96話「魔術兵11」
「将軍は、ご自分の判断でわたくしのもとへエリザベスを送られたのです」
「それはおかしくないですか?」
「ええ。当時はわたくしもおかしいと思いました。筋が違いますから。ときに親方は王都の派閥争いについてはご存じでして?」
「まあ、だいたいは……」
「でしたら、わたくしがこのような嘘をつく意味がないこともおわかりでしょう。将軍に命じたのが誰であれ、わたくしがエリザベスを人質にしている現状に変わりはないのですから」
たしかに……そうだ。
ベスが王女の支配する魔術学校に幽閉されている、という結果はなにをどう取り繕っても変えられない。
ダメだ、意味がわからないぞ……。
意味はわからないけど、ディ・ソラリ軍を貸してもらえないことだけはわかった。
「命じることはできません。ですが……お取次ぎはできます」
「……?」
「将軍との会見を設定する、と申しているのです。お忙しい方ですから、すぐにとはいきませんが」
ユーリアには、自分がディ・ソラリ将軍を動かす権限はない。
しかし、会わせることはできる、と言った。
軍を出してほしければ直接頼め、ということだろう。
これは申し出としてはありがたいけど、将軍に会えても説得できる気がしない。
だいたい、国軍の将軍は、勝手に軍を動かせないんじゃないの?
その疑問には、ユーリアが先回りして答えてくれた。
「将軍の配下はみな彼に心酔しています。ほとんど私兵集団のようなもの。彼さえその気ならいかようにも動くはずですよ」
ここらへんが落としどころだな。
チャンスをもらえただけでもよしとしよう。
あんまり欲張ってユーリアの機嫌を損ねたらそれこそベスに被害が及びかねない。
1年生なのに地獄の実地演習送りとかね……。
わたしはユーリアに武具の提供を約束した。
武具の引き渡し時期や方法などはまた後日、ということになった。
200の援軍については、数日もあれば遠征準備が整えられるとのことなので、わたしがミルトンに帰還するときいっしょに連れ帰ることにした。
討伐大会で確保できた冒険者が100。
ユーリアからの援軍が200。
これで失われた300のアミリアヌス兵の穴を数の上では埋めることはできる。
いや、質を考慮したら戦力は断然増しているはずだ。
学生たちは、弱兵揃いだったアミリアヌス兵とは比べ物にならないほど強い。
戦闘員としてはぬるい魔術兵たちだって、魔術師としてはそれなりに実力があるみたいだし、わたしがガチで作りこんだ防具を着せときゃ、そうかんたんには死なない。
後ろのほうで魔力が切れるまで固定砲台やらせとけば役に立つだろう。
最初は頼りなくても、生き残っていけばどんどん強くなっていくのはミルトンの冒険者が証明済みだし。
だけど、これで足りるんだろうか?
なにしろアミリアヌス兵がいたときよりも魔物の数は増えている。
激増した、と表現してもいいくらいに。
防衛は多少楽になるかもしれないけど、ジリ貧なのは変わらない。
守っているだけでは、いずれ耐えられなくなる時が来る。
必ず来る。
攻める必要がある。
やっぱり、リュドミラが正解だったのかもしれない。
敵の本拠地にカチコミをかけて、魔物の発生源を叩く。
それしか根本的な解決にはならない。
頭はおかしいけど、事の最初の最初にそれを見抜いていたんだからすごい。
だからわたしは精鋭のディ・ソラリ軍が欲しい。
カチコミをかけるとなると質、量ともに必要になるからだ。
にしても。
やっぱり、おっぱいバインバインは必要だったじゃないか!
あのときディ・ソラリ兵の機嫌を取っておけば説得で有利に働くかもしれないのに!
まったく。
接待ってのはいつの時代も結局エロなんだよ。
―――
話がまとまると、ユーリアは使用人に命じてお茶を持ってこさせた。
当然、わたしの分はない…………あるの!?
「ふふ。これまで親方はお客人でしたから。王家の者は客に飲食物を出してはならないのです。ですが、もう親方は大切な取引相手。対等な立場であれば、お茶くらい出さないと失礼でしょう」
「あ、そうですか。大変っすね王家も」
わたしはアホみたいな感想を述べて、お茶をすすった。
この香り、この温かい湯気。
さすが王女、いい茶葉もってんなー。
あー落ちつくー。
「もし将軍に断られてもお気を落とす必要はないのでは?」
「ほえ?」
「ドワーフとの約定のことです」
「???」
なんだぁ……?
まだシビアな神経戦が続いているの……?
終わったと思ったのに……。
もう疲れたんだけど……。
ユーリアはくすくすと笑う。
「警戒なさっているのね。よいことですが、もう協力関係にあるのですから隠すこともないでしょう。わたくしは『王都からの来援があればドワーフも軍を出す』との約定と聞き及んでおります」
「あ……? そ、そうです! さすが王女様! お耳が高くてあらせられましまし!」
いかん、あわてすぎて敬語が次郎系みたいになっちまった。
ドワーフの援軍があったんじゃないか!
そんなのすっかり忘れてた……。
自分の手柄じゃないからか、あれから色んなことがありすぎたせいか。
あれは一応密約のはずなのに、バレバレか。
まあ、アミリアヌスにもバレてたしね。
「ドワーフは野蛮で下賤な種族ですが、約定は守りますから。来援は確実でしょう。数の心配はなくなるのではありませんか?」
なんか言い方がちょっと気になるけど、たしかにそうだ。
どれくらい兵士をだしてくれるのか数はわからないけど、ドワーフなら廃都のマップにも詳しいだろうし、侵攻の戦力としては最高だろう。
なんつーか、忘れてただけに、めちゃくちゃうれしい。
引き出しにしまったまま忘れてたお金がうっかり出てきたくらいうれしい。
しかし……。
ユーリアの「野蛮」とか「下賤」という評価もそうだし、ルイーズも「好戦的」って言ってたんだよなあ。
この世界のドワーフの評判、あんまりよくないな……。
いいや、かまわん!
野蛮で下賤で好戦的?
けっこうけっこう。
むしろ頼もしくなってきた。
ついでなら残虐という性質もつけてくれてもいいぞ。
戦士はそれくらいじゃないと!
―――
長い滞在が終わり、魔術学校を出た。
思ったより長居してしまったらしく、すっかり夜になっていた。
夜空は雲がち、頼りない灯で街は薄暗い。
だけど、わたしの目の前はぴっかぴかに輝いてる。
魔術師200ゲット!
うぇーい!
ドワーフ軍もゲット!
うぇうぇーい!
さらに、うまくいけばディ・ソラリ軍までゲット?
うぇうぇうぇーい!
揃ってきたぞ、戦力が。
ひさびさに未来が拓けてきた気がする。
こんなに希望が湧きおこってくるような気分、マジでひさしぶりだ。
そんなわけで、わたしは完全に油断していたのである。




