98話「襲撃2」
剣士がクロスボウの矢を斬った。
信じられない。
どういう反応してるんだよ???
……まあ、関係ないんだけど。
テルズボウの特殊効果は『必中』。
『必中』ってのは、必ず当たるから必中なんだよね。
2つに斬られた矢は、その勢いで一度は軌道をそらされた。
しかし。
即座に空中でターンして軌道修正する。
「ッ……!?」
驚愕の表情を浮かべた剣士の左右から、矢が体の側面に命中した。
両肩を射られた剣士はなにかを言いかけたけど、すぐに丸まるように蹲って動かなくなる。
「麻痺毒だ。よもや卑怯とは言うまいな」
「いや卑怯だろ。今の戦いのどこに正々堂々要素があったのさ」
冷静なツッコミをくれたテルマは、すでにDランク装備の男を制圧していた。
得意の弓矢を使わずに、体術で気絶させたらしい。
気絶させるシーンを見逃すくらい早かった。
たぶん弓矢では手加減がしづらいからだろうけど、テルマがそんな高度な体術を使えるとは知らなかった。
「すごい体術だね」
「ん? あぁ、そうか。ヨシ姉は知らないのか。わたしの職業は本来モンクだよ」
テルマは気絶した男を手早く後ろ手に縛りあげながら驚愕の事実を暴露した。
そんなにさらっと言うこと?
「驚いた……。弓しか見たことなかったし」
「魔物相手だとパーティのバランスとかあるから。それにモンクって武装が少ないだろ? いろいろ考えたら弓のほうが便利なんだ。汚れないしね……」
ははぁ、最後のやつが本音だな。
テルマは身だしなみにかなりこだわってるみたいだし、魔物の体液やら肉片やらでビチャグソになるのが嫌なんだろう。
しかし、そういうことならモンク用の武装を用意しないとな。
にしても……。
テルマにしろこの剣士にしろ意外な技を使う。
技術は「鑑定」できないから気をつけないといけないな。
さて。
さっき「必殺技、みねうち!!!」とか聞こえたから、エリンたちの方も終わっているだろう。
攻撃力1000超えの両手剣で峰打ちなんかしたらマジで必殺の打撃になりかねないんだが、だいじょうぶだろうか?
まあ、あれでもエリンは剣技だけは一流だから、力加減を誤ることはないだろう。
と思いながら後ろを見て、固まった。
2つの氷の彫像がそこにあった。
その横ではエリンが「なんでなんで!? あたし手加減したよ!?」とあわあわしている。
なぜかルイーズもあわあわしている。
わたしもあわあわしたくなった。
この連中の防具に『冷気軽減』の特殊効果がついていることはさっき確認した。
凍結するわけがないのに。
どうして凍結してんの君たち……?
ええい、細かいことは後だ。
テルマの話だと賊は他にもいたはず。
「他のやつは?」
「気配がしない。もう逃げたみたいだ」
「それはよかった」
わたしは麻痺しているリーダーの剣士に近づいた。
すでにテルマが後ろ手に縛りあげている。
さすがだ。
剣士の長剣をあらためて見てみる。
どこかに職人の銘でも打ってないかと思ったからだ。
自己顕示欲の強い鍛冶職人は顧客に黙って自分の名前や印を刻むことがある。
芸術家みたいに。
それがあれば王都の鍛冶ギルドで職人を特定することができるだろうし、そこからこの剣士の身元にたどり着くのも難しくないだろう。
残念だけど、なかった。
ちっ、もっと自己を顕示していけよ、職人!
わたしなんか最近じゃ製造番号まで刻印してるんだぞ。
もっとも、目的は自己顕示じゃないけど。
状態異常武器を作り始めるにあたって、危険な武器を闇雲にばらまくのはよくなかろうと思ったからだ。
「剣士殿、雇い主の名を吐いてほしい。できれば痛めつけたくない」
「……ッ!」
剣士はなにも言わずに睨みつけてくる。
どうやら吐くつもりはないようだ。
「嫌だなぁ、わたし拷問とか反対派なんだよ。やり方もよくわかんないし」
「……ッ! ッ!」
剣士は目で必死になにかを訴えかけてくる。
絶対に喋らんぞ、というアピールか?
「……ッ! ッ!!!」
あ、麻痺してるんだっけ……。
わたしはグネヴィア特製の解除薬を取りだし、剣士に飲ませた。
少し待つと、回復した剣士がいきなり唾を飛ばしてわめきだした。
「卑劣な魔女め! 逆賊とお似合いだ!」
うわっ、いきなりめんどくさい!
こんな荒ぶってるやつから雇い主の名前を聞き出すなんて素人にはムリでしょ……。
拷問はエリンたちのわたしへの好感度が下がりそうだからやめとくとして。
情報もあることだし、たまには頭を使って推理でもしてみるか。
推理が当たっていたら犯人が真相をベラベラ喋りはじめてくれるって刑事ドラマが教えてくれたし。
「この長剣はよく鍛えられているけど、特殊効果がなにもついてない。
だから魔物用じゃなくて人間用の武器。
この子たちがCランクに昇格したことも知らなかったから、あなたは冒険者じゃないし、ミルトン関係者でもない。
すごい技を使う手練れの剣士だし、フリーってことはなさそう。
王国騎士団とか貴族の私兵とか、その辺りに召し抱えられてるはず。
エリンが氷武器を使うことは知ってたから、ほどほどに情報を収集できる立場の人物に雇われてる。
魔女とか逆賊とか、思想の匂いがプンプンする発言から雇い主はただの雇い主じゃなくて忠誠の対象でしょう。
貴族だな、たぶん。
逆賊って言うからにはかなり上級の貴族でしょう。
まさか宰相?
それはさすがに結論が性急すぎるか。
えーと、あとは、なんだ?
あ、防具か。
どれどれ。
つーか、この耐性ハードレザー防具ってやっぱうちのじゃん。
ほらここ、シリアルナンバーがあるでしょ。
誰に売ったのかちゃんと台帳に記録してるから、追跡できるんだよ。
我が工房はユーザーフレンドリーが売りなのでトレーサビリティも完備しております。
この番号だと……9月下旬のロットだね。
あーたしかにあの時期大量注文があったわ。
これで特定できるね。
うーん、なんかもう聞くことなくなっちゃったな。
でも、追跡調査には時間かかりそうだから、やっぱ吐いてもらえる?」
「ま、魔女め……」
剣士はそう言うと、口からにゅっと舌を突き出し、躊躇わずに嚙み切った。
舌の半分から先っぽが地面にぼてっと落ちた。




