第66話 見えないものの行方
「なあ!昨日のやつもう一回やりてえ!」
ガイルが机に身を乗り出す。
「無理だろ。測定は一回だって言ってたぞ」
レオが即答する。
翌日。教室。
今日は朝から、音のしない雨が降っている。
「えー!じゃあどうやって強くなんだよ!」
「だから基礎だって」
ユイトが苦笑する。
いつも通りのやり取り。
でも――
(昨日と同じなのに、少し違う)
オリバーは、ぼんやりとそう思っていた。
簡単な魔法実習。
「じゃあ、昨日の属性を意識してやってみましょう」
ノア先生が、いつもの軽い調子で言う。
ガイルの火は、少しだけ大きくなった。
レオの土は、形が安定している。
ユイトの水は、揺れが少ない。
「おおー!」
周りが盛り上がる。
(ちゃんと“らしく”なってる)
オリバーもやってみる。
でも。
水を出そうとして――風のように散る。
風を意識すると――水のように重くなる。
(……まただ)
うまくまとまらない。
(どうしてなんだろう)
「オリバー」
声をかけられる。
振り向くと、ノア先生。
「少し、いいかな?」
外に呼ばれる。
廊下。
「昨日の結果、どう感じましたか?」
「……よく分からないです」
正直に答える。
ノア先生は、少しだけ笑った。
「そう。分からない、は正しいですね」
「はっきりしている子は分かりやすい。でも――」
少しだけ間を置く。
「はっきりしていない子は、“どうにでもなれる”」
オリバーは黙る。
「ただし」
先生の声が、少しだけ低くなる。
「何もしなければ、“何にもなれない”」
静かな言葉。
先生の顔を見る。
ノア先生は、軽くウインクしていた。
「選ばないといけないのです」
「自分で?」
「そう。自分で。少しずつでいい」
ノア先生はしゃがんで、目線を合わせる。
「あなたはね、“最初から決まっていない”タイプです」
「え?」
「だから怖い。でも――」
少しだけ微笑む。
「一番、遠くまで行ける可能性がある。それが強みです」
(遠く……)
ノア先生は教室に戻っていった。
でも、オリバーはしばらく動けなかった。
遠くって。
選ぶって。
すごく難しいことを言われた気がする。
教室に戻ると、
「おせーぞ!」
ガイルが手を振る。
「何話してたんだ?」
「……ちょっとだけ」
席に座る。
手を見る。
昨日と同じ手。
でも。
(少しだけ、違う気がする)
うまく言葉にできない。
今日も下駄箱に、リリカとエマがいた。
「ママにちゃんと伝えたわ。そしたら言われたの。
“できることを精一杯に。弱い者はそれなりの能力を磨くのよ”って。
私、頑張る」
昨日とは、まったく違う表情だった。
エマが、そっと肩を抱いている。
帰り道。
霧雨。
でも、風がある。
ふと、木の葉が舞う。
(あれ?)
一瞬。
葉の動きが、少しだけ“分かった”気がした。
(今の……)
すぐに分からなくなる。
でも、さっきまでとは何かが違った。
でも。
確かに、何かがあった。
「オリバー!行くぞー!」
「うん!」
走り出す。
まだ分からない。
でも。
昨日より、ほんの少しだけ――
前に進んでいる気がする。
霧雨の中、みんな走っていた。




