小学部入学の日
プロローグ
朝の光が、やけに眩しかった。
その日、自分は死んだ。
夜勤明けだった。
サングラスをかけて、車を走らせる。
帰宅後に寝れる様に、気休めだ。
道路は空いていた。
帰りにスーパーに寄るか――
そんなことを考えた、次の瞬間。
対向車線から、ダンプが迫ってきた。
避けられない。
「あ――」
その瞬間、世界がやけに静かになった。
そこで、意識は途切れた。
気がついたとき。
温かい光に、包まれていた。
誰かの手が、背中を撫でる。
言葉は分からないのに、安心する。
声を出そうとして――
うまく出ない。
(……ああ)
そこで、理解した。
自分は、
生まれ変わったのだと。
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第1話
小学部入学式
「俺、レオ!よろしくな!」
隣に座った男の子が、元気いっぱいに笑った。
少し緊張しているのが分かる。
でも、それ以上に楽しみで仕方ない――そんな顔だ。
目がくりっとしている。
かわいいような、かっこいいような顔。
……いや。
小学生相手に、何を分析してるんだ、自分は。
歯は生え変わりの途中で、両側が抜けている。
そんな年頃だ。
今日は、小学部の入学式。
自分だって、緊張している。
けれど――この子ほどじゃない。
こういう場には、少し慣れているからだ。
大学も出たし、会社員もやった。
人の多い場所なんて、いくらでも経験してきた。
……もっとも。
この世界で、こんなに人が集まっているのを見るのは、初めてだけど。
そう。
自分は、いわゆる――異世界転生者だ。
これまで会ってきたのは、父さんと母さん、それから弟のジャックくらい。
ここは本当に田舎で――
「でさ!お前、名前なんていうんだ?」
レオが、ぐいっと顔を寄せてきた。
近い。
「……オリバー」
少しだけ間を置いて、答える。
「オリバーか!いい名前だな!」
にかっと笑う。
その笑顔は、まっすぐで、遠慮がない。
「なあ、友達になろうぜ!」
迷いがない。
言い切る。
――ああ。
こういうの、苦手なんだよな。
一歩踏み込んでくる人。
距離が近い人。
(……断った方が、楽だ)
面倒も増えない。
失敗することも、きっと減る。
それなのに。
(……悪くない)
気がつくと、少しだけ口元がゆるんでいた。
「……よろしく」
そう言うと、
レオは、ぱっと顔を明るくした。
「よっしゃ!」
小さくガッツポーズをする。
単純だな、と少し思う。
でも――
嫌じゃない。
そのとき。
ふっと、風が通った。
窓は閉まっているのに。
カーテンが、わずかに揺れる。
(……?)
違和感。
ほんの少しだけ、空気が動いた。
まるで、
何かが“こちらを見ている”みたいに。
……見られるのは、あまり好きじゃない。
「オリバー?」
レオの声で、我に返る。
「どうした?」
「……いや」
気のせい、か。
そう思いながらも、
胸の奥に、わずかなざわつきが残る。
――この世界は、
まだ、自分の知らないもので満ちている。
入学式のざわめきの中で、
その気配だけが、やけに静かに残っていた。
何も起きないでほしい。
ただ、それだけを願っていた。
――けれど。
その願いは、きっと叶わない。




