第63話 売るって難しい
「今日もお願いしまーす!」
「おう。坊主たち元気だな。」
ユイトの父さんに、町まで一緒に行ってもらう。
「お兄ちゃん……」
ジャックは少しふくれっ面だ。
今回は母さんの許可が出なかった。
軽く手を振る。
今日は曇っているが、雨は降らなさそうだ。
暑くもなく、歩くにはちょうどいい。
ツバメは今日は高く飛んでいる。
虫でも追っているのだろう。
「おう。今回は何を買うんだ?」
「ふふふ。おじさん、何だと思う?」
ガイルが得意げに言う。
「ジャジャーン!今回も串肉でーす!」
「好きだなあ。まあ、うまいからなあ。」
「みんなで決めたんだよねー。」
「だな。」
「今回も売れるといいね……」
オリバーは少しだけ不安そうだった。
「前回は桑の実で銅貨25枚だったな。」
「タラの芽、いくらになるかな……」
胸が少しだけざわつく。
「肉食うぞ!」
「その前に売ってからな。」
レオの一言に、みんな笑った。
緊張が、少しほぐれる。
「おう、来たぞ。今回もよろしくな。」
ユイトの父さんが店長に声をかける。
「よろしくお願いしまーす!」
「おう。今回は何だ?見せてみろ」
カゴの中を見て、店長が声を上げた。
「こりゃあ……」
「おい、母ちゃん!」
「あら!これはタラの芽ね。いいじゃない!」
奥から顔を出した奥さんが、目を細める。
「料亭向けね。季節物だし……これは高いわよ」
「……買いましょ。」
店長がにやりと笑う。
「母ちゃんの許可が出た。で、いくらだ?」
四人は顔を見合わせた。
「……また考えてなかった」
「売れるかどうかばっかりで……」
「父さん……」
ユイトが助けを求める。
「分かった。今回も俺がやろう。」
交渉が始まる。
「前回は銅貨25枚だったな。だが今回は品が違う」
「料亭に流すなら価値は上がる」
「いいガキ抱えてるなあ」
「おいおい。友達だぞ?品よくいこう」
「……なんか怖いね」
「うん……」
結局――
銅貨30枚。
「すげえええ!」
「やったあ!」
「食おう!串肉!」
一気に空気が明るくなる。
「ギルドのそば行こうぜ!」
店長とユイトの父さんも一緒に、店へ向かう。
ドンッ
ユイトが誰かとぶつかった。
「ごめんよ!」
その声。
金色の髪。
茶色の帽子。
「あ……この前の……」
「ユイト、お金は大丈夫?」
「今日は持ってきてないよ――って、オリバー!?」
気づいたときには、もう走り出していた。
細い路地を曲がる。
暗い通りの奥。
帽子の子は立ち止まっていた。
「なんだよ。一人で来たのか?」
「今日は何も盗ってねえぞ」
ニヤついている。
「違うんだ。この前……返してくれたよね」
「……まだ、こんなこと――」
「うるさい!」
声が震えていた。
「お前みたいな坊ちゃんに何が分かるんだ!」
腕を振り払う。
細い指。
そのとき気づいた。
「……君――」
「うるさい!」
次の瞬間。
パンチが飛んできた。
避けられなかった。
頬に衝撃。
視界が揺れる。
痛い。
こんな殴られ方、初めてだ。
顔を上げたときには、もういなかった。
まるで、野生の獣みたいだと思った。
「おい!どこ行ってたんだ!」
レオが駆け寄る。
「ほっぺ赤いぞ!?」
「大丈夫!?」
ユイトがハンカチを差し出す。
串肉を受け取る。
いい匂い。
一口かじる。
「っ……!」
痛みが走る。
「口の中、切ったみたい……」
食べられない。
でも、食べたい。
結局、包んでもらって持ち帰ることにした。
「……実はさ」
話すと――
「え?女だったの?」
「マジかよ」
「同い年くらいだろ?」
店長が口を挟む。
「まあ、珍しくはないな」
「親父が冒険者でな。死んじまって」
「母親も病気で……妹を育てながらだ」
「……スリでもしないと、な」
誰も言葉が出なかった。
自然と下を向く。
ぐうううう
「……腹減った」
「食ったのに」
「なんでだよこのタイミング」
少しだけ、空気が戻る。
オリバーは空を見た。
(あの子の父親は、冒険者)
(父さんは……ならなかった)
(命がけの仕事)
(だから――)
「あー!うまかった!」
ガイルは満足そうだ。
「でも、稼ぐって大変だな」
「本当だね」
「売るもの考えるのもな」
「大人だって大変なんだぞ」
ユイトの父さんが言う。
でも。
(子どもで一人なら――もっと大変だ)
あの子のことが頭に残る。
「よし!次はケバブだ!」
「お前話聞いてたか?」
「え?稼ぐっていいなって話?」
みんなで笑った。
同じ話でも笑える。
こういう仲間と、大人になりたいと思った。
今日は雨は降らなかった。
曇り空でも、
旅には、ちょうどよかった。
少しだけ、
前を向けた気がした。




