第76話 ボートの季節(風のない日)
太陽がジリジリと私たちを焼く。
汗が垂れる。
重いボートをかつぐ。
風は、ない。
「一、二、一、二、、、、」
「さすが、男子が一人入るとボートも少し軽いわね」
「エマ。そんなにおだてないでよ。僕なんてそんなじゃないよ」
三人でボートを運ぶ。
ユイトとは今回一緒に組むことになった。
ミナがケントのチームに入った。かわりにというか。ボートは三人か二人だし。丁度良かった。
バランスも良い。
女子三人ではパワー不足だった。
「僕で、大丈夫かな」
ユイトは本当に申し訳なさそうに、小さくなっている。
「何言ってるの。こちらこそよろしくね」
「エマの言う通りよ。私こそよろしくなのよ。」
リリカはこのあいだの魔力測定で魔力が少なくて、泣いていた。でも、それは力こそ少ないかもしれないが、コントロールとは別の話だと、私は思っている。
細かなコントロールでは私は負けている。
それに私はリリカが努力家だ。
あれから地道な努力で魔力を上げてきているのを、私が分からないはずがない。
でも、自信だけは、なかなか戻らない。
何とか彼女の良さをみんなに、いやリリカ本人にわかってもらいたいといつも思っている。
私もそんな人に言えるほどでもないけど。
ピピー。
笛が鳴った。
ノア先生が呼んでいる。
「今年もボート大会の時期ですね。張り切って練習しましょう。
この湖は浅いので足がつきますが、慌てず、事故のないようにお願いしますね」
ノア先生はにっこりして仰る。
「はい!」
私は大きな声で返事した。
「リリカ。ユイト。私たちはどうしても力が弱いから、魔法で勝ちたい。」
二人はうなずく。
「そうね。それしか無いわ。」
「レオ達も作戦立ててた。相手にゴールさせないようにって」ユイトが情報をくれる。
リリカはちょっと考えて提案する。
「例えば。相手の右側だけ、風なり水なりぶつけたら?まっすぐ進めなくて回転しちゃうんじゃない」
「いいわね。転覆までいかなくてもゴールしにくくなるわ。」
「リリカ冴えてる!」
「いや。それ程でも……。私、魔力少ないし。こんなことしか……」
「じゃあ、アイデアポイントだね」
ユイトがリリカに言うと、途端にリリカの顔が耳まで赤くなった。
バレちゃうよ。
ボートを懸命に漕ぐ。
リリカの体は華奢で、ユイトも体力に自信はなさそう。
ここは私が漕ぐしかない!
「一、二、一、ニ。……」
太陽の光が反射して水面が眩しすぎる。
でも、水面をなでるこの風は、全部私にぶつかってくる。
気持ちがいい。
「よう。何笑ってるんだ?」
突然にレオの声。
いつの間にか隣に来ていた。
「キャッ」
思わずびっくりした。
レオは二カリと笑った。
……こいつの。
こういうところなのよ。
ほんと。
自分の顔が赤くなってないか気になるけど、きっと日焼けと思ってもらえそうだ。
「模擬戦やらないか?」
「ええ。いいわよ。願ってもないわ」
スタートラインについて。よーいドン!でスタート。
レオ達はダッシュをかける。
到底追いつけない。
と、思ったらオリバーが風魔法をかけだした。
ボートが揺れる。
次にレオが水を。
やだ。転覆しちゃう。
「おりゃあ!」
ガイルの声。
大きな風が叩きつける。
ボートが、横に跳ねた。
「うわあ!」
「キャアー!」
「大丈夫?みんな。」
ユイトの声
「私は大丈夫。リリカは?」
「ゲホッゲホッ。何とか。」
みんな怪我はないみたい。
「レオたち、よく考えたわね」
「フッフッフ。どうかなこの作戦」
ガイルは嬉しげだ。
「悪くないわ」
私は肩をすくめた。
「本番もこれでいけると思う?」
オリバーは手を差し出してくれる。
「いいんじゃねえかな?」
レオもひっくり返ったボートを直してくれた。
レオと一瞬手が触れた。
気になっていたのは私だけで、レオは何にもなかったような顔をしている。
こんな気持ちなのは、私だけなのか。
ちょっと切ない。
でも、近くに入れるならそれでもいい。
「リリカ。ユイト。私たちももう一度やろう!せっかく考えた作戦が出来なかった!」
「うん!」
「そうだよ!」
頑張るみんなの気持ちは、一緒だった。
照り返す光が強い。
風は、ない。
でも――
湖の水が、気持ちいい。




