第59話 串肉を食べたい
――今回の予定――
「絶対に成功させるぞ」
今回の目的は、ただ一つ。
串肉を食べることだ。
四人は――とても大事な計画を立てていた。
去年と違い、オリバーの母さんも、レオの姉ちゃんもいない。
そんな計画だ。
「俺たちは、大いなる野望がある!」
「桑の実を取って、市場で売る。
そのお金で串肉を食べる。」
ガイルが、大まじめにいう。
「町までほぼ半日かかる。少しの時間を町で過ごして、また、半日かけて戻ってくる。」
レオが付け足す。
「その少しの時間で目的を果たすのだ!」
ガイルは、立ち上がって拳を上に突き上げた。
ただし子どもだけでは町には行けない。
「危険だ」と、どの大人もいう。
今回はユウトの父さんと、一緒をさせてもらえる事になった。
仕事で商品の仕入れで町に行くのだ。
「いい子にしているのよ」
母さんが何度も玄関で言う。
「僕も行きたい」
「ジャック。また今度。母さんと行くときね」
母さんがジャックに言い聞かせてくれる。
ジャックには申し訳ないが、去年迷子になったりとまだ手がかかる。
今回はレオ、ガイル、自分、ユウトと四人で、ユウトの父さんと行くのだ。
昨日みんなで、かご三つも桑の実を取った。
自然と足取りが軽くなる。
――荷馬車の上で――
「帰りは歩きだがな。商品が乗るからなあ。」
ユウトの父さんが、荷馬車に乗せてくれた。
「初めてだ。」
「乗ってればいいの?」
みんな興味津々。
「まあ、元気なのは今のうちだけだ。」
そのうちに意味が分かった。
激しく揺れるのだ。
(……サスペンションと、ゴム製のタイヤが欲しい)
(ついでに舌を守るカバーが欲しい)
話すこともできない。舌を噛みそうだった。
実際、ガイルが何か話そうとして、痛そうに口を押さえた。
ガタンと揺れたからだ。
それでも少しずつ慣れた。
「ねえ、おじさん。串肉売ってるお店ってあるかなあ」
ガイルが期待で光る眼を向ける。
「お前たち、それが目当てか。」
「えへへへ。」
「去年はアプリコットを買ったんだ。」
「今年は肉がいいって事になったんだ」
「焼きたての油滴る肉!」
口々に騒ぐ。
「肉は高いぞ!でも、美味いからな。坊主たちの気持ちはよくわかるぞ」
「何だったら串一つを二人や三人で食べてもいい!」
ガイルの口元が食べたくて仕方ないようにもごもごしていた。
急に、アプリコットの匂いと、姉ちゃんの揺れる髪が目の前に現れた。
心臓が飛び上がった。
(そろそろ、慣れないと、
だな。)
いつ慣れるんだろう。
――初めての店――
町についた。
町は空気が村とは違った。
活気ある人々。
行き交う客寄せの声。
並ぶ商品。
すべて村にはないものだ。
何回来ても、目が奪われる。
気持ちが一人歩きしそうだ。
まずはユイトの父さんの商品を仕入れに行く。
仕入れ先の店長さんに、桑の実を見てもらうという算段だ。
「これなんだが。」
おじさんが、かごをカウンターに乗せる。
「こりゃあ。大きくていい品物だな。」
店長は、上半身裸のひげ親父だ。
「おい。母ちゃん。」奥にいる奥さんに声をかける。
「なんだい?」
「これ。うちで買ってくれっていうんだ」
「どれどれ……。こんなのこのへんじゃ見ないね。いい品だ。これだけありゃあ。そうだね。小料理屋でも果物屋でも高く買ってくれそうだね。」
「うちのかみさんが買っていいってさ。で、いくらだい。こりゃ」
――交渉――
四人は顔を見合わせた。
「値段なんて、考えていなかった。」
レオがささやく。
「普通、いくらなんだ?」
「串肉がいくらなのかも、知らないよ。」
売れなくても困る。
安く買い叩かれても困る。
串肉が、買えなくても困る。
「こういう時はどうしたらいいんだ?おじさん助けてよ。」
「任せてくれるかい」
おじさんは、クスリと笑ってから、店長さんと交渉を始めた。
「この子たちは初めてなんだ。俺が代わろう。」
「銅貨4枚では、どうだ。」
(安いのか、高いのか分からない)
(でも――このままじゃ、決まってしまう)
おじさんの交渉は、続く。
「それじゃあ何も買えんよ。山から取ってきたんだぜ。新鮮なんだ」
「銅貨6枚でどうだ。」
「この子たちはこれからも山から取ってきては色々売るだろう。その時にここを一番に来るようにしておいた方が良くないか?」
「……確かに。銅貨8枚だ!」「かごは三つあるぜ。」
おじさんはにやりとした。
「しょうがねえ!おまけだ銅貨25枚だ」
「その代わり、坊主。今度何か売るときは必ずウチに持ってくるんだぞ。いいな。」
「やったあー!ありがとうおじさん!店長さんもありがとう!」
みんなで小躍りする。
去年は、こんな事出来なかった。
「で、おじさん。早速だけど俺たち串肉食いたいんだけど、どこかいいところ教えてくれよ」
ガイルが待ちきれない様子で尋ねる。
店長がニッコリする。
「よし‼︎安くて美味しい店を案内しよう。
ちょうどそこのギルドの前の店なんだが。お前たちの好みだと思うぞ。
俺が口をきいてやる」
――ギルド――
そのギルドの前には男が数人立っていた。何だか、土で汚れている姿だが、元気よく笑っている。
杖を持った魔法使いらしい人もいた。
「ねえ。ここ、何のギルド?」
ユイトがこわごわとガイルに聞く。
「わかんねえ」
その声が聞こえたのか、一人の男が返事をした。
「あ?坊主。この看板が見えねえのか?ここは冒険者ギルドだよ」
「え?冒険者?ここが?」
レオが驚いた声を上げた。
「初めて見る。」
「うわ~。」
オリバーもユイトもあたりをキョロキョロ見始めた。
おじさんが慌ててたしなめる。
「おいおい。静かに……。冒険者は気が短い人が多いから……」
と言いかけたとき、顔に傷のある大柄な男がこちらを見た。
「あ?お前たちどこから来た?」
「すまねえ。俺の知り合いなんだ。初めて冒険者ギルドに来て興奮しているのさ。うるさくて済まない。許してやってくれ。」
店長がすかざず謝る。
「おお。親父のところのか。」
「どうだい。いいツラしてるな。大人になったら、ここに来るかい?」
日に焼けて真っ黒だか、古い傷が目立つ。
その傷は、どれも笑いながら話すには重すぎるものに見えた。
「おいおい。まだ子供だ。それに命がけ稼業に気軽に誘わんでくれよ」
(命がけの稼業。)
(この人たちは――命を賭けてる人たちだ)
「それもそうか……。じゃあ。またな坊主たち」
傷の男は仲間の方へ行ってしまった。
思い出した。
父さんとの言葉。
冒険者。
(昔、父さんがなりたかった職業だ。母さんと出会ったから、なるのをやめたと言っていた……。)
――串肉――
「うめえなあ。」
「たまんねえ!」
「来て良かった!」
串肉を食べながらみんな興奮状態だ。
一人一串買えた。余ったお金でウインナーも買えた。
一瞬にしてなくなったが。
「ユウト。まだ食べてるのか?俺が食べてやるか?」
「ガイル。大丈夫。食べれるよ。」
「オリバーも気をつけろ!」
レオが警戒する。
「あれ?ガイルは、もう食べたのか?早すぎだろ」
おじさんも店長も大笑いだった。
「冒険者、かっこいい!」
ガイルが本気で言っていた。
「いいなあ!」
レオもあこがれていたみたいだった。
「俺たち、冒険者になる!」
「え?もう決めちゃうの?」
ユイトが驚いている。
「だって。命がけって言ってたよ。僕は怖いな」
「そこが、かっこいいんじゃないか」
ガイルが夢見る乙女な瞳で言った。
「オリバーは?」
「え~?死ぬのはちょっとなあ。」
(もう一度ダンプにひかれているのだけど。
死ぬのがいいとは思えないなあ。)
「オリバーらしいなあ。」
レオが、やっぱり、という。
「まずは、魔力測定と、属性確認先だね。」
ユウトが串肉を食べ終えて言う。
「僕、何かな?気になるな。」
「炎がいいな。かっこいいぜ」
「俺、土がいいな。」
レオが自信なさそうに言う。
「オリバーは、風?水?」
「わかんないや。どうなんだろう。」
自分の魔力も属性も、何もわからない。
なりたい職業もわからない。
ないないばかり。
以前なら、
不安で暗くなっていた。
でも、今は。
わからなくても、
自分の事を。
「なりたい」と明るく言う仲間。
それだけで、
不安の沼に落ちずにいる。
そんな気がした。
肉を食う。
いい匂いだ。
ギルドに男たちがいた。
たくましい男。
慣れない町。
途切れない人の声。
きっと、自分たちで、新しい世界に来ているからだ。
売った。
買った。
うまかった。
単純な事。
少しずつ、自分に自信がついてきたのかもしれない。
少しずつだけど。
少しずつ、自分で選んで進んでいる。
去年と同じようで、違う一日だ。
それが、少しだけ誇らしかった。
空は青い。
今日の空気は、少しだけ――前よりもうまかった。




