表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
臆病な魔法使いは、小学部で目立たず生きたいのに巻き込まれていく ――言えなかった想いが、少しずつ世界を変えていく  作者: 南山


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

61/98

第60話 なくなった銅貨


――帰り道――


「じゃあ帰るか」

ユイトの父親が腰をあげた。


「ちょっと、店長にお礼を言ってくる。

ユイト、お前たちはここで待っててくれ。」


通りの向こう側へ、あっという間に見えなくなった。


「食べたなあ。」

ガイルが満足げにお腹をなでる。


「今回、俺たち頑張ったよなー。」


「やれば出来る子なのか?」

レオがニヤリとする。


「だってさ、自分たちで桑の実取っただろ?」

ガイルが人差し指を立てる。


「なんやかんやで売ることができただろ?」

レオが中指を足す。


「そのお金で念願の串肉を食べた!」

ユイトが立ち上がった。


オリバーの母さんも、レオの姉ちゃんもいない。

自分たちでやったのだ。


(……交渉は、ユイトの父さんにしてもらったけどね)


それでも。


串肉の余韻は、まだ口の中に残っている。

油と塩の香り。

あの一口は、忘れられそうにない。


「また食いてえなあ……」

ガイルが名残惜しそうに言う。


「そのためには、また売らないとね」

ユイトが苦笑する。



ドンッ


「アイタ!」


ユイトに誰かがぶつかった。


「ごめんよ!」

同じくらいの年の子どもが、走り去る。

金色の髪に、茶色の帽子。


「待たせたな。じゃあ帰るか」

ユイトの父さんが戻ってくる。


みんな立ち上がる。


「あれ……?」

ユイトが立ち止まった。




――トラブル――



「どうした?」

レオが振り返る。


「銅貨……ちょっと見ていい?」

胸の内ポケットに手を入れる。

「……ない」

顔が曇る。

「今日、僕のお小遣い……持ってたんだ。

ない。どうして……?」


桑の実のお金は、もう腹の中だ。

ユイトは、自分の分を別に持っていたらしい。


「は?」

ガイルが眉をひそめる。


「ちゃんと、持ってたの?」

オリバーが静かに聞く。


「うん……さっき、食べる前に見たから……」


空気が、重くなる。

「落としたんじゃねえのか?」


「でも、どこで……?」


「店か?ギルドの前か?」


記憶をたどる。


売って。

受け取って。

買って。

食べて――


(あの時――)


「おい、探しに戻ろうぜ!」

ガイルが踏み出す。


「待て。やみくもに動いても――」

レオが止める。


「でも、このままだと……!」

ユイトの声が揺れる。


声が、ぶつかる。


その中で、オリバーは一つ息を吐いた。

「……たぶん、まだ近くにある」


「え?」

三人が振り向く。


「落としたなら、そんなに遠くには行ってない」


そして、


「さっき、ぶつかってた子がいた」


「それだ!」


「行くぞ!」



「おい!お前たち!」

ユイトの父の声を背に、四人は駆け出した。




――それぞれの動き――



「俺はギルドの前!」

ガイルが走る。


「じゃあ俺は店の周り!」

レオも別方向へ。



「ぼ、僕は……その間!」

ユイトも走る。


オリバーは、少し遅れて歩き出す。

(焦らなくていい)


人の流れを見る。

立ち止まる人。

視線。


(あの子――)

向こうの店の横。

通りの端。

しゃがみこんでいる、小さな影。

金髪。

茶色の帽子。


オリバーは、そっと近づいた。




――解決――



「それ……」

声をかけると、肩が跳ねた。


手の中にあったのは――

小さな銅貨袋。


「あ……」


目が合う。

逃げようとする気配。


「大丈夫」

オリバーは、ゆっくり言った。

「拾ってくれたんだね?」


遠くから声。

「オリバー!どうだ!?」


子どもの目が揺れる。

「……ワリィな。」

そう言ってから、真上に高く袋を投げた。


驚くほど高く上がった袋を何とかキャッチして受け取る。


重みが、戻ってきた。


「ありがとう!」

逃げるように背を向けたその動きが、少しだけ軽く見えた。


「オリバー!」


三人が駆け寄る。


「見つかったのか!?」

「うん」


「おおおお!」

ガイルが叫ぶ。


「よかったあ……!」

ユイトがその場に崩れた。


気づけば、金髪の子はもういなかった。




――余韻――



「焦ったな……」

「マジでなくなったかと思ったぜ……」

「ごめん……僕が――」


「いいって」

レオが軽く言う。


「見つかったんだしな!」

ガイルが笑う。


オリバーは、三人を見る。

(やり方が違う)


走るやつ。

考えるやつ。

思い出すやつ。


(でも――)

「見つかった」

それでいい。


どれも、間違いじゃない。


(もし、一人だったら)

きっと、見つけられなかった。




――帰り道――



「今度はもっと稼ごうぜ!」


「そしたら、もっと食えるな!」


「次は……何を売ろうか」

ユイトがつぶやく。


「……なんでもいいよ」

オリバーは空を見上げた。


青い空。

少しだけ、広く見える。


「なんかさ」

オリバーがぽつりと言う。

「今日――ちゃんと自分たちでやった気がする」


レオが笑う。

「だな。悪くない」


ガイルが声をあげる。

「こういうの、いいな!」


山が近づく。

見慣れた景色。

村に続く道。


帰り道なのに、

足取りは、行きより少しだけ軽かった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ