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平穏を望む転生魔王、今度こそ世界を変える  作者: 彼岸茸
第十一章

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48 エピローグ 魔王の望んだ平穏

本日 2 回目の投稿にして、『平穏を望む転生魔王』最後の投降です。

 世界の歪みを正すための戦いは幕を下ろした。

 非人間族を迫害してきた国王は倒れ、神を騙った教皇もまた滅びた。


 だが、それは『終わり』ではなく、『始まり』だ。

 レスティエス統一王国は存続し、心の拠り所となる神聖教会は人間族にとって必要なものだ。


 先王ギルゼインは病に伏せたとされ、現勇者であり第二王子であるアルセイン=レスティエスが玉座に就いた。

 彼はそれまで引き締めていた非人間族への施策を段階的に緩和することを約束した。

 森人族、地人族、獣人族、そして魔人族の代表との会談を幾度となく開いている。


 教皇不在の穴は、聖女であるミリエル=アルマシリアが暫定的に兼任している。

 地位に興味のない彼女は、いずれ信頼できる者に教皇の座をゆずるつもりだ。

 そのためにも、国内の秩序の回復を最優先事項としている。

 新王アルセインの補助を積極的に行い、王国騎士団や冒険者ギルドとの仲介も買って出ている。


 王国騎士団団長はガルネス=ヴァンドールが引き続き務めている。

 この戦の責任を取るとして辞任を申し出た。

 しかし、方々から続けてくれと懇願されたことと、後任が育っていないことから、しぶしぶ辞任を取り下げた。

 彼は胃薬とともに、王国騎士団を指揮する。


 冒険者ギルドではヴォルク=ラインバッハがギルドマスターを辞任した。

 洗脳されていた自身の未熟さを憂い、一冒険者に戻る形となった。

 空席となったギルドマスターにはヴェイラン支部のグロスタン=ベラヴァインや、元特位パーティ《グリムアイズ》のリーダー・アレクト=ガルディエルが就任すると囁かれている。


 辞任と言えば、ゼギス=ノクターリスが魔王を辞したという話もある。

 最も強い迫害を受けてきた魔人族を率いるために、魔王を続けてほしいという声もあったが、彼は強い意志で辞退した。

 そもそも現在のゼギスは人間族だ。魔人族をまとめるのに適していない。

 代わりに彼はネザル=グレインに『魔王』を託し、ネザルはこれを快諾した。


 《奈落の環》は変わらず王都の裏組織として活動している。

 王国騎士団では手が足りなかったり、手を出せなかったりする犯罪者を大人しくさせるのに一役買っている。


 《呪眠殿》も通常通りだ。

 攻略を試みる冒険者を返り討ちにし、いまだに未踏破のダンジョンとして名を馳せている。


 冒険者ギルド・ヴェイラン支部ではグロスタンが優雅に紅茶を嗜んでいる。彼はギルドマスターへの昇進の噂について何も語らない。

 受付嬢のミネル=クラリーチェは今日も噂話を集めている。


 *


 セフィリス=エルナリエは変わらず冒険者稼業に勤しんでいる。

 グロスタンの昇進の噂が出てから、次のヴェイラン支部長は非人間族初の支部長として彼女が推薦される話まで出てきた。

 セフィリスは「管理職など性に合いません」と言い残し、各地の冒険者ギルド支部を転々としている。


 リスカも以前同様、主であるルシアン=ヴェルメイユのメイドとして働きながら、彼に仇なす者を排除している。

 ベルグラード領主オルゴ=ド=マルバスは定期的に彼女の嫌がらせに遭い、心落ち着く暇がないらしい。

 そういうことをしながら、リスカは記憶を失ったままのシェレルの看病をしている。


 ドルガンはヴェイランの鍛冶工房に戻り、武器を打ったり後進を育てたりしている。

 ときどき一冒険者となったヴォルクの手伝いで、依頼に出ることも増えた。

 酒場では二人が笑い合いながら酒を飲んでいる姿が目撃されている。


 *


 王都レスティアの未整理区画にある廃教会に、ゼギスとシエラはいた。

 王都の外れに位置しており、戦乱においても倒壊を免れていた。


 当然手入れはされておらず、埃っぽい空気で、ステングラスは割れている。


「懐かしい場所ですね」

「ああ。俺がここで休んでいた時に、シエラが来た」


 二人が初めて名乗り合った場所だ。

 あの時、ゼギスは転生したばかりであり、シエラは神聖教会に破門された直後だった。


 互いに相手を信用することはなく、打算的に行動を共にすることになった。


「あの出会いがなかったら、今のわたしたちって、ないんですよね。そう考えたら不思議な巡り合わせです」

「まさか世界を正すことになるとは、まったく思っていなかったな」


 二人で顔を見合わせて笑う。


「それにしてもなんでまたこんなところに連れてきたんですか? 最近ちょっと相手にしてくれませんでしたし。もうわたしのことはどうでもいいのかなって、ミネルさんに相談したらニヤニヤされるし」


 少しだけむくれてみせるシエラ。


「ほう、さすがのあいつも黙っていたか。俺がシエラのことをどうでもよいと思うわけがないだろう。少々やることがあってな」

「わたしに内緒でですか?」

「そうだ」


 二人は並んで廃教会の奥に向かう。

 小さな教会だ。時間はかからない。


「よし。じゃあシエラはそこに立ってくれ」


 シエラはよく分からないまま、言われた通りの場所に立つ。

 そしてゼギスは壁を背に身を低くする。


「あ、これ、ここで会った時と――」


 ――同じ立ち位置ですね。


 そう続けようとして、ゼギスが「静かに」と合図をしたので、シエラは口をつぐんだ。


 ゼギスは意を決したように、短く息を吐く。

 そして片膝をつき、懐から小さな箱を取り出す。

 シエラの目を真っ直ぐ見つめ、それから告げる。


「俺にはシエラが必要だ。これからも俺と共に歩んでほしい」


 ゼギスらしい、端的な言い回しだ。

 小箱を開けると、指輪が入っていた。

 割れたステンドグラスの隙間から、淡い光が二人を照らす。


 シエラは思わず口を押さえた。


 指輪の石座には、どんな宝石とも異なる輝きの石が入っていた。

 どこか見覚えのある輝き。

 確か、ゼギスと冒険者登録をしたばかりの頃に受けた依頼の素材だ。

 《光羽鳥の羽採集》。

 ミネルが『この羽根を恋人に贈れば、想いが伝わる』と言っていた。

 あの時、ゼギスが『覚えておこう』と言っていた。


 最近ゼギスが忙しそうにしていたのは、この素材を採りに行っていたからだ。


 シエラの胸に熱いものがこみ上げ、視界が涙で滲む。

 喉が震える。

 それでも声を絞り出す。


「はい、よろしくお願いします!」


 かくして、世界を変えた元魔王は、平穏を手に入れることができた。

 それは、どんな栄光よりも尊く、静かな勝利だった。

これにて完結です!

最後までお読みいただき、本当にありがとうございました。

この物語をここまで書き切ることができたのは、読んでくださった皆さんのおかげです。


もしこの物語を

「最後まで読んでよかった」

「少しでも心に残った」

と思っていただけたなら、

ブックマークや評価をいただけると、とても励みになります。


現在、新作『半妖少女とゆく禍主退治の旅』を連載中です。


リンクは貼れない仕様みたいですね……

タイトル検索などで見つかると思いますので、ご興味があれば覗いていただけると嬉しいです。

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