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臆病な魔法使いは、小学部で目立たず生きたいのに巻き込まれていく ――言えなかった想いが、少しずつ世界を変えていく  作者: 南山


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第52話 甘い匂いと嵐

雪合戦のあと――

なぜか、レオとガイルがモテ始めた。


上級生からの視線。

落ち着かないエマ。


そして始まる、チョコイベント。


ハート型のホットケーキに、

それぞれの想いを乗せて。


だけどオリバーだけは――

胸の中に、説明できない“嵐”を抱えていた。

――今年のチョコイベントの前の事情――


雪合戦のあと、ガイルとレオは上級生から注目を浴びている。

ガイルは大柄な男子の先輩に。

レオは女子の先輩に。


本人たちは落ち着かない。

エマも落ち着かない。


レオを見ると、いつもそばにエマがいた。

エマの隣にはリリカとミナがいる。


リリカは本を読みながらも、聞かれたことにはきちんと答えるという器用な子だ。

ミナはエマと話したり、リリカと話したり、自然に立ち回っている。


そういえば、雪合戦のあと、ルーカスにお礼を言われた。

一年生の時、エマの机にこっそり手紙を入れていたあの子だ。


今年はどうするのだろうか。


――ルーカスと思わぬ風――


「ねえ。オリバーは、誰のこと好き?」


休み時間、教室でルーカスに話しかけられた。


「早めに女子に言わないと、チョコ貰えないよ?」


真面目に心配してくれている顔だ。


「え?そういうものなの?何も考えてなかった」


実際、自分はチョコなんて縁遠いものだと思っている。

でも、そう答えた瞬間――


頭の中に浮かんだ。


伏せた目。

揺れる羽飾り。


パラパラ、と音がした。

机の上の教科書が、勝手にめくれている。


「隙間風かな?」

ルーカスが上着のボタンをしめる。


レオが、そっとこちらを見た。


しまった。

風が起きてしまった。


(レオの姉さんは、今年で卒業する)

(中学部に行けば、もう学校では会わない)


手のひらを見る。子どもの手だ。


(今は二年生だけど。本当は――)


小学生が気になるなんて。

それでも、羽飾りは消えない。


「オリバー?具合悪いの?」


ルーカスが心配そうに覗き込む。


「……大丈夫。ところで、ルーカスは今年、何か考えてるの?」


そう聞くと、ルーカスの顔がぱっと明るくなった。


「今年はねえ。ノア先生にお願いしてみたんだ」


「ハート型のホットケーキ、作りませんかって!」


身振り手振りで説明する。


「小さいフライパンに型を置いて、下から火であぶるのさ。

そこにチョコペンで文字を書けば完成!」


「魔法の炎でやりませんかって言ったら、先生も賛成してくれたんだ」


ルーカスは自信満々だ。


「これなら、チョコっぽいもの食べられるよ!」


「すごい!よく考えたね!」


一気に現実に引き戻された。


(……ルーカス、食べられればいいのかな)


少しだけ疑問は残ったけど。


――調理実習――


ノア先生と校長先生が調理室に入ってきた。


「炎は一定に保ってください。気を配り続けないと失敗しますよ」


校長先生がうなずく。


「ああ、それはいい助言ですな。確か昔――」


「校長先生!」


ノア先生が慌てて止める。

生徒たちがクスクス笑った。


だが、そのアドバイスはすぐに正しいと分かった。


「これ、ムズい」

「すぐ焦げる!」


炎は出せる。

でも、細かい調整は別の難しさがある。


「オリバー、出来た?」

「まだ。うまく調整できない」


「あれ?俺、出来た?」


ガイルの声。


見ると、きれいに焼けている。


「すごいよ。ちゃんと焼けてる」


「やりぃ!」

ガイルが飛び上がる。


「調理室で跳ねないの」

エマが呆れた顔をする。


「待ってろよ。俺もすぐ出来るようになる」

レオが前のめりになる。


少しずつ、みんなコツをつかんでいった。


――また、風――


ハート型のホットケーキが並ぶ。

チョコペンで文字を書き始める。


「俺は名前でいいか」

ガイルが言う。


「俺は……父ちゃんと母ちゃん」

レオが答える。


「じゃあ『姉ちゃん』は?」


オリバーが何気なく聞く。


「ああ?姉ちゃんはさ――」


レオはあっさり言った。


「自分で憧れの先輩に作ってたぞ」


「……そっか」


うつむく。


覚えている。


「やだ、風!」


誰かが叫ぶ。

炎が消えたらしい。


耳に入らない。


「おい!」


レオが肩をつかむ。


まただ。


やってしまった。


(……やっぱり、俺か)


どうかしている。


「驚いただけなんだ」


やっと言葉が出る。


「六年生はすごいね」


――ホットケーキ――


「でっけえの出来たぞ!」


ガイルが中華鍋を掲げる。


「みんなで食べれるぞ!」


ノア先生が近づく。


「ガイル……」

「はい、気をつけます」


しゅんとするガイル。


「ほんと目が離せないな」

レオが笑う。


みんなも笑う。


巨大ホットケーキは、美味しくいただいた。


外はまだ雪。

調理室は甘い匂いでいっぱいだ。


みんな笑っている。


これは、きっと幸せだ。


――でも。


胸の奥だけ、嵐みたいだった。

次回、チョコイベント本番。


誰が、誰に渡すのか。

その一瞬で、関係が少し変わる。


エマの決意。

ルーカスの行動。


そしてオリバーは――

また“風”を起こしてしまうのか。


甘いだけじゃ終わらない一日へ。


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