表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
臆病な魔法使いは、小学部で目立たず生きたいのに巻き込まれていく ――言えなかった想いが、少しずつ世界を変えていく  作者: 南山


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

106/108

第105話 まだ知らないまま 



「祭りに恩人が来てくれたんだ!」

「すんげえ元気になったんだぜ!」

目をキラキラさせて、ノア先生に話している。


「あの教会に運ばれた子ですか?馬に轢かれたという。」

「そうなんです。その子です」



白鳥祭りが終わり、日も強く蒸し暑い午後の教室。

いつもの四人とノア先生は珍しくおしゃべりしている。

四人が興奮して話しているのが、正しいか。


「手紙、書いてよかったなあ」

「返事もらえたんだもんね」

「あなたたち、本当にうれしそうですね」

生徒の考えていること、思っていることを知るのはとても楽しい。

指導にも非常に役に立つ。


「あのヒーラー、すげえよな。」

「リナが働けるほど良くなったんだぜ」

「どんだけ腕がいいんだよ」

「あのヒーラー、とは?」

そんな人があの教会にいたのか?

私も町の教会に時々用事でいくが。


「えーと。普段は遠い治療院にいるんだけど、たまたま教会に来てたんだって。治療の時、部屋の外に出されちゃったから、よく知らないけど。女の人だよ。先生くらいの年頃かなあ。」


ユイトの言葉を聞いて、表情が止まる。


遠くの治療院。

腕のいいヒーラー。

私と同じ年ごろの女性。


そんなはずはない。

思わず首を振ってしまう。


物事を都合のいい方向に解釈するものではない。





「祭りに誘ったんだ。」

いつもはおとなしいオリバーが、恥ずかしそうに話す。

「先生が、『誘える時に誘いなさい』って。」

「ああ、そんな事、言いましたね」

自分の言葉に、自分が驚く。



「あなたたちの行動が実を結んだのですよ」


「すげえドキドキしたんだ」

「届かなかったらどうしよう、とか」

「変なこと書いてないかな、とか」

「返事が来なかったらどうしよう、とか」

「だって、恥ずかしいじゃん」

一生懸命にガイルもレオもオリバーも、ユイトも話す。



まぶしい。


その他人と繋がりを持とうとする気持ちが。

自分が恥ずかしいと思いながらも、行動する姿勢が。


自分も学生のときに少しでも伝えていたら。

冒険者になった時、同じパーティーで毎日顔を合わせていた時、思いの半分も言えていたら。


何かが今と違っていただろうか。


「今となっては、もう」

また首を振っていた。


「物事は行動とタイミングですね」

知らずに呟いていた。


「おお。そうだよなあ。なあ、オリバー、また季節のものを取って売ろうぜ」

ガイルが大きな声で言った。


「そう。物事は行動とタイミングですじゃな」

後ろから声。


「校長先生!」

驚いた。

ふふふと笑いながら、校長先生は生徒たちと私の顔を順に見ては微笑んだ。


「知らずに時は進んでいきますからなあ。」


そして、もう、窓の外を見ていた。

視線の先は。


北の山の方角だ。


「......夏は人を動かしますな」

その言葉は私にも聞こえなかった。



――


あら。私に手紙?

珍しいわね。


街はずれ。

治療院からそう離れていない郊外の一軒家。


手入れの行き届いた小さな庭。

小さな砂利が敷き詰められた玄関先。


ややびっこをひいた、一本杖の女性が郵便入れの中の封書を手に取る。

差出人名は知らないが、住所に見覚えがあった。

先日、行った教会。


封を開ける。

途端に太陽のような笑みがこぼれる。


「あの子!良かった。こういう手紙はヒーラー冥利に尽きるわね」


封筒を胸に押し付ける。


次の機会にもあの町に行こう。

もしかしたら、あの子に会えるかもしれない。

元気になったあの子に。



――


庭の葉先を揺らす風が吹いた。



夏の風は、

まだ誰にも気づかれないまま、静かに吹き始めていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ