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臆病な魔法使いは、小学部で目立たず生きたいのに巻き込まれていく ――言えなかった想いが、少しずつ世界を変えていく  作者: 南山


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第99話 誘える時に





昼下がり。


帰り道の道くさ、いつもの木陰。




「白鳥祭、もうすぐだな」




レオが寝転びながら言った。


空は高くて、風はぬるい。




「あー、屋台出るやつだろ?去年のユイトのジュースうまかったよな。串肉もうまかった。」


ガイルが思い出したように笑う。




「お前、食ってばっかじゃねえか」


レオが呆れる。




「いいだろ。祭りなんてそんなもんだ」


「まあな。」


笑いが広がる。


去年はたくさんの白鳥が一斉に飛び立つのを初めてみた。


あの引き込まれるような、包まれるような感覚を思い出す。




ジャックはというと、地面に枝で何かを書いている。


たぶん、魚だ。たぶん。




「花も飾るんだろ?白いやつ」


「白鳥の形にするんだってよ」


「へえ」




他愛もない会話。


でも、どこか浮き立つような空気。




「で?」


レオが、にやっと笑った。


「今年も行くか?」


「もちろん」


唐突にジャックが大きい声を出す。


「ねえ。お兄ちゃん。レナお姉ちゃんには声をかけるの?」


「え?」


一瞬、静かになる。




「なんで急に」


喉が渇く。




「ええ?だって。何となく。祭だから恩人のお姉ちゃんも楽しめるかなって」


「いや、女の子だよ。自分たちなんかで誘って良いの?」


「遠いから、泊まりになるよ。花火だって見せたいね」


ユイトも会話に入る。話を聞いてない。


「だから。」


「オリバー。お前んち良いか、聞いておいてよ。」レオ。


「わかった。でもさ」


「オリバー。祭だぞ?女の子と回るもんだろ普通」ガイル。


「普通って。」


「恩人に楽しんでもらえたらって。」ユイト。


「でも」


「でもって」


「じゃあ、お前はどうしたいんだよ」


「……別に」




視線が、自然と自分に集まる。


少しだけ顔を逸らす。




「おいおい」


レオが肘でつつく。


「お前さあ――」




言いかけたその時。




「何の話ですか?楽しそうですね」


背後から声がした。




振り向くと、ノア先生が立っていた。


いつもの落ち着いた表情。




「あ、先生!」


ジャックが手を振る。




「白鳥祭の話です!」


ユイトが答える。




「ほう」


先生は、少しだけ目を細めた。




ガイルが、何気なく尋ねる。


「先生は行きますか?誰かと一緒に?とか」




一瞬。




ほんの一瞬だけ、空気が止まった気がした。




先生は、何も言わなかった。


ただ、少しだけ遠くを見る。




――風に揺れる、黄色い花。


――まぶしいくらいの笑顔。


――何でもないことで、よく笑う人だった。




ひまわりみたいに、まっすぐで。




だから――


何も言えなかった。




「……そうだな」




先生は、ゆっくりと視線を戻した。




「誘える時に、誘っておくと良いでしょうね」


静かな声だった。


「人は、ずっと同じ場所にはいない」


それだけ言って、歩き出す。






誰も、すぐには何も言えなかった。




「……どういう意味?」


ガイルが首を傾げる。




「お前が振るからだろ」


レオがため息をつく。




でも、その場の空気は、さっきまでと少しだけ違っていた。




軽さの中に、何かが残る。






オリバーは、何も言わなかった。


ノア先生の言葉を、もう一度心の中で繰り返す。


ただ、ぼんやりと空を見る。




白い雲が、ゆっくり流れていく。




――リナの顔が浮かぶ。




店で働いていた姿。


少し腫れていた頬。


それでも、まっすぐ立っていた。




「……」




胸の奥が、ざわつく。




守りたい、と思った。




あの時、確かにそう思った。




でも――




それだけで、いいのか。




誘う。




その一言が、やけに重い。




断られたら?


迷惑じゃないか?


そもそも――




自分なんかが。




「オリバー?」


レオの声で、はっとする。




「ぼーっとしてる」




「あ、ああ。ごめん」




「大丈夫か?」


「大丈夫」


うなずく。




でも、本当は。


全然、大丈夫じゃなかった。




「じゃ、俺は帰るわ」


レオが立ち上がる。




「明日も朝早いしな」


「だな」




それぞれ、ばらばらに帰っていく。




オリバーは、その場に残った。




風が吹く。




草が揺れる。




静かだ。




「……」




足は、動かない。




でも――




視線は、もう逸らしていなかった。


「お兄ちゃん?」


ジャックが袖を引っ張る。




「……会いに行こう」


小さく呟く。


それだけのことなのに、

その一歩が、やけに遠い。


それでも。


「……誘える時に、誘う」


今度は、はっきりと口にした。


空は高く、澄んでいる。





どこまでも続くその先に、


町がある。




そして――




彼女がいる。




オリバーは、ゆっくりと歩き出した。




まだ、小さな一歩。




でも確かに、


前に進んでいた。


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