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平穏を望む転生魔王、今度こそ世界を変える  作者: 彼岸茸
第十一章

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45 教皇の異変

本日 1 回目の投稿です。

 神聖さに満ちた大広間での激闘は続いている。

 神を名乗る神聖教皇フォル=エルミナス=レクルスを相手に、ゼギス、シエラ、セフィリス、リスカ、ドルガンの五人は善戦していた。


 三百年前の魔王討伐と、奇しくも状況が酷似している。

 勇者の座には魔王がいて、魔王の代わりに神がいるという違いはある。


 ――皮肉なものだ。


 そんなことを考えたゼギスは戦闘中だが、僅かに苦笑してしまった。


 教皇の駆使する魔法は熾烈だ。

 天井から降り注ぐ光の剣、高速で放たれる光線、動きを止める光の檻。

 それらに加え、二振りの神律剣(エルナリエ)による剣技も侮れない。


 教皇は連続で魔法を行使し、その無尽蔵にも思える魔力は、まさに神のごときだ。

 さらに疲労を感じさせず、浮いたまま高速での移動を続ける。


 攻略法が分かったとはいえ、簡単に打ち倒せる相手ではない。

 それでも歯を食いしばり武器を振るい、魔法による牽制を繰り返し、血を流しながらゼギス達は神に挑む。


 何度も追い詰めたが、そのたびに光の輪から供給される膨大な魔力で復活を遂げる。

 大広間の床には治療薬や魔力回復薬の空き瓶が転がっている。


「終わりが見えないニャ」

「ったく、厄介極まりねえぜ」


 リスカとドルガンが愚痴をこぼす。


「それでも私たちが倒れるわけにはいきません」

「はい。教皇を止めないといけません」


 セフィリスが努めて冷静に告げ、シエラが同意する。


「ここで終わらせる」


 ゼギスが宣言し、戦闘は続行される。



 教皇はさらに数度の復活を果たし、余裕を持った微笑みで敵対するゼギスたちを見ている。

 対するゼギスたちは肩で息をしている。


「もう終わりですか?」


 教皇が優しく問いかける。


「いいや、まだだ」


 ゼギスが教皇を睨み、再び幽輝剣(アトルムルクス)を構える。

 他の仲間も同じだ。


「良いでしょう。これも我が試練。存分に力を振るって――」


 その時だった。

 空中に浮かんでいる大量の光の輪が突如その輝きを失い、霧散した。


「何が……?」


 ここに来て初めて教皇が狼狽を見せた。

 ゼギスは確信した。


 ネザルたちが何かをしたのだと。


 *


 少しだけ時を遡る。

 地上での戦闘は既に終了していた。残ったのは瓦礫の山と多くの魔獣の死骸だけだ。


 ネザルが地上に残った者を招集していた。

 集まったのはグラディオス、ピリムとその配下の三人、聖女ミリエル、王国騎士団長ガルネスとその部下たちだ。


「教皇は収容所で集めた魔力を用い、不死性を維持している」


 ネザルが別行動を取っていた時に聖塔に忍び込んで調べたことだ。そのことを知ってから対策を講じていた。


「魔力の供給源を断たねば、あの方たちの勝利はあり得ん」

「んじゃ、さっさとやろうぜ」


 グラディオスが軽い口調で言う。

 ピリムもうんうんと頷いている。セラフィーナはピリムのフリフリした服についた埃を払い、ノイリスがその様子をしかめっ面で見ている。ガルグは無言だ。


「無論だ。急がねばあの方たちが負けるかもしれん」


 ネザルは首肯し、破壊すべき箇所を告げ、三グループに分けて行動するという方針を立てた。


 *


 ミリエルが向かったのは、非人間族の魔力を強制徴収していた収容所から延びる、魔力の一時集積所だ。そこで集めた魔力を教皇が使えるように調整する。

 ここから地下の管を通り、聖塔に送られる仕組みらしい。

 長年にわたり神聖教会に潜入していたミリエルでさえ知りえなかったことを、短時間で調べ上げたネザルの手腕には脱帽だ。


「今のわたくしは皆さまの敵ですわ。それでも今だけはこの世界の未来のために協力してくださいませんか?」


 ミリエルが頭を下げる相手は王国騎士団団長ガルネスと白霞騎士隊隊長セレスティアだ。

 二人は念のための護衛としてついてきており、残りの騎士は王都の復興に向けて動いている。


「貴女も王国を守りたいと思っているのでしょう? ならば志は同じだ」

「団長に同意します。この後に及んで敵も味方もありません。強いて言うなら神聖教会が敵でしょう」


 ガルネスもセレスティアもミリエルを非難するような発言はしなかった。

 ミリエルはもう一度頭を下げる。


「そう言っていただけるとありがたいですわ。では参りましょう」


 一時集積所では、教皇用の魔力に変換するための魔法陣が淡く光っている。

 その魔法陣を破壊すればミリエルの作業は終わりだ。


「ネザルおじさまは用意周到ですわね」


 ネザルから壊すべき魔法陣とその壊し方は教えられていた。

 作業はすぐに終わった。


 その後は収容されている非人間族の解放だ。

 それについてはヴェイランの冒険者が当たっているので、その手伝いだ。


 *


「じゃあノイノイとセラフィ、よろしくねぇ」


 ピリムが担当したのは一時集積所から聖塔の魔力貯蔵庫に繋がる地下の魔力運搬路の破壊だ。

 彼女は魔力の流れを視たり壊したりするのが得意ではないので、配下に丸投げだ。


「お任せください」

「ネザル様が大まかな場所を教えてくださいましたので、すぐに見つかると思います」


 ノイリスとセラフィーナは頷き、地面の下に意識を向ける。

 その間、光ノ騎士団の残党が襲ってきたが、ガルグが一蹴する。

 既に命令系統の頂点だったリウス=ヴァルドは死亡しており、驚異的な連携を見せることはなかった。

 もちろん、一人ひとりの力量も高いが、ガルグの敵ではない。


 ピリムが聖騎士たちを観察し、目を細めた。


「うーん、よくもまあここまで壊せるよねぇ」


 洗脳魔法を得意とする彼女が、聖騎士たちの内面を見る。

 精神状態を確認し、溜め息を漏らす。


「これじゃ、さすがのボクでも元に戻すのは無理かなぁ」


 《呪眠殿》にセラフィーナとともに来た聖騎士たちはまだ洗脳の上書きができた。

 だが、目の前の聖騎士はピリムでも手の施しようがなかった。


「ま、仕方ないかぁ。ガルちゃん、殺してあげといてねぇ」

「御意」


 ガルグが聖騎士を殲滅している間に、ノイリスとセラフィーナが戻ってくる。


「ピリム様、魔力運搬路を見つけました」

「ありがとぉ。じゃあノイノイとガルちゃんの役割交代ねぇ」


 彼女の指示通り、ノイリスが聖騎士の殲滅を引き継ぎ、ガルグは地下の魔力運搬路を力任せに破壊した。

 セラフィーナはピリムを甲斐甲斐しく世話していた。


 *


 ネザルとグラディオスは聖塔(ソフィエル)内に侵入していた。

 立ちはだかる光ノ騎士団の聖騎士をグラディオスが拳一つで潰していく。


「どんだけいんだよ、こいつら。わらわら出てくるな」

「リウスにとっては使い捨ての駒だからな。いくらいても困らないのだろう」

「うちの大将とは相容れねえな」


 ゼギスの方針は第一に命を大事にすることだ。魔王軍時代から無為に命を散らす行為を嫌っていた。

 二人は雑談をしながら目的地に向かう。


 静かな階段に響くのは、二人の話し声と、聖騎士が叩き潰される音だけだ。

 やがて魔力貯蔵庫に辿り着いた。

 破壊する三箇所の中で最も重要な場所だ。

 だからネザルは護衛としてグラディオスを連れてきた。


 最悪、ここさえ壊せれば、あとは失敗しても問題ない。他の二箇所はここが失敗した時の保険だ。


「慎重に破壊する」


 ネザルが貯蔵庫を調べ、教皇に供給するための経路を探ろうとしたその時――


 ドォン!


 巨大な破壊音が響き渡る。


「はっはー、こっちのほうが手っ取り早いだろ?」


 グラディオスが貯蔵庫自体を蹴り壊していた。

 だが確かに、教皇への魔力供給は途絶えた。


「……まったく、理不尽な暴力だな」

「便利だろ?」


 ネザルはくつくつと小さく笑い、グラディオスは豪快に笑った。

次回投稿は本日夕方の予定です。

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