第74話 湖には何かがいる
「あちー……」
机にうつ伏せる。
「ガイル、溶けてるぞ」
レオが笑う。
「とろとろー……」
この前は土魔法。
今日は湖で水泳。
どっちも楽しいけど――暑い。
窓を見る。
干された水着が揺れている。
放課後も、きっとこの暑さだ。
(溶けるな……)
そう思ってたら、
「ねえ、レオ。泳ぎ教えて?」
エマが来た。
レオが、何言われてるか分からん顔でこっちを見る。
――俺を見るな。
「やろうぜ」
即答だ。
涼しいし。
(そっか、泳げばいいのか)
気づかなかった。
一応ノア先生には許可もらって、湖へ。
俺ら四人と、女子三人が来た。
準備体操のあと水へ。
うおおお。やっぱり気持ちいい。
湖には授業用にロープが四角く張られていて、コースになっている。
よしよし。
「泳ごうぜ」と声をかけたけど、あれ?
どういうこと?
レオはエマにつかまっている。
ユイトはリリカとミナに。
そうか「教えて」とか言われていたな。
まあいい。
女子はやつらに任せて俺は泳ぐ。
「ンじゃ。オリバー。行こうぜ」
「うん」
オリバーと並んで泳ぐ。
あいつ、見た目より速い。
しなやかっていうか――くそ、負けそうだ。
「競争だ!」
潜る。
そのとき。
オリバーが、向こうを指さした。
次の瞬間、腕をつかまれる。
ぐいっと引かれる。
水面へ。
「はっ……はっ……」
息を整えるオリバー。
「どうした?」
「……人魚だ」
「人魚?そんなの......」
「もしいたら、俺たち......」
ユイトやレオが何かあったのかと寄ってきた。
「人魚って。歌声で人を惑わすって。」
「そんで食べちゃうんだろ?怖いよ」
ユイトは完全におびえている。
「ここにいるって聞いたことないぞ?」
レオが軽くいう。
「でも、何かいたんだ」
オリバーがはっきり言う。
「調べようぜ!」
俺は言い切る。
オリバーが見たんなら、何かいたんだ。
それが人魚かどうかは分からないけど、何だかワクワクする。
女子たちは岸に上がってもらった。
レオが先生を呼ぶように頼んでいた。
安全確保か。さすがだ。
さっき見たところに戻る。
オリバーが指をさす。
水面の下。
何かが動く。
速い。
魚じゃない。
細長くて――
「あれ……」
目を凝らす。
「……アザラシだ!」
思わず声が出た。
「オリバー!人魚じゃなくてアザラシだ。」
「大丈夫だ。食われることない!」
魚を食うやつだ。
人は襲わない。
オリバーは、安心の息をついた。
緊張してたんだろう。
肩を抱いたら、にっこり笑ってきた。
「良かった。ガイルが分かってくれて安心したよ」
「え?うん。知ってた、だけだ。」
え?俺、すげえ?
「たまに、知ってるものがあって良かったな」
レオがすぐ言う。
「ガイル、生き物は何故か詳しいんですよね」
ユイトまで。
「何?俺がすごいって褒めろよ!」
「すごいすごい」
何か腑に落ちない。
「ガイル。すごいよ」
オリバーが優しく言ってくれる。
「そう来なくっちゃ!」
「オリバー。褒めるとガイルはすぐに図に乗るから」
レオの声。
でも大当たりでみんなが笑う。俺も笑った。
岸に上がるとノア先生がいた。
いつも通りニコニコしている。
「アザラシがいましたー!」
「そうですか。良かった。その程度で。」
みんなが、耳をピクリと動かす。
「いやね。昔。昔なんで、心配しないでくださいね。」と前置きしてからぼそりという。
「大きなイカが出て来たことがあってですね......。」
聞いた瞬間驚いた。
「......!ふざけんな!あぶねえ!」
「マジかよ!」
「えええ~!」
女子たちは口を手で押さえている。
「だから、昔と。もう半世紀近くも出ていなくて。きっと絶滅しましたよ」
ニコニコとノア先生は言う。
「伝説の魔法使いが倒したらしいですよ」ウインクして見せる。
「それ。すげえ!」
「かっこいい!」
「さ。もう帰りましょう。そろそろ暗くなります」
ノア先生はニコリとした。
「校長先生の伝説も、楽しいですね」
一人呟いた。
「誰だろう?」
「昔のことだから......」
「もう、おじいちゃんだよねえ」
帰り道みんなで話しながら帰ったけど、全然わかんねえ。
「あ。そろそろボート……」
レオが思い出したように言う。
「やるか!」
今年も、やってやる。
湖の水が、夕焼けに光っていた。




