第2話 初めての登校
朝、太陽が照りつけている。
「かあさん、ただいま。急ぐね」
「ただいまー!山の桑の実がたくさんだったよ!」
朝の桑の実取りから戻ると、弟ジャックは嬉しそうに報告している。
私は聞き流し、登校準備に向かう。
母さんが作った大きな握り飯を手に取り、感謝を込めて小さく頭を下げた。
「ありがとう」
ジャックはお兄ちゃんにくっつきながら、無邪気にすねる。
「お兄ちゃん!僕も、学校行きたい!」
オリバーは頬をなでながら応える。
「ジャック。今日は母さんのお手伝いを頼んだよ。昨日は入学式で特別だったんだ」
今日から一人で魔法小学部に通う。
この地区の子どもは7歳になるとほとんどが入学するらしい。
魔法はまだほんの少しだけで、授業の本格的な魔法はもう少し先。
学校までの道は見慣れない場所だが、方向音痴のオリバーでも迷わず歩ける距離だ。
道すがら、昨日会ったレオが走り寄ってきた。
「オリバー、今日も桑の実、取りに行くのか?」
「短時間ならな。弟がいるから、様子見だ」
オリバーは教室の端の席に座り、隣にはレオが自然と座った。
授業開始。ノア先生は若い男性で、初めての授業に緊張しているようだ。
教科書を片手に、魔法の基礎やこの国の成り立ちを説明する。
しかし子どもたちは集中できず、ガタガタと椅子を鳴らしたり、話しかけたり、あくびをしたりしている。
「なあ、聞いていいかな。前から気になってたんだ。オリバーさ、自分のこと“私”って言うだろ?」
え、とオリバーは言葉に詰まった。
「……変、かな」
「変じゃないけどさ。なんていうか、先生みたいだぞ」
そっか。確かに。
直そうかな。
直そうかな。
でも、失敗しそうで、口が先に動いてしまう。
「……私、いや……僕は……」
言い直したつもりなのに、どちらもしっくりこない。
そう考えている間に、レオは肩をすくめる。
「別に俺は、どっちでもいいんだ。ただ聞いてみたかっただけ」
そう言って、ニッと笑い、軽く肘でつついてきた。
(なんだよ。
推しの強いタイプかと思っていたのに。いい距離感出してくるんだな)
ちょっと見直したのがいけなかった。
レオが手を挙げてトイレに行ったとき、
なぜか自分も、つられるように席を立っていた。
トイレが済んだ後だった。
レオが走って階段を駆け上がる。
「競争だ!俺の方が早いぜ!」
レオの足が滑る。
階段でバランスを崩す。
レオの体が空中を舞う。
スローモーションのように見えた。
危ない――
その瞬間。
ぶわっ、と空気が弾けた。
風が、吹いた。
レオの体を、下からすくい上げるように。
レオはバランスを崩したが、倒れずによろけただけだった。
「今の、お前がやったの?」
「違うよ。」
自分が風を起こした?
(……また、やった)
意識した覚えはない。
でも――間違いなく、自分だ。
また、やってしまった。
変な奴だと思われてしまう。
心臓が跳ねる。
「……知らない」
目を逸らしたまま、答える
レオは首を傾げる。
「ま、いっか。怪我なかったし」
「でもさ、さっきの――ちょっとすごかったぞ」
そう言って二カリと笑って、教室へ急いだ。
新学期は、始まったばかりだ。
問題なんて起こさずに、静かに過ごす――
そのはずだった。
……なのに。
(もう、遅いのかもしれない)
目立ちたくないのに。
——なのに、止められなかった。




