。


でも、止めない。


「一、二!一、二!」

レオの声が響く。


いいリズムだ。


(いける)


そう思った瞬間――


横から水が来た。


「っ!」


リリカだ。


早い。

さっきからボートの右側ばかり狙ってくる。


「バランスが取りにくい!」

レオの声。


(風……)

イメージしてしまう。

昨日の失敗。


でも――


違う。


(包む)


土じゃない。

水でもない。


“流れ”をつくる。


空気が、少しだけ動いた。


水面が揺れる。


「今!」

リリカの風に合わせて、その流れを横に流すように風を出す。


相手のボートが、わずかに傾く。


「やった!」

ガイルが声を上げる。


でも、

まだ足りない。


(もう少し)

息を吸う。

風を、押す。


今度は――


はっきりと動いた。


相手のボートがぶれる。




「え!?」

エマの声。


「来たな!」

ユイトが叫ぶ。


その瞬間


ユイトの方も、何かを合わせてきていた。

――強く、来た。

ユイトの風。


ボートが大きく揺れる。


「うわ!」

ガイルがバランスを崩す。


(支えないと)


反射的に風を出す。


押すんじゃない。


横に流す。


流れをぶつける。


揺れが、少しだけ収まる。



「……え?」

レオが驚いた顔をする。


リリカも驚いた顔。


(今の……)


自分でも、分かる。


(できた)


初めて、


思った通り出せた。



でも、

次の瞬間。


「うわっ!」

バランスが崩れる。


「やばい!」


ボートがひっくり返る。

水の中へ。



水の中は静かだった。

音が遠い。

光が揺れる。


(……あ)


浮かび上がる。

顔を出す。



「ぷはっ!」

「大丈夫!?」

「こっち!」


みんなの声。


大丈夫。


ちゃんといる。

ちゃんと、ここにいる。


エマたちのボートも止まっていた。



「今の、よかったぞ」

レオが言う。


「うん」


ガイルも笑う。

「守ったな」


(守った……出来た。自分の風で)


胸の奥に、

さっきの感覚が残っている。


強くはない。

でも、確かにあった。


風。


岸に上がる。

濡れたまま座り込む。

暑いのに、少しだけ寒い。


でも、

悪くない。



「もう一回やる?」

エマが笑う。


「もちろん!」

レオも元気だ。


リリカもうなずく。


オリバーは、少しだけ空を見た。



風はない。


でも――


(なくても、いいか)


さっき、あったから。


自分の中に。




「次は勝つぞー!」

ガイルの声。


笑い声が広がる。



湖の水が、きらきら光っていた。


ナツアカネの時期はまだ続いている。


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