表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
臆病な魔法使いは、小学部で目立たず生きたいのに巻き込まれていく ――言えなかった想いが、少しずつ世界を変えていく  作者: 南山


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

69/98

第68話 風の夜



「うわ……人多すぎだろ」


思わず声が出た。


白鳥祭。

村中の人が集まってるんじゃないかってくらいの人の波だ。


「はぐれんなよー!」

ガイルが笑いながら振り返る。


「お前がな」

「なんでだよ!」


いつも通りだ。


少し歩くと、見慣れた顔があった。


「おーい!」


ユイトだ。

屋台の中で手を振っている。


「手伝いか?」

「うん。今日はうちの店、ワイン売るんだ」


カウンターの上には、見たことのない瓶が並んでいた。


「普段は日用品だけどさ。祭りは特別らしくて」

「へえ」


「でも、君たちはこっちだよ」


ユイトがにやっと笑って、別の瓶を出してきた。


「ジュース。ちゃんと用意してある」


「お、気が利くじゃん!」

ガイルがすぐ食いつく。


「飲む飲む!」


金を払って受け取る。


「うまっ」

「ほんとだ」


少し甘くて、さっぱりしてる。


「これ、いいな」

オリバーが小さく言った。

ジャックも嬉しそうに頷いている。


「でしょ?」

ユイトが少し得意げに笑う。




そのとき、強めの風が吹いた。


布の屋根がばさりと鳴る。


「うわ、すげえ風」

ガイルが空を見上げる。


夜空は雲ひとつなくて、星がやけに近く見えた。


「今年、風強いね」

ユイトも外をちらっと見て言う。


少しだけ、間を置いて。


「白鳥、飛ぶかもね」


「白鳥?」

俺が聞き返す。

「この祭りの日ってさ。風が強い年は、湖から白鳥が一斉に飛ぶって言われてるんだよ」


「へえ……そんな話あんのか」

ガイルが興味深そうに身を乗り出す。


「見たことあんの?」


「僕はない。でも、僕のおじいさんは見たって言ってた」


風が、もう一度吹く。


さっきより、少し冷たい。

夏なのに。


ざわついた空気の中に、ほんの少しだけ、静けさが混ざる。


「……見てみたいな」


思わず、そんな言葉が口をついた。


ユイトが一瞬、こっちを見る。


それから、ふっと笑った。


「じゃあ、あとで行く?」


「え?」

「店、少し落ち着いたら抜けるよ。湖、そんな遠くないし」


「いいのかよ」

ガイルが驚いた顔をする。


「おじさんに怒られねえ?」


「大丈夫だよ。なんとかなるよ。多分」


そう言いながらも、ユイトはちらっと奥を気にしている。


「……まあ、様子見てだけどね。」


「よし、決まり!」

ガイルが勝手にまとめる。


「白鳥だ白鳥!」


その勢いに、俺が苦笑する。


「お前ほんと元気だな……」


「あとでまた来てねー!」

「おう!」

手を振って、また人混みに戻る。


山車が通り、その後を太鼓隊が追うように行く。

かっこいい。


「次、何食う?」

「まだ腹に入るのかよ」


ガイルと軽口を叩きながら歩く。


オリバーはジャックと一緒に、少し後ろを歩いている。

自然と、ああなる。


(あいつ、ちゃんと兄ちゃんやってんな)




ふと、風が吹いた。


提灯がゆれる。

その先で――見覚えのある後ろ姿。


「……あ」


姉ちゃんだ。


髪をきれいに結ってる。

いつもより、少し大人っぽい。


隣には、知らない男。

楽しそうに笑ってる。


(……なんだよ、それ)


一瞬、目をそらしかけて、

やめた。


胸の奥が、ちょっとだけざわつく。


そのとき。


横で、オリバーが立ち止まっていた。

同じ方を見ている。


風が、もう一度吹いた。


髪が揺れる。


その動きに、目がいく。


(……やっぱ)


「なあ」


声をかける。


オリバーがこっちを見る。


「お前、やっぱ風っぽいよな」


「え?」

少しだけ、目を丸くする。


「なんとなくだけどな」


それだけ言って、前を向く。


少し歩いてから、また口を開いた。


「属性のこと。親に言ったか?」


「……うん」


「どうだった」


「そのうちに、好きな属性が見つけられるって。慌てなくていいって言われた」

苦笑する。

「でも、自分で選べって」


「ああ」


頷く。


「うち、すげえ喜んでたぞ」


「土だったって言ったらさ。親父が――

いきなり持ち上げようとしてきて」


少しだけ笑う。


「……重くてさ。苦労してた」


一呼吸おく。


「そんでさ」

「“あいつの子はどうだった”って」


オリバーが、少し驚いた顔をする。


「俺よりお前のこと気にしてたぞ」


少しだけ、間を置く。


「……お前の方が不安だろうにな」


オリバーは何も言わない。


「でもさ」


足を止めずに続ける。


「別にいいだろ」


「え?」


「何でも」


肩をすくめる。


「どうせ一緒に遊ぶし」


少しだけ振り返る。


「だろ?」


オリバーが、少しだけ笑った気がした。


「だってさ」


「俺がケガしたら、一番に応急処置してくれんだろ?」


「レオ、まだそれ覚えてるの?」

「当たり前だろ!」


笑い声が広がる。


(ほんと、変わんねえな)


「これうま!」


ガイルの声が、前の方から聞こえる。

ウインナーの匂いがする。


ジャックの笑い声もする。


夜が深くなる。

人の流れが、少しだけ落ち着く。


「始まるぞ!」


誰かの声。


空を見上げる。


――ドン


大きな音。

花火が開く。


光が、夜を切り裂く。


赤、青、金。

音のあとに、遅れて胸に響く振動。


「すげえ……」

「でっか……」


ガイルとジャックがはしゃいでいる。


オリバーは、黙って見上げていた。


(……)


横顔は、見ない。

見なくても分かる。


今、何を考えてるかなんて。


全部は分からない。


全部は分からなくても、

大体は分かる。


(まあ、いいだろ)


もう一発、花火が上がる。


夜空に広がる光。


風が、少しだけ吹いた。


(こいつは、こいつだ)

それでいい。


花火の音に紛れて、

そのまま何も言わなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ