第62話 タラの芽と熊
「よっしゃあー!今度も気合い入れるぜ!」
次の作戦は決まった。
ワラビかタラの芽を取って売る。
そしてまた――串肉を食べる。
ケバブという意見も出たが、
結局みんな、あの串肉の味が忘れられなかった。
よし。そうとなったら、準備開始だ。
「難しくないかい?」
母さんが即答した。
ワラビとタラの芽のことを聞いたのだ。
詳しく知っているに越したことはないと思ったからだ。
「そうなの?」
途端に、子どもでは取れないかと心配になってきた。
(どうしよう。)
「だって、売るんでしょ? タラの芽に似ているものもあるし。」
母さんは少し考えてから、にっこり笑った。
「……まあ、取っておいで。私がより分けてあげる。
種類別にして売ればいいわよ。」
「息子が自分たちで稼ぐんだもの。お手伝いくらいするわ。」
「ありがとう母さん」
思わず抱きついてしまった。
「その代わり、ワラビはアク取りが面倒だから、タラの芽にしておきなさいよ。」
「わかった。本当にありがとう。」
「あー!お兄ちゃんずるい!」
ジャックが来て一緒に抱きついてくる。
「ぼくも行く!」
母さんは少し考えてから笑った。
「……いいわ。ただし、お兄ちゃんたちの言うことを聞くのよ。」
こうして、ジャックも一緒に行くことになった。
明日はユイトの父さんが町へ仕入れに行く日だ。
だから、今日タラの芽を取る。
場所はすでに確認してある。
放課後に行けばいいだけだ。
準備は万端。
やる気も十分。
空はどんよりとしている。
季節の変わり目だ。
オリバーは空を見上げた。
雨は大丈夫そうだ。
ツバメは低く飛んでいるが、夜まではもちそうだった。
「手袋は忘れてない?トゲがあるからね。」
山道を進む。
「道があるからいいけど」
「木が高くて方向が分からない」
「分かれ道。こっちだったよな?」
「うん。確か……こっち。小川があって……」
「ここだ!あった!」
「良かったー。すぐ見つかったね。」
「取るぞー!」
「だな。」
カゴにどんどん入れていく。
「痛いっ!」
「大丈夫?気をつけてね。」
「手袋してても痛いなこれ」
「あれ?これ少し細い?これ、タラの芽?」
「似てるのもあるらしいよ。母さんが見てくれるって」
「これ?トゲないけど」
「それ、多分ウルシ」
「え?」
「かぶれるらしい」
「げ!」
みんな大笑い。
「おーい!オリバーいるかあ!」
山では声をかけ合う。
「いるよー!」
「ジャック!」
「いるよー!」
「ユイト!」
「いるよー!」
「ガイル!」
返事がない。
「おい!ガイル!どこだ!」
「……来るな!」
ガイルの声。
「そっちか?」
「来るなってば!」
ヤブをかき分ける。
「ウンコか?」
その先にいたのは――
「カワイイ」
「くまの赤ちゃん?」
「触んじゃねえ!」
ガイルが押し殺した声で言う。
「母グマが近くにいる」
空気が張りつめる。
「静かに離れるぞ」
「……そっと下がれ」
息を殺して離れる。
……ふう。
やり過ごした。
全員で小さくガッツポーズ。
その時だった。
バキッ、と枝が折れる音。
ガサガサガサ!
「やべ!見つかった!」
「逃げろ!」
走る音が迫る。
「うわぁ!」
「ジャック!」
体が勝手に動いた。
(去年みたいに止まってたら――)
間に合わない。
(風じゃ無理だ)
(できること――)
水球。
ヤブが揺れ、黒い塊が飛び出す。
母熊。
「……精霊よ……」
水球。
レオもガイルもユイトも作る。
「鼻に水を!」
熊が迫る。
水球をぶつける。
割れる。
その瞬間、水を押し込む。
何度も。
何度も。
やがて熊は、たまらず逃げていった。
しばらくして、ようやく座り込む。
「まじか……」
「熊だったな」
「助かった」
「やったね」
「すごいよ!」
四人で転がりながら抱き合った。
帰り道。
「俺たちの魔法ってさ」
「使えるな」
「強い相手にも」
「使い方次第だね」
「冒険でもいけるんじゃねえ?」
ガイルが目を輝かせる。
「俺も思った!」
「だよな!」
「……怖いよ」
ユイトが言う。
「オリバーは?」
視線が集まる。
「……好んでは、行かないかな」
少し考えてから答えた。
「大怪我するし。
ギルドの人も……傷だらけだったし」
「……確かに」
「ま、いいや!明日売ろうぜ!」
自分たちは熊を追い払った。
でも、それが冒険者につながるのか。
強くなるって、そういうことなのか。
嬉しさと、不安が混ざる。
まだ、わからない。
雨にはならず、家に着いた。
空は曇っている。
夕暮れ。
ツバメが低く飛んでいた。
(やっぱり、低いな)
山では、何が起こるか分からない。




