46 導きの終焉
本日 2 回目の投稿です。
月明かりだけが照らす、廃墟と化した王都の一角。
その静寂の中、ネザルたちは再集結していた。
魔力供給路の三箇所を破壊した。
これで教皇の無限とも思える復活は阻止できたはずだ。
「ゼギス様、どうかお願いします。必ずや教皇を止めてください」
ミリエルが聖塔の最上階を見上げる。
「大将なら大丈夫だろ」
「そうそう。ゼギスちゃんならやってくれるよぉ」
気楽に言うのはグラディオスだ。
彼に同意するピリムはいつの間にか、セラフィーナが淹れた紅茶の香りを楽しんでいる。
「私たちができることはやった。後は結果を待つだけだ」
ネザルが告げた。その声音に不安や焦りは欠片もない。
ただ、かつての主を信じているだけだ。
*
「魔力が来ない……?」
突如、宙に浮かぶ光の輪が消え、魔力が途絶えた。
「私の魔力が……尽きるはずはありません」
動揺する教皇フォルに向かい、ゼギスが幽輝剣で斬りかかる。
「貴様の魔力ではないだろう?」
教皇は神律剣で受ける。魔力の供給がなくなろうと、その力まで失ったわけではない。
しかし、教皇の表情に焦りが滲む。
「ネザルがやってくれたのですね。さすがは元魔王軍の参謀」
「よく分からねえが、今がチャンスってことだろ?」
「ならちゃっちゃとするニャ!」
セフィリスが感心し、ドルガンとリスカは気合いを入れ直す。
三人もそれぞれの武器を手に、教皇を攻める。
教皇は二振りの神律剣で四人の猛攻を防ぐ。剣の腕は落ちていない。
さらに浮遊する三本の神律剣を生み出す。ゼギスたちの攻撃を自動で防ぐ厄介な剣だ。
ゼギスの剣を受け流し、その背中を斬ろうとする。
それを防いだのはセフィリスの響律剣だ。直後に回し蹴りを繰り出す。
蹴り飛ばされた教皇をドルガンの拳が待ち受けるが、浮遊する神律剣がドルガンの邪魔をする。
その隙にリスカが音もなく忍び寄り、教皇の首を狙う。その間にも神律剣が割り込むが、蛇咬の一撃で破壊される。リスカは銀蛇で追撃し、教皇の法衣が切れる。
ゼギスとセフィリスが同時に攻撃を仕掛けるが、ここで教皇が【聖裁煌剣】を発動する。
今までと違い、自身を巻き込む形で、天井から無数の光の剣が降り注ぐ。
これによりゼギスたちは距離を取らざるを得ない。
対する教皇は浮遊する神律剣で光の剣を打ち消していた。
教皇は続けて【穿光槍陣】を複数同時に、かつ連続で展開し、ゼギスたちを近寄らせない。
動きが制限されたゼギスたちの足元に魔法陣が出現する。【光檻聖籠】だ。
逃げ場がなく、全員が光の檻に捕らえられる。
しかしシエラを除く四人は即座に檻を破壊する。シエラの檻はゼギスが壊した。
その間に教皇はドルガンに接近し、手に持った神律剣で連撃を繰り出す。
ドルガンは手甲で防ぐが、左の手甲が破壊され、そのまま左腕を切断される。
一瞬にやりと笑った教皇の顔面を、ドルガンが左手で思い切り殴りつけた。
シエラが即座に治癒していたのだ。
後方に殴り飛ばされた教皇をさらにゼギスの剣が襲う。間に宙を舞う神律剣が入るが、織り込み済みだ。
ゼギスに重ねるように飛び込んでいたセフィリスの細剣が、教皇の胸に横一文字の傷をつける。
さらにリスカが教皇の背中を二本のダガーで斬る。
宙に浮く神律剣は二本残っていたはずだ。
しかし、一本は今しがたゼギスが破壊し、もう一本はドルガンが残った右の手甲で握り潰した。
「まだです!」
教皇が叫び、【聖裁煌剣】を発動する。
それに対し、シエラが結界魔法で対抗する。受けるのではなく、斜めに設置する。破壊されることに変わりはないが、降り注ぐ光の剣の軌道を逸らすことができた。
ゼギスたちの猛攻は続く。
教皇に魔力供給していた光の輪が再び現れることはない。
度重なる攻撃を受け、教皇の体に傷が増えていく。
「やめなさい! 私が……私こそが、導く者なのです!」
それでも教皇は浮く神律剣を生み出し、魔法を連発する。
「世界を救えるのは……私だけです!」
神律剣は破壊され、魔法は避けられる。
セフィリスの響律剣が煌めき、リスカのダガーが何度も斬り裂き、ドルガンの拳が打ち抜く。
ゼギスが上段に構える。
教皇を守る神律剣は手に持っていたものも含め、すべて破壊されている。
「貴様は導く者でも世界を救う者でもない。ただの一人の人間族だ」
教皇が魔法を唱えるよりも速く、ゼギスが幽輝剣を振り下ろした。
「がはっ」
大量に出血し、教皇は口から血を吐く。
それでもなお立ち上がった。
「私が……私こそが……」
教皇の体が眩い光を発する。
出血が止まり、傷が塞がる。
外部からの魔力供給は途絶えたままだ。
「もうやめてください! その魔力は命を削ってるだけです!」
シエラが悲痛に叫ぶ。
それを無視して教皇は再び神律剣を生み出す。
ゼギスたちは身構えた。
だが、それ以上何も起こらなかった。
そしてぼろぼろと教皇の体が崩れ始めた。
燃え尽きた木炭のように。
最初は四肢の末端からだった。
「違う……こんなはずでは……」
少しずつ体の中枢に向けて灰化が進む。
やがて顔にも灰化が及ぶ。
「赦し……赦してくれ……誰か……赦し――」
そのまま全身が灰となって散った。
ゼギスたちはその様をただ茫然と見ることしかできなかった。
やがてゼギスが呟いた。
「何百年もどれだけ多くの命を奪い、歪めてきたと思っている。誰に赦しを請うつもりだったんだ、貴様は」
「人として死ぬことも、叶わなかったんですね……」
シエラがせめてもと指を組み、祈りの言葉を唱えた。
大広間に満ちていた神聖な空気はいつの間にかなくなっていた。
ようやく戦いは終わった。
ゼギスは広間の端に行き、地上を見下ろす。
見えるのは瓦礫ばかりだ。ただ、戦の虚しさだけが広がっていた。
教皇が同じ景色を見て何を思ったのかは知る由もないが、おそらくゼギスが感じたものとは別のものだろう。
「本当に終わった? もう動きたくないニャ」
床に大の字になって寝転んだのはリスカだ。
「あん? 何を言ってやがる。終わったら祝杯だろうが」
ドルガンが笑う。だが、どこか力がないのは、さすがに疲弊しているのだろう。
「ドルガンって元気ニャ」
「酒のために生きてるからな」
そのやり取りに、小さな笑い声が戻ってきた。
響律剣を静かに鞘に収めたセフィリスが、ゼギス同様地上へ目を向ける。
「復興には長い時間がかかりますね」
ゼギスの隣に並んだシエラが微笑む。
「それでも、人は立ち上がります。森人族も、獣人族も、地人族も、魔人族も……そして人間族も」
次回投稿は明朝の予定です。




