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平穏を望む転生魔王、今度こそ世界を変える  作者: 彼岸茸
第十一章

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47 終焉のあと

本日 1 回目の投稿です。

 ゼギスたちはある程度体力を回復させた後、長い階段を下る。

 主を失った聖塔(ソフィエル)の内部はきれいなものだった。

 激しい戦闘で荒れ果てた最上階の大広間と、ヴェルガルドが破壊した壁以外に大した損害はない。


 疲労は残っており、足取りも重い。

 だが、ようやく諸悪の根源を打ち倒せたことが心を少しだけ軽くしていた。


 ゼギスは時折、振り返ってシエラの様子を確かめる。

 視線が合えば、シエラがほほ笑み、ゼギスも仄かな笑みを返す。


「こっそりイチャイチャするのはやめてほしいニャ」


 茶々を入れるのはリスカだ。


「し、してませんよ」

「ならば堂々とするか」

「ゼギスまで何を言ってるんですか、もう」


 シエラに軽く睨まれ、ゼギスは肩を竦めた。


「……平和というのは、案外こういうことかもしれませんね。これを見ると日常に戻ったという感じがします」

「同感ニャ~」


 セフィリスがくすりと笑い、リスカはうんうんと頷く。

 戦後処理があるのでまだ日常とは言えないが、そこは気分の問題だ。


「さて、何を呑むかな。王都の酒場が無事ならいいが」


 ドルガンの頭には酒のことしかなかった。


 他愛のないことを話しながら足を進める。

 聖塔を出る前、シエラは最後に一度だけ振り返り、祈りの言葉を口にした。


 *


 シエラはそこら中に積まれた瓦礫の山を見て、戦争をしていたということを改めて実感した。

 王国騎士団が瓦礫の撤去を行い、応急の野営地を設営している。

 団長ガルネスや副団長レイナの指揮のもと、騎士たちはてきぱきと仕事をこなしていた。その動きには疲労よりも安堵の色が濃く出ていた。


 冒険者の姿もちらほら見え、崩れた家屋の下に取り残されたり、逃げ遅れたりした住民がいないか、捜索や救援活動を行っている。


「もう動いているのか」

「逞しいですね」


 ゼギスが感心したように呟くと、シエラも同意した。


「私は森人族の様子を見てきます」

「……まだ酒どころじゃなさそうだな。俺も地人族んところに顔を出してくる」

「じゃあ、あたしは獣人族のところかな。義理があるわけじゃないけどニャ」


 セフィリス、ドルガン、リスカはそれぞれの種族の野営地に向かった。

 ゼギスとシエラは中央広場に向かう。


「シエラ、大丈夫か?」

「え? 何がですか? 魔力ならなんとか」


 二人で瓦礫を避けながら話す。


「幼い頃に王都に連れてこられたシエラにとって、教皇は父親みたいなものだったのではないか?」


 シエラは少し考えてから答える。


「そうかもしれません。でも、だからこそ止めないといけなかったし、止めることができて良かったと思います。放っておいたら、さらに過ちを重ねたでしょうから」

「やはり、お前は強いな。そこ、危ないぞ」


 崩れそうな箇所があり、ゼギスが手を差し出す。

 シエラはその手を取る。


 やがて到着した中央広場では、冒険者ギルド・ヴェイラン支部の支部長グロスタンが冒険者たちに指示を飛ばしていた。


「物資がもうすぐ届きますので、慌てず、順に配布してください。休憩も必ず取るように。君たちが倒れては意味がありませんよ」


 冒険者たちからは威勢のよい返事が返ってきた。

 彼らの中には、当然人間族以外の者も多い。


 神聖教会と王国による洗脳の影響は依然として残っており、非人間族に対し、怯えた目を向ける者も少なくない。

 これまで自分たちがしてきたことを考えると、復讐されてもおかしくはないのだから。

 もちろん、グロスタンがそのような真似を許すはずがない。


 洗脳については、国王ギルゼインのように長年に渡り強固な洗脳を受けている者以外は、放っておいても直に解けるはずだ。


 グロスタンが二人に気付き、声をかけてきた。

 二人に空いている席を勧め、紅茶を淹れる。どこでも飲めるように持ち歩いているのだろう。

 乾いていた喉が潤う。


「ようやく戻ってきましたな。首尾はいかがですか?」

「何とかなった」

「何とかなった、ですか。国と教会という巨大な敵を相手にしていたわりに、ずいぶんと軽いですな」


 グロスタンが苦笑する。


 勇者アルセイン、国王ギルゼイン、宮廷筆頭魔導士リウス、神聖教会教皇フォル。

 それにハイ=ゼリオルやイリス=エルディナといった異形の者。

 強敵は多くいたが、仲間の協力で乗り越えることができた。

 苦労も多かったが、終わってしまえば「何とかなった」としか言いようがない。


「混乱の後にこそ、人の価値が試されますからな。それでは私は指揮に戻ります。お二人は一番の功労者ですから、ゆっくりしていてください」


 そう言ってグロスタンは冒険者たちのところに戻った。


 紅茶を飲み終える頃、セフィリスたちが合流した。


「森人族は大丈夫そうです。長老のエルディナ様が張り切っていましたし」

「地人族も問題なさそうだぜ。グロウ=マルガンが駄目になっちまったから、どこで復興するか悩みどころだな。ま、あいつらが勝手にやるだろ」

「獣人族は《呪眠殿》からガルグが出張するって話だニャ」


 どの種族も逞しいものだ。

 魔人族が気になるところだが、ネザルあたりが手を打っているはずだ。


「それにしてもボロボロニャ」


 リスカがそう言い、紅茶ポットに手を伸ばしかけるが、熱そうな湯気が出ていたため、手を引っ込めた。


「つーか、冒険者ギルドにうまい酒はねえのか? ヴォルクに聞いてみるか。ギルドマスター様なら隠し持ってるかもな」


 ドルガンが冗談ともつかないことを言い、場が静かになる。

 瓦礫を撤去する音や、冒険者や騎士の掛け声がよく響いてくる。


 しばしの沈黙を破ったのはセフィリスだ。


「これからどうするのですか?」

「さてな。神も王も倒れたが、それで全てが終わったわけではないしな」


 ゼギスは肩を竦める。


「俺は酒を呑んで、鋼を打っての日常だな。仕事が溜まってそうで怖いぜ」


 ドルガンがうんざりした表情を作る。


「あたしは本業に戻るニャ」

「暗殺者ですか? ルシアン様のメイドですか?」

「さて、どっちかニャ?」


 シエラの疑問に、リスカは曖昧に笑ってみせた。


「わたしはゼギスと一緒に行きます」


 最後にシエラが微笑む。


「ああ。とりあえず、冒険者を続けながら、平穏に過ごせたらそれでいい。隣にシエラがいれば満足だ」

「えぅ? 何を……もう」


 ゼギスの唐突な発言に、思わず変な声が出たシエラだった。


「ゼギス、そういうのは二人きりの時に言いなさい」

「見てる分には楽しいけどニャ。ミネルには教えておくニャ」


 セフィリスが苦笑し、リスカはどこか嬉しそうだ。

 冒険者ギルド・ヴェイラン支部の受付嬢ミネルの耳に入れば、どこまで広がるか分かったものではない。


 セフィリスが真面目な表情で別の問いを投げる。


「今回の件で、この国の軸は折れました。これからどう作り直していくかが問われます。その中で、もしもまた歪みが生じたら、どうしますか?」

「その時はもう一度壊すまでだ」


 一瞬の沈黙の後、


「ゼギスならそう言うと思っていました。もちろん、その時は微力ながら私も力を貸しましょう」

「装備なら俺に任せな」

「あたしもまあ気が向けば……」


 セフィリス、ドルガン、リスカが三者三様に頷く。


「ゼギスは信じているんですよね、この世界を」


 シエラの問いに、ゼギスは即答する。


「信じているというより、見捨てられないだけだ。ここにはお前たちが――シエラがいるからな」


 シエラは小さく頷き、何も言わずにその言葉を胸に刻んだ。

次回投稿は本日夕方の予定です。

次で最終話となります。

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