88話「魔術兵3」
クビ吊られずに済んだ!
けど、増援の件はまた振りだしに戻った。
ここでがんばって王女を説得しても、使えない集団を引っ張ってこれるだけで、それじゃただ死体候補を増やすだけだ。
意味がないどころか、ムダなコストが増えるだけ。
なにしろ死体を処理するには、棺を用意したり穴を掘らせたりといろいろ費用がかかるのだ。
300の死体を丁重に処理する責任者をやった経験があるからわかってる。
わたしはそんなことやりたくなかったんだけど、
「あんた三部会の代表者だろ!? 街の責任者だろ!?」
と住民のみんなに詰め寄られたもんでしかたなく……。
あと、こんなの連れて帰ったらリュドミラに「ザコ集めてきてナメてんの?」とか罵られそうだ。
わたしがあからさまにがっかりしていたせいか、くすくす、とユーリアが喉を鳴らした。
「本当に正直なお方ですね。少しは表情を隠すことを覚えないと、この先苦労いたしますよ」
「あ、はい。がんばります……」
「でも、よかったですわ。あなたの兵を見る目が確かで」
「見る目、ですか」
なにしろ『鑑定』で人のステータスを丸裸にできますんでね、でへへ。
スキルさえあれば誰でもできます。
「まさか防具の不備から弱さを看破なさるとは思いませんでしたけれど、さすが一流の鍛冶師は目の付け所が違いますね。これで、わたくしも安心して『本物』の魔術兵をご覧にいただけます」
「『本物』の魔術兵……?」
「ええ」
ユーリアは思わせぶりに微笑む。
「明日、またお時間を頂きます。ご案内したい場所があります。長旅でお疲れでしょうから、今日はゆっくりお休みになってください」
どこぞのグルメ新聞記者みたいなことを言って、ユーリアはシェリルを呼びつけた。
あ、これは謁見終了のフラグだ。
だが、わたしはまだ目的を果たしていない。
帰るわけにはいかない!
「あぁ、そうそう、大切なことを忘れてはいけませんね。そのときにエリザベス嬢と再会できることを、お約束します」
わたしはもう目的をほぼ果たした。
帰ろ。
東屋から出た。
ふう。
冷や汗で下着までびっしょりだ。
今度から偉い人と会うときは特殊効果「制汗」がついた服を着てこなきゃ。
ほんとに開発できたら、売れるかな……?
―――
魔術兵団の兵営を出て、シェリルの先導で新市街の宿場町に向かった。
そこでシェリルが道に迷った。
颯爽とした馬上姿のまま平然と進んでいくものだから、しばらく気づかなかった。
だけど……。
四角い区画を4連続で左折して元いた道に戻ったところで、ようやくわたしは「この人迷ってるよね……?」と気づいた。
まあ、貴族階級の人が大衆的な宿場町の地理に詳しいわけないからしょうがないんだけど、クールな態度のまま自己申告もせずに迷い続けるのはやめてほしい。
「迷ってますか!!!!!????」
「迷っていません!!!!!!」
「さっきから、おんなじとこ、ぐるぐるしてますよ!!!!????」
「迷っていません!!!!!!!!」
前の馬と後ろの馬車でやりとりをするので、自然と大声になった。
べつに険悪になったわけではない。
と、小さなトラブルはあったものの、宿に到着した。
王女の取ってくれた宿だからさぞ豪華な宿だろうと思いきや、すっげー普通だった。
どこにでもありそうな、ミドルクラスの宿だ。
まあ、あまり目立ってもらいたくないんだろう。
こっちとしても、人目を引いて王女の敵対勢力に目をつけられるようなことは避けたかったからちょうどいい。
寝る前に作戦会議をした。
作戦会議というほどのものではないけど、明日以降は自由に話し合えるタイミングがあるかどうかわからないので、行動方針のすり合わせをしたのだ。
ベスに会うまではおとなしくする。
ベスに会えたら現在安全かどうかを確認し、わたしたちと来たいか、王都に残りたいか意思を確認する。
王都に残りたいというなら、その意思を尊重する。
わたしたち自身の安全に気をつけつつ、増援の交渉に専念するだけだ。
もし、またミルトンで暮らしたいと言うのなら、ベスを連れ出せるように努力する。
そこから先は王女陣営の出方にもよるから成り行き任せ、臨機応変に対応していく。
「ヨシ姉。それって、無計画と言わないか?」
そうとも言う。
臨機応変はノープランと同義語。
ユーリアがなにか交換条件を出してくることは十分考えられる。
よほどのことでない限り、条件を飲むつもりだとわたしはみんなに告げた。
「もし断られたら、どうするんだ?」
テルマは固い表情だ。
「そんなん決まってるよー、強行突破すればいい!」
「はいダメダメ。それはダメだからねエリン」
「えー。じゃああきらめるのー? せっかく王都まで来たのにー」
「王都だから。ディ・ソラリとかレベッカがすっ飛んで来たら危ないでしょ」
「たぶんあたし勝てると思うよー?」
いかん、こやつ増長しておる……。
戦闘力が飛躍的に伸びるにつれて、比例するように脳筋に拍車がかかってる気がするけど、だいじょうぶかこの子?
「勝ててもダメ」
何十人もの兵士が守っている城門を破らなきゃ王都から出られないし、モタモタしているとすぐに増援が何百と来るはずだ。
そして、万が一門の外に出られたとしても、王国軍が追撃してくる可能性が高い。
それではベスを危険に晒しすぎるし、今後の展開も絶望の未来しか浮かばない。
それに、なによりも。
「わたしたちが危険になるような無茶は慎もう」
「えーでもー」
「でもじゃない。エリン、自重するって約束して」
「……わかったー」
この3人がいなければ、わたしはこっちに来て3分で死んでた。
それから素性の怪しいよそ者のわたしを受け入れ、ずっと面倒に付き合ってくれた。
その恩義だけは忘れない。
この3人の安全が最優先。
それはわたしの中で絶対だ。
ベスのことはかわいく思っているし、境遇を気の毒にも思うけど、優先順位はなにがあっても変わらない。
「なにがあってもここにいる4人の安全を優先する。それでいい?」
みんなはうなずいた。




