97話「襲撃1」
王都旧市街。
夜の街は、王都といっても薄暗い。
そこそこ遅い時間になってしまった。
昨夜泊まった新市街の宿へ戻るには時間がかかりすぎるから、旧市街の近場で宿を取ることにした。
魔術学校の職員に聞いたら、最寄りの宿屋街はすぐ近くで、迷う道でもないとのこと。
夜に馬車の騒音を響かせるのも近所迷惑だし、一晩くらいなら学校で預かってくれるというので、お言葉に甘えてそうした。
魔術学校を出たわたしたちは、徒歩で宿に向かうことにした。
交渉がうまくいったことで、わたしたちは興奮気味だった。
自然と話が弾む。
話題は今日の出来事になる。
王都の都会ぶり、アゾラールの奇行やその後の緊迫した場面。
そういったことをネタにしながら歩いていく。
「朝のシェリルさんさー、絶対迷ってると思ったよー」
「迷っていません」
「ぷくく、それそれ! ルイーズものまねうまい! 天才かー!?」
エリンとルイーズがけらけら笑い合う。
長時間の緊張状態から解放されて、ふだんは冗談など言わないルイーズまでいつになく浮かれている。
旧市街を大きな川が流れている。
そこにかかる幅広の橋に差し掛かった。
この橋を渡れば宿屋街はすぐだ。
そのときのことだった。
テルマがそっと耳打ちしてくる。
「尾行されてる」
「!?」
「そのまま歩いて。気取られる」
わたしは言われたとおりにした。
一切頭を動かさずに前だけを見ていたため、逆に怪しい挙動に映ったかもしれない。
でも、おかげで気づくことができた。
50メートルくらい長さがある、わりと大きな橋なのに、さっきから誰ともすれ違っていない。
こんな都会で、そんなに遅い時間でもないのに不自然だ。
「何人くらい?」
「後ろには2人。さっきと曲がり角で違うやつらに交替したから他にもいる」
CIAお得意の『スイッチング尾行術』の使い手か……。
なかなかやる。
いつぞやミルトンで襲撃してきた賊よりはできる賊のようだ。
「どうしたらいい?」
「このまま宿に行くのは嫌だな」
「同感」
寝込みを襲われるのは勘弁。
いくらエリンたちが強いといっても、不意打ちは避けたい。
荒事になるなら、今ここの方がいい。
そう思っていたら、前からもフードを目深に被った2人組がやってきた。
2人組はわたしたちの目の前で通せんぼをするように立ち止まる。
……挟み撃ちか。
この時点で逃げるという選択肢はなくなった。
スパイ映画なら颯爽と橋の欄干を越えて川に飛びこむところだけど、それはムリだ。
なぜなら、わたしは泳げない。
「氷剣の女戦士に気をつけろ。あとはDランクのザコだ」
「つっても親分、俺らに氷属性は効きませんぜ」
「黙れ、逆賊の手下に情報を与えるな!」
リーダーらしきやつが言って、すらりと剣を抜いた。
オゥ……情報の宝庫な会話デスね……この暗殺者マヌケにもほどがあるデース。
いかん、染っちゃった。
アゾラール語の感染力すげえな……。
アゾラールの件があるから迷ったけど、鑑定した。
前の2人は、リーダーらしき男が「Cランク」装備。
その隣のやつは「Dランク」装備なので無視していいだろう。
振り返ると、後ろの2人も「Dランク」装備だった。
エリンが負ける要素はない。
不安なのは、エリンが小突いただけで死んでしまいかねないことだ。
「エリン殺さないで! 情報を聞きだしたい!」
「わかってるよ~」
よし、さすがのエリンもこの状況をわかっているな。
後ろは心配いらない。
問題はこっちのCランク装備の男だ。
手にした長剣はCランクだけど、ただのCランクじゃない。
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・ロングソード(+10):攻撃力600:(Cランク)
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上限まで強化済みだ。
Cランク装備を「上限強化」するためにはコストも手間もべらぼうにかかる。
武器種とベース素材のレア度にもよるけど、並みの冒険者1年分の稼ぎくらいは吹っ飛んでしまうだろう。
時間をかけて多額の金も費やした。
剣への愛情が見て取れる。
この男はただの賊ではなく、おそらく歴とした剣士だ。
剣に誇りと矜持を持ち、人生を懸けて修練と研鑽を積み上げてきた、『本物』の剣士だ。
油断していい相手じゃない。
とはいっても。
しょせんは特殊効果もないただのCランク武器。
負ける要素はゼロなんだけど。
「ただの賊ではないな。名のある剣士とお見受けする」
「時間稼ぎには付き合わんぞ」
「こちらも1人の剣士として礼儀を尽くしているまで。いざ尋常に勝負!」
と言って、わたしはすかさず『テルズボウ』を取りだした。
飛び道具を見た賊の剣士が瞬時に妙な構えを取る。
なんだあの構え?
動きまわって狙いを外そうとするならわかるけど、足を止めたぞ?
居合っぽい構えに見えるけど、なにか特殊な剣技か?
まあいい。
関係ない。
どうせ当たるんだから。
わたしは装填済みのテルズボウを発射した。
すると、剣士がありえないことをやってのけた。
「ズァッ!!!」
高速で迫ってくる矢を真っ二つに斬ってしまったのだ。




