44 神を名乗る者
本日 2 回目の投稿です。
セフィリス、ドルガン、リスカの三人はゼギスの近くまで駆け寄る。
シエラが回復魔法を施し、聖塔の階段を駆け上って乱れていた息が整う。
神聖さを増した大広間を見渡したセフィリスが口を開く。
「息が詰まりそうなほど空気が澄んでいますね。何があったのですか?」
「あの剣が邪魔で教皇に攻撃が当てられん。魔法を無効化して、壊しても再生する。だが壊さないと教皇に届かん」
ゼギスが端的に答える。
「なんで宙に浮いてるニャ?」
「剣の形をした魔法なんだろ。あれなら俺がぶっ壊せるかもしれねえ」
リスカが首を傾げ、ドルガンは拳を握る。《古代地霊文字》であれば、神律剣の破壊はより容易になるかもしれない。
「他の連中はどうした?」
「ネザルがやることがあると、地上に残っています」
「あいつがそう言うなら、何か重要なことがあるのだろう。俺たちは俺たちのなすべきことをやる」
ゼギスが一同を見渡す。
誰もが力強く頷くのを確認してから、ゼギスは教皇に向き直した。
「待たせたな」
「いいえ。試練の壁は高いほど、神に近づけるというもの」
教皇は余裕があるのか、ゼギスたちの会話に割って入ろうとはしなかった。
「その余裕がいつまで持つかな?」
直後、リスカが教皇の背後から蛇咬で斬りつける。
しかし、神律剣が蛇咬と教皇の間に入り込んでいた。
続いてセフィリスが【風歩】、【瞬炎】、【雷迅】を使い、教皇に肉薄する。響律剣と体術を用いて教皇を攻めるが、全て防がれる。
シエラの結界が神律剣を阻害しても、別の神律剣が対応する。
そこにゼギスが加わり、三人による同時攻撃が繰り出されるが、神律剣はその全てを防ぎきる。
さらに空中の光の輪から定期的に光の矢が放たれ、攻撃に集中できない。
「どけ! おらぁ!」
ドルガンの叫びに、三人が飛び退く。ドルガンの拳が教皇を狙うが、やはり神律剣が間に入る。
だが、振り抜いた拳から《古代地霊文字》が打ち込まれ、神律剣は一撃で粉砕された。
「ふん、さすが俺だぜ」
「ドルガン、避けるニャ!」
胸を張るドルガンがリスカに言われ、後ろに跳ぶ。さっきまでいた場所に光の矢が刺さった。
これで神律剣は残り四本――否、既に再生し五本に戻っている。
セフィリスの細剣が神律剣を折るが、数秒後には再生する。
続けて魔法を放つが、神律剣に斬られ霧散してしまう。
「確かに魔法が効きませんね。発動前に消されています」
獣人族本来の身体能力を発揮するリスカにも、神律剣は対応する。
「そんなに速くないのに、なんで止められるニャ?」
「俺の目と同じだろう。魔素や魔力の流れに反応しているんだ」
リスカの疑問にゼギスが答える。
ゼギスはリスカより素早く動けるわけではないが、それでもリスカの動きに対応できる。魔力の流れから、リスカの行動が読めるからだ。
魔法が発動する前にかき消されるのも同じ理屈だ。
「剣自体が自動でやっているようですね。この澄みすぎた空気の中では、私たちの動きはよく見えることでしょう」
「んなもん分かったところで意味はねえ。ぶっ壊すだけだぜ!」
セフィリスの補足を、ドルガンが一蹴する。
「ドルガンさん、気を付けてください!」
シエラがドルガンを狙った光の矢を結界で弾く。
「集中しろ。神律剣が再生するのに数秒かかる。同時に破壊すれば、必ず隙ができる」
ゼギスの指摘に、教皇の眉がぴくりと反応した。図星のようだ。
方針が決まれば後はやるだけだ。
この作戦を遂行できるだけの実力を、この中の誰もが有している。
タイミングを合わせ、それぞれが一本ずつ破壊する。
シエラだけは破壊する力はないので、結界内に閉じ込めることで対処した。すぐに結界は破られるが、その一瞬が重要だ。
「リスカ、頼んだ!」
「はーいニャ!」
この中で最も速いリスカが瞬時に教皇に迫り、蛇咬で首を横に斬り、銀蛇を胸に刺した。そして、即離脱する。
教皇は声を出す暇もなく、床に倒れた。
「はっ、呆気ねえもんだな」
「油断しないでください、ドルガン」
構えと解くドルガンを、セフィリスが注意する。
「見てください! 魔力が……!」
シエラが焦燥感を露わにして、周囲に視線を巡らせる。
さっきまで光の矢が放たれていた光の輪がいくつも輝いたかと思うと、膨大な魔力が教皇の体に注がれる。
「おいおい、これだけの魔力、どこから持ってきやがった」
「第七収容所……」
リスカがぼそりと呟いた。
非人間族を捕らえ、彼らの命を削って魔力を抽出していた施設の名だ。
「でも、使えるようにするまでもう少し時間があったはずでは?」
シエラが問う。
少なくともあと数日は先だったはずだ。だからこそ、ゼギスたちはこのタイミングで蜂起したのだ。
「嘘の情報を掴まされたのでしょう。ですが、今はそんなことを言っている場合ではありません」
セフィリスは冷静に現状の把握に努める。
教皇に注がれる魔力が収まる。代わりに彼の体が神々しく輝く。
その体が宙に浮く。
「な……若くなったニャ」
好々爺然とした老人の姿はそこにはなかった。
皺のない整った顔に、若々しい体。
教皇は低く落ち着いた声音で話す。どこか甘く、暖かさを感じさせる。
「神とは正しき力のことです。すなわち、私が神なのです」
宙に浮く神律剣はない。代わりに両手にそれぞれ神律剣を持っている。
教皇は浮いたまま滑るように移動し、シエラに接近する。
「異端の聖女など世界に不要です」
咄嗟に結界を張るが、簡単に壊され、神律剣がシエラを狙う。
「させるか!」
横合いからゼギスが神律剣を防ぐ。
さらにドルガンが《古代地霊文字》を込めた拳を打ちつける。
神律剣は壊れ、教皇の体は大きく弾かれた。
「【聖裁煌剣】」
教皇が唱えると、大広間の天井に大量の魔法陣が展開される。そこから光の剣が降り注ぐ。
「【聖壁】!」
シエラが高位結界魔法を発動する。半球状の結界が展開されたが、降り注ぐ光の剣に耐えられず、破壊される。
ゼギスがシエラの手を引き、他の者はそれぞれ光の剣の範囲外に出る。
「【穿光槍陣】」
教皇が続けて魔法を唱える。
彼の背後に現れた魔法陣から、槍のように鋭い光線が発射される。
狙いはゼギスだ。魔法を無効化できる【封考】を纏う。
しかし、光線はその体を貫通した。
「ぐふ……俺の魔力を上回る、だと?」
ゼギスの腹に穴が開き、口から血がこぼれる。視界が揺れ、遅れて痛みが走った。
すぐにシエラが治癒魔法で癒す。
その間にセフィリス、リスカ、ドルガンが教皇に迫っている。
「【光檻聖籠】」
教皇はさらに別の魔法を唱える。
三人の足元に魔法陣が現れ、次の瞬間には光でできた檻が三人を包み込む。
リスカとセフィリスは持ち前の速度で逃れたが、ドルガンが捕まる。
既に神律剣を再生させた教皇がセフィリスとリスカを無視して、ドルガンに迫る。
檻が消えた瞬間、左右から狙う神律剣を、ドルガンは手甲で掴み取る。
そこにセフィリスとリスカが斬りかかる。
掴まれた神律剣のせいで動けない教皇の背中に傷が生まれる。
「神の体に傷をつけるとは許しがたい所業です」
神律剣を一度自ら消し、ドルガンを蹴り飛ばすと、再度魔法を唱える。
「【聖裁煌剣】」
一つ目と同じ魔法だ。
「同じ魔法が二度通じると思うな」
ゼギスが教皇に肉薄し、斬りつける。
新たに手にした神律剣で防ぐ教皇を、ドルガンが思い切り殴りつける。
一度喰らった魔法を二度も喰らうことは少ない。
ゼギスとセフィリスは特にそれが顕著だ。
天井から降り注ぐ光の剣は、教皇の近くが安全圏になる。
光線は魔法陣の向きと角度で軌道が読める上に、教皇の隙が大きくなる。
床から出てくる檻を避けるのは難しくない。ドルガンなら《古代地霊文字》で破壊することができる。
対処法さえ分かれば、どうとでもできる。
それがこのゼギスの仲間たちだ。
戦闘は長引いたが、教皇にも疲れの色が滲み始める。
疲れれば、判断が鈍る。判断が鈍れば、攻撃を受ける。
やがて教皇は床に落ち、膝をつく。
「まさか、この私が……」
「これで終わりだ」
ゼギスが振り下ろした幽輝剣が教皇の心臓を貫いた。
直後、空中の光の輪から再度魔力が教皇の体に注ぎ込まれる。
「まさか……」
誰の呟きか分からなかった。
魔力の奔流が収まると、教皇の体は再度宙に浮いていた。
あれほど傷ついていた体は完全に修復され、疲労すら見えない。両手には神律剣。
教皇が不敵に笑う。
「さあ、初めからやり直しましょう。其方らはいつまで持つかな?」
次回投稿は明朝の予定です。
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『半妖少女とゆく禍主退治の旅』
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