第55話 春の同じ場所
去年と同じことをしているつもりなのに、何か違う。
姉ちゃんの影を見るだけで、震える心。
あたたかくなる春。
季節はすすみ、
それぞれ心は揺れます。
一緒に楽しんでいただけたらと、思います。
――牧場の春――
雪はほとんど消えていた。
土の匂いがする。
ヒバリの鳴き声がした。
また、牧場に来ている。
去年、ここでたんぽぽを取った。
あの時は、みんなで転げ回って、服が草だらけになった。
「今年も、たんぽぽ取ろうぜ!」
ガイルが元気よく言う。
「まだ早いんじゃない?」
レオがしゃがみこんで地面を見る。
まだ、葉が小さい。サラダにするにはもう少しだ。
ガイルは少し不満そうに、でもすぐに別の草を探し始める。
ジュニアは、ジャックのそばにいる。
去年と同じようで、少し違う。
――道――
レオがなんとなくという感じで指をさす。
「こっちの道行くと、中学部な。」
隣町に続く道だ。
「姉ちゃん、この道通っていくんだ。」
途端にさっきまで普通に見えていた道が、一瞬だけ、明るく見えて、すぐに色があせた。
そう。
もう。
遠くなったんだ。
少し早くなった心臓を軽く叩く。
深く息を吐いた。
――時期が大事――
母さんからのカゴと布を広げた。
ナズナを取る。
入れる。
レオの言葉に相づちをうつ。
「お兄ちゃん。これナズナ?」
ジャックがぺんぺん草状態のナズナを、持ってくる。
「ん-。ナズナなんだけど。育ちすぎかな」
ナズナは、すぐに軸が硬くなる。
「難しいもんだね」
ジャックも少しずつ覚えてくれる。
「春の頂き物は、時期が大事だってさ」
オリバーは昔聞いた母さんの言葉を、ジャックに言った。
――同じ場所なのに。
しゃがんで、ナズナを摘む。
手の中に、小さな葉が集まる。
ふと、顔を上げた。
遠くの道に、人影が見えた。
背の高い影。
隣に、誰かいる。
……たぶん。
すぐに目をそらした。
「オリバー?どうした?」
レオの声。
「ううん、なんでもない」
そう言って、また手元を見る。
ナズナを摘む。
一枚、また一枚。
さっきの影は、もう見ない。
――見たら、たぶん。
手が止まる。
息が止まりそうだ。
風が吹いた。
あの日と、同じ風だと思った。
でも、少し違う。
胸の奥が、きしむ。
去年は、何も考えなかった。
ただ、笑っていた。
今は――
――レオの不安――
「今日は風があるなあ」
レオはヒヨコグサを取りながら呟く。
「なあ。俺たち今度三年生になるだろ。
三年生ってさあ。『魔力測定』と『属性確認』があるじゃん。」
レオが手を止める。
「俺、何だろう。土属性かなあ。......土がいいなあ。
親父も、土なんだ。」
不安そうに下を向く。
「レオは、土だろ。」
あっさりとオリバーは答えた。
「だって、雪壁がすっごく上手だったよ。去年とは比べ物にならないくらい」
「あれは......。必死に家で......」
口ごもる。
(家で必死に練習していたのか。だからあんなに雪壁が固かったんだ......。)
「レオの努力はすごいね。」
感心してレオの顔を見る。
レオは目を大きくしてこっちを向いた。
「俺、お前の方がすげえって思っているんだぜ」
「ええー?」
二人で笑いあう。
「おーい!いっぱい見つけたぞ!」
ガイルの声が飛んでくる。
「ちょうどいい時期のナズナだよ!」
ジャックが叫ぶ。
顔を上げると、ガイルが手を振っていた。
ジャックとジュニアがいた。
その向こうに、春の光が広がっている。
少しだけ、息を吸った。
それから、二人で立ち上がる。
「今、行く」
走るほどじゃない。
でも、歩くより少しだけ早く。
風が、背中を押した気がした。
ヒバリの鳴き声がした。
新学期。オリバー、レオ、ガイルは、またしても大騒ぎ?
ノア先生は今年も担当してくれますが、溜息も出て?
魔力測定と属性確認はみんなが気になる大事なイベント!
無事にはすまない予感。
次回もお楽しみ下さい。




